那須キャンパスで進行中の太陽光発電事業に迫る 【後編】現地視察会 事業内容インタビュー
|【前編】管財グループインタビュー(http://weeklygiants.co/?p=1063)
3月30日(月)に実施された那須キャンパス太陽光発電所現地視察会には、弊社からも3人の社員が参加した。視察会では関係者の方へインタビューをするとともに、発電設備を見学した。今回は、そのインタビュー内容を掲載する。事業の概要は本連載前編の記事を参照していただきたい。見学の様子は、次週以降に掲載予定である。
(※インタビューは再構成済み)
・インタビューにご協力いただいた方々
教養学部長 伊東先生(以下:伊)
物理学メジャー 岡野先生(以下:岡)
理事長補佐 出澤さん(以下:出)
管財グループ 千保さん(以下:千)
プロジェクトマネジメント実施 株式会社インデックスコンサルティング 担当者(以下:イ)
施工実施 大栄電気株式会社 担当者(以下:大)
――那須キャンパスで太陽光発電事業を行う目的を教えてください。
出:このプロジェクトは、東日本大震災で被災して遊休地になっていた那須キャンパスを活用した収益事業です。実施の目的は、ICU環境宣言の実践、ICUとしてのCO2削減への貢献、遊休資産の活用と活用により生じる収益の教育への還元の3つです。
二酸化炭素を削減することでICUの環境宣言を実践することができ、政府の再生可能エネルギー推進政策とも合致します。太陽光発電事業に取り組んでいる大学はICUを含めて4校しかないため、これから宣伝を進めていきますし、この事業に関する問い合わせも今後増えていくと予想されます。
伊:この事業を通して、学生の環境問題に対する意識を高めることができます。今回学生を視察会に呼んだのもエネルギー問題に対する関心を深めて欲しいからです。今、世界中で様々な再生可能エネルギーの活用計画があります。ICUでも学内にしっかり周知させ、大学全体の意識を変えていきたいです。
――太陽光発電事業は採算がとれるものなのですか?
出:固定価格買取制度が開始し、20年間一定の価格で地域の電力会社に売電できるようになりました。そこで、遊休地になっていた那須キャンパスでの太陽光発電事業を検討しました。太陽光発電を20年間続ければ、収入の総計が約17億円で、9億6千万円ほどの利益が見込めると試算しています。利益は大学に還元し教育環境の向上に充てられるほか、一部は那須キャンパスがある那須町に寄付することも考えています。
千:収益については問題ありません。この事業では、モジュールの周囲に雑草が生えてくる可能性や、警備システムの費用などのメンテナンスコストも考慮して収支を試算しています。固定価格制度が終了した20年後は、収益が見込めるのであれば事業を継続します。採算が合わないのであれば撤去しますが、その際の撤去費用もあらかじめ計算に入れています。
――太陽電池モジュールの寿命はどのくらいですか?
イ:モジュールには結晶系のシリコンを使用しており、可動部分はありません。発電効率は20年後には1割ほど経年劣化する可能性もありますが、半永久的に電気を生み出し続けることができます。
岡:技術者にとって20年後の予想をするのは困難なことです。現在の工業製品は、20~30年後の劣化度合いを加速試験によってある程度は予想できるようになっています。しかし、寿命を完全に知ることはできません。太陽光発電事業を実施するのであれば、良い面ばかりを見るのではなく批判的に問題点を検討する必要があります。
――太陽電池モジュールの寿命を長くする工夫について教えてください。
イ:劣化を考える必要があるのはケーブルやモジュールのコマといった部分で、リスクを考慮すべきなのはモジュール内部への水蒸気の侵入やモジュール内の成分についてです。モジュールの厚さは、3.2mmくらいで1m上から500gの鉄球を落としても割れないように設計されています。鳥が鋭利なものを運んでこない限り、壊れることは基本的にはありません。
大:太陽電池モジュールは雪に埋もれないように地上からは高い位置に設置されており、雪を落とすために約20度の傾斜がついています。敷地内の地面は砂利であるため、モジュールに埃がついてしまうこともあります。しかし、発電効率を計算する際には汚れも折り込み済みですし、埃などは雨が降れば流れてしまうようになっています。
――今後、太陽光発電事業が成長する可能性はあるのでしょうか?
出:ICUが那須キャンパスの太陽光発電事業を申請した際は、電気の買い取り価格が1kWhあたり36円でした。しかし現在では、10kW以上の場合は1kWhあたり29円+税(2015年7月からは27円+税)になったので、今後は安定したメガソーラーでない限り、ほとんどの太陽光発電事業は利益を出すことができません。したがって、次なる収益形成は考えていません。
――三鷹キャンパスで太陽光発電を行う計画はありますか?
出:三鷹キャンパスにある建物のうち、現行の建築基準法に準拠していて太陽電池モジュールを設置できるのは、ERB-I、ERB-II、図書館のオスマー棟、新寮3棟だけです。これら全ての屋根に太陽光発電装置を設けても発電量が少ないために投資対効果がありません。電力会社の高圧電源から電気を購入した方が安価です。しかし大学としては、再生可能エネルギーの積極的な導入は重要な課題になっています。これから新規に建設する建物には積極的に太陽電池モジュールを設置したいと考えています。
岡:エネルギーの変換効率が100%にできるのであれば三鷹キャンパスでも可能性はあります。しかし変換効率の理論限界値は、現行の方式では33%と推定されており、いまだに超えられていません。変換効率が45%程度のモジュールもあるのですが、約100倍のコストが掛かるうえに自然環境に有害なため、あまり普及していないのが現実です。
――三鷹キャンパス内への太陽電池モジュールの導入を目指していた学生団体であるCEVen Tokyoについてはどのように考えていますか?
伊:先程出澤さんが話してくださった三鷹キャンパスの課題については、CEVen Tokyoの学生にも伝えました。代表の学生諸君は、話し合う場ができて良かったと語っていました。また、クラウドファンディングという手法で資金を集めようとしていたことに対しては、問題性があることへの認識が低く先走ってしまったと反省したようです。彼らが実施していた「大沢電力」プロジェクトは終了するとのことですが、大学と学生がエネルギー問題について一緒に考える機会を持てたのはよかったのではないかと思います。
――ありがとうございました。
視察会では、完成したばかりの太陽光発電設備を見学することができ、関係する方々から収益性や技術、将来の計画など多岐に渡る話を伺えた。6月30日(火)に東京電力との連系工事が完了し、発電事業が開始する。事業開始後も、発電実績や教育事業への還元の状況などに注視していきたい。