「G型大学」か「L型大学」か? 議論における真の問題点とは?

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1.「G型大学」?「L型大学」?

最近、「G型大学」と「L型大学」という言葉が注目を集めている。初めてこの区分を唱えたのは、株式会社経営共創基盤代表取締役CEOの冨山和彦である。冨山は、9月19日の「第1回まち・ひと・しごと創生会議」で、今後の日本社会を、全世界的に経済が動く「Gの世界」と地域ごとに経済が循環している「Lの世界」の2つに分けた。

そして、10月7日の「第1回実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で、日本の大学をグローバルなエリートを育成する「G型大学」と職業訓練を実施して地域の労働者を育成する「L型大学」に改編すべきだと主張した。

彼の主張がニュースで取り上げられると、L型大学では英文学部で観光客向けの知識や語学、法学部で大型特殊第二種免許を指導するなど、冨山の参考例ばかりがセンセーショナルに伝えられた。その結果、「大学は職業訓練学校ではない」、「大学が多すぎるのだから理論ではなく実用的な知識を教えるべき」といった議論全体を踏まえていない意見が賛成・反対両方で見られた。

しかし彼は、単に大学で職業教育を行えばよいと主張している訳ではない。実際冨山は、「第1回実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議」で「職業訓練の高度化を専門学校、専修学校の看板の架け替えに矮小化すべきではない!」(1)と明言している。

では、大学教育はこれからどのようにあるべきなのだろうか? このコラムでは日本の大学の今後について考えてみたい。

2.大学教育において重要とすべき点とは?

冨山は、第1回まち・ひと・しごと創生会議で、生産性を改善しサービス業などを発展させないと、拡大を続けるLの世界の経済は成長しないと指摘した。そこで彼は、技能を習得する場としてL型大学を活用すべきと主張したのである。

確かに冨山の意見は、経済的な効率ばかりを優先してしいるという印象を受ける。しかし、これまでの大学教育が「役に立たないからこそ価値がある」と開き直ってしまい、大学進学率が上昇し、経済構造も変化しているにも拘わらず、旧態依然の姿勢を続けてきてしまってはいなかっただろうかという疑問も感じる。

よく、英文学科など文学部の中でも文学研究をする学科は役立たないといわれることが多い。しかし、例えば文学作品を勉強すれば、長文を読む力がつき、教養人が使う作品から引用された名言を真に理解することができるようになり、論展開や洗練された表現なども学べる。もし実践的な語学力を身につけさせたいのであれば、実際に演劇を視聴してみる、外国語でレポートを書かせるなどの授業を行えばよいだろう。

そして、単にビジネス表現を詰め込むのではなく、語学力の達成度の目安としてTOEICなどの語学試験を活用できるようになれば、就職の際にも役立つ。日本文学科であれば、教授とのやり取りで使われるメールの表現を添削したり、授業後の飲み会で礼儀作法を教えたりするなどをすればビジネスマナーが身に付くのではなかろうか。他の学部や学科でも、いくらでもスキルを伸ばす機会を作れるはずだ。

冨山は、現在の大学教育は経済成長に寄与していないという問題提起をしている。しかし、単に実学と虚学という不毛な二項対立を行い、「今の大学の数は適当か」、「理論か実践力か」という議論をしてしまってはいないだろうか。

彼が主張しているのは、大学は変わるべきということである。職業教育というのはあくまでもその方法なのである。もし批判したいのであれば学問の実用性と必要性を訴えなければならないだろう。そして、現在の大学のあり方に疑問を感じている識者も、表面的なカリキュラムを見るだけでなく、一般教養からゼミ、課外活動まで全てを考えてから改革の方向性を改めて検討する必要があるはずだ。

3.これから大学が生き残っていくためには?

大学教育の方向性を巡る議論では、教育がすぐに役立つものとまったく役立たないものに分けられがちだ。しかし、教育活動は実用的なスキルからマニア的な知識や公式、深遠な思想までグラデーションのように繋がっているものである。

従って、「L型大学に賛成か反対か」ではなく、大学教育に従事する人間と外部の人間が互いに心を開き、即時的な有用性も訴えつつ、一見役立たそうな、しかしながら世の中に何らかの意味を持ちうる研究も行えるように議論を続けていくことが大切なのではなかろうか。

「大学の自由が脅かされる」と身構えるのではなく、これを機会に大学のあり方をもう一度問い直せれば、G型大学だけなくL型大学であっても、地域に必要とされる場としてこれからも残り続けることができるだろう。

■注釈
(1)冨山和彦「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」、文部科学省『政策・審議会 審議会情報 調査研究協力者会議等(高等教育) 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議 これまでの議事要旨・議事録・配布資料の一覧はこちら 第1回 配布資料 4.配布資料 資料4 冨山和彦委員提出資料』、p.6、2014.10.7。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdf
(2014.11.3閲覧)

■参考文献
冨山和彦「我が国の産業構造と労働市場のパラダイムシフトから見る高等教育機関の今後の方向性」、文部科学省『政策・審議会 審議会情報 調査研究協力者会議等(高等教育) 実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する有識者会議 これまでの議事要旨・議事録・配布資料の一覧はこちら 第1回 配布資料 4.配布資料 資料4 冨山和彦委員提出資料』、2014.10.7。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/061/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2014/10/23/1352719_4.pdf
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