生理休暇を設ける、羅一等先生へのインタビュー

 今回インタビューさせていただいた羅一等先生は、2021年度からICUの社会学メジャーにて教鞭をとる。羅先生は授業への出欠に関して、生理休暇をルールとして定めている。ここでは、生理休暇を設けるに至った経緯や先生の研究内容に関して伺った。筆者によるPMSと授業に関するコラムは、前記事を参照いただきたい http://weeklygiants.co/?p=10361

生理は社会問題であるということ

ーーはじめに、生理休暇を設けるに至った経緯についてお聞かせください。

小学校の性教育での経験

 生理を社会的な問題として認識したきっかけが、小学六年生の時の小学校での性教育でした。女性の若い担任の先生が生理の話をして、ナプキンを配りました。男女同じ教室で同じ話を聞いて、その場で女の子にだけナプキンを。そうすると、やはり恥ずかしいからそれをどうしたら良いかわからなくて、机の上に置いたまま、恥ずかしがる女の子がいっぱいいた。それを見て、担任の先生が怒ったんです。早くしまいなさいと。私はそれを見て、何で怒るんだろう、それって恥ずかしいことなのかな、あれって思いました。しかも男性の先生でもないし、女性の先生なのに。そこが初めて、これは社会的な問題なんだって思った経験です。その記憶はずっと残っています。

彼女の生理の経験

 大人になって彼女ができて、実際に生理の問題を身近に、私の問題でもあるように感じるような経験をしました。当時付き合っていた彼女が生理痛がひどい人で、私は到底それがどういう感覚なのかわからない。人間は、わからないことは簡単に解決できると考えてしまう傾向がありますよね。

 彼女を隣で見ていて、こうすれば良いのに、何でもっと努力しないのって私は思って、私の方で積極的に何とか苦痛を和らげる方法を見つけようと頑張りました。そういうのを見て、彼女はあまり乗り気じゃなかった。私が色々やるから、仕方なく合わせてくれる感じで。多分彼女は何年もそういう経験をしているから、できることとできないことがわかっていた訳ですよね。それを私は知らないから、もっと色々試そうという話をして。本当に色々なことをやっていて。例えば、鍼灸針とか、漢方とか。韓国でも漢方は有名だから、わざわざ専門の病院に行って薬を作ってもらって。あれはでも、若干効きました。二か月分作ってもらって、漢方を飲むときは食事制限もするから、あまり身体に良くないものを全部絶って。

 生理の期間になると何もできない、そういう感覚は私には理解できないですね。色々聞いたり調べたりしてみると、体温が下がるので、身体自体も動かないし、気力も起きない状態で。それを考えると、彼女はイライラしないでちゃんと接してくれたのを、有難いなと思います。私が隣でうるさくしても怒らないで。そんな彼女の状態を間近で見たから、それを皆我慢して社会生活をしているんだなと思っています。

ーーICUにはCGS*があったり、昨年度にはオールジェンダートイレが設置されたりと、ジェンダーに関しては取り組みが進んでいるように考えられています。一方で、生理休暇のある科目を見つけたのは初めてでした。

 私が生理休暇を設けたのには特別な理由はありません。必要ありませんよね。当然、当たり前だからです。大学で講義を始めた2015年からずっと、ICU以外の大学でもこの方針です。確かに、フェミニズムの授業でも、それを明示的にルールとして設定していた科目を見たことはありません。でも、それは別に学生側から言えばいくらでも通じるものなのかなと思います。私はルールとして決めているというだけで。他の授業でそれがないというのは多分、これから改善していく必要があるかもしれませんね。でも、多くの先生は話せば、認めてくれると思います。これから私も、機会があればそういう話を先生の間でしてみます。

ーー私は小中高校での経験を通して、先生に話してみるという発想がありませんでした。

 生理休暇が唱えられるようになったのが、90年代ですよね。進んでいる企業で生理休暇のような制度を導入していることがニュースになったりしていて、それを見たというのもあるかもしれないですね。ただ、ニュースにはなっているけれども、実際に社会に出るとそういう制度を設けている企業は少ない。

