どうして「在籍料」が生まれたのか――来年度から変わるICUの休学制度、その背景とは

kyiugaku12月3日、休学費・留学費を廃止し、在籍料を新設するという方針を示したICU。在籍料は1学期3万円、1年間9万円となったが、この新“休学費”への移行には、いったいどのような背景があったのか気になるところだろう。そこで、学修支援担当副部長である、数学メジャーの鈴木寛先生(以下鈴木)と教務部長の小路昌明さん(以下小路)にお話を伺った。

 (※インタビューは再構成済み)

 

――新しく在籍料を設定することになった経緯を教えて下さい。

鈴木:学生が休学する理由の多くは、体調不良や家庭の事情などで学業が継続できなくなったり、精神的に不安定になったりして休学せざるを得なくなってしまったことが原因です。今までは学費の3分の1という高額な休学費のため、休学ができずに無理をしてしまった結果、成績不良や卒業の遅れ、経済的な負担が重なり退学してしまう学生もいました。また、標準在籍期間を過ぎると奨学金を受けられなくなってしまうことも、経済的な困難を抱える学生にとっては大きな打撃でした。

今回の変更は、こういった大学のシステムが弊害となって、学修を断念せざるを得ない状況にある学生を、大学として放置してはいけないと判断して、休学費・留学費を廃止し在籍料に移行することが決まりました。

 

――休学費が高いという意見は、学生から出たものだったのですか?

鈴木:今までも休学費や留学費が高いという学生の声はありました。また、私自身も以前から合理的な理由のない、高額な休学費に疑問を抱いていました。しかし、その意見が積極的な要望や嘆願書など、まとまった形として出たことはないと思います。

休学費の問題に真剣に取り組まなければいけないと感じたのは、学修支援担当副部長に就任してからです。私の担当した何人もの学生が、体調不良等で休学せざるを得ない状況にも関わらず、休学費が障害となって無理をし、さらに状況を悪化させてしまうこともありました。学長も、このような学生たちの負担を減らすため、すぐ他大学の状況の調査を実施し、在籍料への移行を決断しました。

 

――それではなぜ、今までICUでは休学費や留学費を徴収していたのでしょうか?

鈴木:以前ICUの学費が安かったころは、国公立を含めてどの大学も休学費や留学費を設定していました。しかし、2000年ころから、合格して入学しない場合の授業料返還などの従来の料金制度を見直す試みが国公立大学で急速に進みました。それに倣い、私立大学でも休学費を廃止し始めたことも、今回の見直しの背景にあると思います。また、以前は社会全体が「休学」に対して寛容でなかったというのも、休学費を取っていた理由の1つかもしれません。

 

――1年間で、大体何人の学生が休学制度を利用しているのですか?

小路:データは人数ではなく学期数で出しているのですが、2013年では、休学や私費留学を含めた全体の延べ学期数は136学期です。多い休学理由としては「健康上の理由」が20学期、「卒業要件をすでに満たしている」が20学期ほどです。その他の理由としては、インターンや海外ボランティア、就活などがありますね。

 

――在籍料によって、休学と復学を繰り返すことがより可能になったと思うのですが、学生1人あたりが休学できる回数は決められているのでしょうか?

小路:学則第56条によって、通算2年以上にわたる休学はできない、と決められています。休学は学期単位に申請しますので6学期までは通算で休学することは可能ですが、6学期を超えての休学はできません。

 

――これから休学する学生は増えていくと思いますか?

鈴木:増えるのではないでしょうか。短期留学やインターンなど、今まで休学費がネックとなってできなかった活動ができるようになることで、学生が自分のやりたいことを見つけ出すチャンスが広がるとは思います。2年間の休学期間を使いきってしまう人が、今までよりも更に多くなるでしょう。休学が必要な時に休学期間が残っていないということにならないよう、上限に注意しながら有効に使って欲しいですね。

 

――在籍料の設立によって、休学を申請する手続き等に何か変更点はありますか?

小路:特に手続き等の変更点はありません。

 

――休学費廃止によるデメリットを教えて下さい。また、解決策等はあるのでしょうか?

鈴木:休学費から在籍料になることで、大学全体の収入は多少減ると思います。しかし、今回の改革により、退学する学生が減少するとも考えられるので、デメリットの判断は難しいですね。現時点では予想していない課題も生じるかも知れません。

 

――これから大学として新しく設立したり、変えたりしていこうと考えているシステムはありますか?

小路:新しいシステムを作り出す予定はまだありませんが、今あるものに関しては、常に分かりやすい仕組みや手続きにしていこうと考えています。来年度からメジャー選択手続きや、メジャー変更手続きが変更されますので、ポータルやお知らせ等をよく見ていてください。

鈴木:新しい企画や、改善しなければいけないことはたくさんあります。まずは、この制度改革が生かされ、学生の皆さんにとって選択の柔軟性が広がり、ICUでの学びがさらに充実したものとなることを願っています。

 

――ありがとうございました。

 

体調不良や成績上の理由以外でも、今まで高い休学費がネックとなって休学を諦めていた学生も多いだろう。他大学が次々と休学費を廃止していくなか、この変更により、やっとICUも学生の金銭的負担にも目を向け始めたと言える。しかし、休学費問題も経済的困難を抱える学生と大学が実際に直面して初めて、具体的に浮き彫りになったものである。

何が必要で、何が不必要なのか――。既存のICUのシステムにおけるメリットやデメリットについて学生と大学が更に知り、話し合う場が、今まさに必要とされているのではないだろうか。