[紙版最新号掲載記事]「ちょいと喫煙者の話を聞いておくれよ」

最新号、テーマは「合理性信仰に中指を突き立てる」

 9月30日、 R-Weeksに合わせてジェンダーをテーマとした前号の発行から実に3ヶ月、The Weekly GIANTS No.1255が発行された。

ガッキ、図書館、本館入り口で誰でも手に取ることができる。

見出しにもある通り、テーマは、昨今ますます加速していると感じられる「コスパ」「タイパ」第一主義への異議申し立てだ。

これを完全に否定はしないし、安易な逆張りには走らない。それでも、これら「合理性」への志向性と反比例して矮小化されがちな諸価値を、私は、私たちは、大事にしている、そうした各筆者の訴えが込められた記事がまとめられた最新号となっている。

ここに、最新号の中から一つの記事を抜粋して掲載する。身近かつ、有無を言わせず「合理的な正論」を投げつけられがちなトピックについて、もう少しだけ違った見方をしてみよう、と思わされずにはいられない秀逸な寄稿コラムだ。どなたにも一読の価値ありだと思う。

 

*****

 

「ちょいと喫煙者の話を聞いておくれよ」

喫煙場所の廃止・変更計画:
現在  喫煙場所は5ヶ所(D館3箇所、スポーツクラブハウス(以下、SCH)、本部棟)
2021年4月19日 喫煙場所を3ヶ所とする。(本部棟2階、SCH、新喫煙所*)
2021年9月   喫煙場所を2ヶ所とする。(本部棟2階、新喫煙所)
2022年9月   喫煙場所を1ヶ所とする。(新喫煙所)
*2021年4月19日 新喫煙所運用開始
施設利用可能時間:午前8時~午後8時(内30分の清掃を午前/午後)
施設利用可能定員(同時):3名 但し、コロナ禍における措置
 
(2021年4月9日発表 公示 「学内禁煙の推進計画と新喫煙所の運用について」より)

 ……こういうときに英語のHi!に相当する日本語があればなと、しみじみ思います。今回WGの知り合いからコラムの執筆を打診された、喫煙者の馬場です。とはいえ本名は馬場じゃないですが。寮に入って2分くらいでいつの間にか名字を勝手に変えられ、そのまま数年経ちました。まぁ定着したしこういうときに偽名使えて便利なので結果オーライです。バレるとこにはバレますが。

 さて、今回のコラムは実はこれで三つめの草稿なんですが、「喫煙者の目線で話をする」という意識で書いています。一つめは譲歩寄りの客観的視点で書いたらへりくだりつつ皮肉っぽくなり、二つめは強めに主張を書いたらケンカ腰の文になってしまいました。そこで三つめの本稿では、こちら側が喫煙者目線で話をし、読者の皆さんが煙草を吸おうが吸わまいが、好きだろうが嫌いだろうが、耳を傾ける形で読んでいただけたらいいなと、こういう調子で進めます。

 まずは、喫煙所がないのはつらいな~、という話をします。冒頭に公示を引っ張ってきて載せました。そう、はじめは喫煙所それなりにあったんですよ。新Dの三省堂横と、3階の郵便局の真上にあたるとこ、旧Dの中庭とSCH。あと、多分職員の方が多く使われるんでしょうけど、本部棟2階ですね。本部棟の喫煙所を使ったことがある友人は「あそこはまず学生は行くことないだろうなー、分かりづれぇし」と言っていました。というわけで実質、学生が多く使っていたのは本部棟以外の四つですね。さて公示をご覧ください。2021年4月19日、新旧D館の喫煙所が全滅しました。今は無き(亡き)D館喫煙所たちを思い出して話をしますが、実はそれぞれ違った良さがあって、喫煙者は使い分けてもいたんです。

 僕の例を挙げさせてもらうと、まずは一番メジャーだったのが三省堂横の喫煙所。よく人が集まり、教職員の方もちらほら。空きコマやら昼休みやらに、バカ山とか花道とかを通る人たちを見ながらよく一服してました。あとは早朝ですね。朝日が昇るんですよ。そうすると旧D前の道がキラキラ光るんです。秋は落ち葉が風に吹かれて季節感をより一層際立たせます。夜になると喫煙者の寮生が知り合う場になるのもいいですね。コミュニケーションが多く生まれるのは、ICUの初期理念にも合致するところがあるのではないでしょうか(ICUは創立当時、キリスト教精神に基づく生活共同体をキャンパス内に築こうとしていました)。