ーー先生の出欠制度には、生理休暇に関しては証明がいらないと書いてありました。

 そうです。導入している企業でもそうしているように、これは自己申告制です。証明することはできないし、いらないし。

ーーでは、細かい話になりますが、先生の授業での生理休暇は生理日に限るのでしょうか。それとも、PMS等の症状もその対象に含まれるのでしょうか。

 もちろん、含まれます。他人の身体の状態は私にはわからないし。私が話を聞いて決められることじゃないから。質問が真面目ですね。

ーーあはは、すみません。どうしても休むと罪悪感を覚えてしまうところがあって。

 そうですね、それは社会全体の文化なのかもしれないですね。男性の育児休暇とかもそうですが、いくら制度を導入しても、社会の空気が変わらないと取りにくいですよね。

ーー先生のお話を聞いていると、生理休暇は私が思っていたより当たり前に感じてきました。

 生理は身体のハンディギャップなので、他のハンディキャップと同様に配慮するべきです。例えば、足を骨折している人が授業をとるとなると、色々な配慮をします。それと同じことです。生理の場合は、それが傍から見てどういう状況かわからないだけであって。

 こういうルールを決めたのには、こうした文化に慣れさせるという意図もあります。生理休暇のような経験があれば、就職後も少なくとも(現状の働き方や文化に)違和感を持ちながら働くことができる。大事ですよね。これが当たり前であるべきなのに、世間的には当たり前になっていないということに気が付いてほしいというのもあります。

ーー生理休暇を実際に導入する中で、課題はあるのでしょうか。

 私が課題として考えているのが、病欠にするというのは良いのだけれど、その授業をどう補ってあげるか。去年と今年はオンラインだったので、授業を録画して見せてあげれば解決できたのですが、オフラインになった場合についてはずっと考えています。欠席したからといって、何か不利益を被るということはないようにしたいのだけれど、勉強が遅れるというのはどうしても生じますよね。

ーー確かにそうですよね。あとは、グループでのディスカッションやプレゼンテーションのある授業の場合には、また難しい点がでてくる気もします。

 そうなんです。どうすれば良いと思いますか。先生側に何をやってほしい? 

ーー難しいですね。特にグループ学習の場合は、学生同士では体調が悪いと言いにくいようなところがあるので。ただ、きちんとそこを伝えられるようにならないといけないのかな、とも私なんかは思ってしまいます。

 当事者の努力でできるものと、できないものがあるから。何もかも当事者が解決しなきゃいけないというふうに考えなくても大丈夫です。それを自由に話せたり、気楽に相談ができるような空気感をつくるというのは、社会における課題ですよね。そこは社会が積極的に取り組むべき。

ーー学生からの反応はどうですか。

 まず、インチキはほとんどない。噓を言って休む人はいないというのは、もう実証されているから、この制度はもっと積極的に導入されるべきだと思います。それから、生理休暇と言っても、必要な人とそうでない人も様々なので、先程も言ったけれど、休んだ時にどうやって授業を補えるのかということを考えています。一応、質問があればメールででも聞いてくださいとはアナウンスしているけれど。学校レヴェルで、こういう制度を導入してくれたら有難いですね。先生個人でなくて。

女性学の自由な雰囲気

ーーところで、今回私が受講しているのは社会運動論ですが、先生はジェンダーもご専門ですね。

 はい。私の研究分野の一つがジェンダーです。学部時代には社会学科で、ジェンダー、フェミニズムに関するゼミにも参加していました。未だに連絡をとっている先生方の殆どは、フェミニストの先生です。来日した理由の一つも、日本語を練習していた際のテキストに上野千鶴子先生の文章があったことでした。頭の切れる内容で、ロジックがとてもかっこいいですよね。今の大きな研究テーマは若者です。教育とかジェンダーについて研究しています。