 次は新Dの3階喫煙所。ここは昼を好む人もいますが、僕としては夕方推しです。木々が夕焼けに映えて、月が昇る方向には十字架が堂々と佇みます。ちょっと曇ってるくらいがちょうどよくて、ceroってバンドのボーカルがソロプロジェクトを「Shohei Takagi Parallela Botanica」って名前でやってるんですが、それの「Triptych」っていうアルバムがめちゃめちゃ合うんすよ。まさに「トワイライト・シーン」(アルバムの一曲目)って感じです。昼ならバトルビーツ系とかヒップホップ、ロックもアリなんですが、個人的にはユーミンのひこうき雲とか、井上陽水の少年時代とかがいいですね――。

 最後に、旧D中庭の喫煙所。ここは実は喫煙者でも知らない人それなりにいました。良さとしては正直、言葉で表すのがちょっと難しいんですよね。石庭風の吹き抜けになっているんですが、高い位置から斜めに入る光が壁を照らして、壁際だと光が届かないので紫煙が燻る様子がはっきりと見えます。石に腰かけて煙草を吸う様子を外から見れば、芸術的な建築の要素の一つとして溶け合って日本的な美しさを感じます。伝わる人には伝わると良いのですが、植田正治の写真に近いですね。しみじみと良い場所だったと思います。ひとりになりたい時、ちょっと重めの相談をするとき、何かに思いを馳せたいとき、そういうときにぴったりな喫煙所でした。

 話が大きく逸れてしまいました。すみません。でもこういうところじゃないと発信できないので、許してください。推し事みたいなもんです。では本題に戻します。D館の喫煙所は既になくなってしまいましたが、次はSCH、その次に本部棟の喫煙所がなくなって、制限時間付きの新喫煙所だけが残ります(※2021年9月1日、SCHの喫煙所が撤去されました)。喫煙所は人数フリーの5か所から人数制限付きの1か所になりますが、はたして、それがどのように影響するでしょうか。喫煙所の数は減っても喫煙者が減らなければ、ただただ喫煙者があふれるだけじゃないですかね、僕はそう思います。喫煙所が無くても喫煙者はいるので。実際、新喫煙所が制限人数以上に人がいることもなくはないですし、人が既に3人いるため外で何人も待っていることもよくあります。我慢しろよ、他行けよ、と思われるかもしれませんが、これはふと行ってみた喫茶店が混んでたり、目的地近くの唯一の駐車場が満車だったりする状況と似たようなものです。雨が降ってたり猛暑日だったりしたらたまったもんじゃないですよね。

 さて、そんな状況下で、皆さんだったらどうしますか? 喫茶店の前でおしゃべりしますね、5分で済む用事なら目的地近くの路上に駐車しますね。割とあるあるだと思います。

 さて、喫煙所の場合どうなるでしょう。今のところICUの喫煙者のマナーが良いのでそんなことは起きていませんが、新宿や下北沢などの喫煙所だと外でガンガン吸ってますね。「迷惑だ!!」と感じた男子のみなさんいらっしゃいますか? あなた方もキャンプとかで立ちションしたことありますね? 下手したら野グソも? (ちなみに僕はあります。なんなら墓場の横で。葉っぱでケツ拭くと後で腫れて痛いっすよね)同じ事ですからね。まぁ僕の野グソ話は置いといて、もっと真面目に社会問題的な話をすると、パーテーションの喫煙所の煙の流出、あふれた喫煙者の路上喫煙、ポイ捨てなど、さまざまな問題が出てきています。若者はまだしも、いつでもどこでも煙草が吸えた時代を生きてきた、おじさんおばさん方がまだまだ現役で喫煙者をやっている中、喫煙所というものにやっと順応してきたと思ったらなくなっていくんですもん。、そうもなりますよね。なんなら政府や組織主導で「なくしまーす」で一気に制限されるんですもん。せめて喫煙者に実態を聞いて調査してから、より良くしていけばよかったのにって思います(ちなみにICUでも喫煙所の閉鎖などに関して、学生の喫煙者に対しての聞き取りなどはありませんでした)。

 特に、喫煙者かつ寮生の僕からしたら新喫煙所が朝8時から夜8時までなのは結構きついところがあります。だってみなさん、生活時間って朝8時から夜8時までですか? 違いますよね。学生だもの、ときには夜遅くやら朝やらまでレポートや宿題をやることだってあります。夜だけでも新Dの三省堂横の喫煙所とか復活してもらえないかなって思います。

 話は変わりますが、喫煙所ってどういう場所だと思いますか? 煙草を吸うための場所、それはそうなんですが、それだけじゃないんです。コミュニケーションが生まれ、人脈が広がり、アイデアが生まれ、癒され、などなど、様々な意味を持ちます。あ、これはさっきD館の話をしたときに散々語りましたね。数えたらあれだけで1000字近くあったのでまたゆっくり読んでください。

 これだけ自分の話をつらつらと述べましたが、ここで僕が聞いた非喫煙者の意見について話していきたいと思います。

 まずは「臭い」という意見。これは確かに申し訳ない。煙草の匂いは独特だし、単純に良い匂いとして語られることは少ない。松田聖子がタバコの匂いのシャツにそっと寄り添ったのも、宇多田ヒカルの、タバコのflavorがした最後のキスも、そこに愛なり何なりがあったからこそ。

 とはいえですね、ここで一つ言わせてもらうと、何も臭いのは煙草だけじゃないです。コーヒーの匂いがダメな人もいるし、僕は小さいころから今まで化粧品のファンデーション(多分)の匂いがダメだし、打ち水の気化した匂いも良いものとは言えない。あ、「健康被害がある」という意見もあったのでそれに即して述べると、バスやバイクの排気、工事現場のシンナー臭、そうそう、香水や柔軟剤などの人工的な香りづけによる「香害」という概念まであるそうで。コーヒーの匂いも片頭痛持ちにはキツかったりするそうですよ。こういったものが世の中にはある中、公共の利益や多数の幸福とやらを使って、煙草の臭いにだけ敏感に反応していただくのも、喫煙者としてはちょっと思うところがありますね。まぁ正直税金も払ってるわけですし。たばこ税での収入って、特に地方だとバカにならんらしいですよ。

 加えて多かった意見が「非喫煙者の前で吸わないで」というもの。これこそ僕は社会の動きが真逆に行っているんじゃないかと思います。理由はちょろっと前述しましたが(そう、野グソのとこです)、喫煙所をなくせば喫煙者が減るってわけでもなく、あふれる喫煙者が増えるだけです。公式の喫煙所が無くなれば、人通りの少ないとこでの路上喫煙や、店前の喫煙スペースでの喫煙が増えてゆき、なおさら非喫煙者のスペースに煙が流れてしまいます。そうなるくらいだったら、細かく喫煙所を整備して、煙の流れない場所で煙草吸ってほしくないですか? 喫煙者としても、非喫煙者に迷惑をかけないように煙草が吸えるならもちろんそうしたいですし。

 例えるならば、渋谷の宮下公園と同じです。ホームレスを不可視化するデザインで再開発しても、ホームレスが減るわけじゃないです。マジョリティのためだけの社会でいいのか、多様性や寛容とはどういうことか、ICUらしい話にするとややこしいことになりますが、つまりはそういうことなんじゃないかなと思います。

 話が長くなってしまいましたが、言いたいことは二つ。一つ、喫煙にまつわる文化の良さ。二つ、喫煙者だろうが非喫煙者だろうが、喫煙所があることの利便性。普段責められることの多い喫煙者が意見を発したので不快に思われた方も、反論がある方もいると思います。そこはまぁ、ICU生らしく、受け入れましょ、対話していきましょ。そうやって、お互いにとってより良い社会になっていけばいいなと願い、結びとします。

【馬場】

 

*****

 

「コスパ、タイパ、経済合理性etc.に中指を突き立てる号」というコンセプトの最新号、どなたも手に取って、自由に読み、考え、議論の種としていただければ幸いだ。

The Weekly GIANTSもThe Weekly GIANTS ONLINEも好きなように意見発信できる場と思って、記事に対する反論でも、個人の一意見でも、誰かと共有したい自分の思いでも、世に訴えたいことでも、様々な声を自由に寄せていただきたい。

健全な議論を熱く展開する場としてどなたもWeekly GIANTS Co.を活用、いや利用して頂けることを心待ちにしている。

【編集長・花田太郎】


Add a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。