 私が今まで勉強してきた女性学の先生方は皆、自由ですごく進んでいる方々でした。例えば生理休暇のような相談があれば、合理的な理由であれば何でも聞いてくれる。多分、そういう先生方は敢えてルールにしなかったんだと思います。生理休暇だけじゃなくて。例えば、上野千鶴子先生のゼミには子どもを一緒に連れてきて一緒に授業を受ける学生も普通にいます。これは、普通に当たり前だから、という感じですよね。何か理由があれば、上野先生は「淑女協定」と言っていました。紳士協定でなくて、淑女協定。例えば卒論とか修論とかがあれば授業は出席しなくても単位は取れますよとか、そういうルールがあったり。あと、上野先生の授業はいわゆるもぐりが多くて。そういう面では自由な感じでしたね。結構なお年寄りで、殆ど最後の趣味として女性学を勉強したいという人もかなりいました。私はなぜか昔からそういう人たちと仲が良くて。今も連絡をとっています。

 私の韓国の恩師・趙韓惠浄(チョ・ハン・ヘジョン)先生が上野先生と同じ研究をしている仲間で。一緒に本も書いています。日本語だと『ことばは届くか』というタイトルで、書簡集が出ているんです。お二人は同い年で。上野先生は女性学と社会学、趙韓先生は文化人類学者。

 趙韓先生は、イメージできないと思うけれど、授業をしません。何を言っているかわからないですよね。本当に授業をしない。教室に入ってくると座って、さあどうぞ話してくださいと。先生はそれを聞いているばっかり。そういう授業をずっとやっていて。でもその授業はものすごい人気があって。不思議な話ですね。そういう授業を受けてきて、私は日本に来たわけです。趙韓先生は有名だから様々な国で講演をしたりするけれど、日本に来て趙韓先生が話しているのを初めて見ました。先生はこういう考えをしている人なんだって初めて知ったんです。趙韓先生はオーラがすごい、何か圧倒される感じがする。ジェンダーに関する授業を履修したことはありますか? 自由な雰囲気ではありませんでしたか?

ーー一年生の頃に「ジェンダー・セクシュアリティへのアプローチ」を履修したことがあります。個人的なことでも話しやすいというか、そういう雰囲気は感じました。

 そうですね。その空気が大事だと思います。

ーー上野先生は韓国でも有名なんですね。

 そうです。趙韓先生の研究分野は若者の教育問題、私の研究分野はやはり先生の影響ですよね。韓国で代案教育、Alternative Educationをずっとやられていて。先生は国から勲章ももらっているんです。

ーー『ことばは届くか』の出版元の紹介文にも、趙韓先生は不登校の生徒のための教育を行っているとありますね。

 そういう風に日本では理解されるのだけれど、それはアメリカのAltenative Educationが日本に輸入されたときに入ってきた、日本独自の解釈です。不登校の生徒の受け皿として。でも、アメリカとかは違って、既存の公教育を代替するような教育、不登校の受け皿はもちろんそうだけれど、教育改革に近い。韓国で趙韓先生がやっている学校も、全く新しい学校です。その学校を卒業すると、例えば社会的企業の創業の支援をしてもらえたりするような学校です。

ーー職業学校、専門学校に近いんでしょうか。

 そうですね。元々は国で運営していた職業訓練センターのようなものでした。工業技術を教えているような、イメージとしては少し暗い感じの。趙韓先生はソウル市の運営するそうした学校の運営を引き受け、中身を全く違うものに変えました。本当に新しい、これからの社会全体に影響を与えるような、新しい企業や仕事を開発する。名前はソウル市立職業訓練センターのままだけれど、趙韓先生は教えている内容を180度変えたんです。それがすごい話題になって、そういう運動で有名な方です。

ーー趙韓先生にも、フェミニズムに関する側面があるんですね。

 そうです。趙韓先生も上野先生も、ちょうど学生運動の時代に青春を過ごした人たちで。アメリカのヒッピーとか、フェミニズムとかの影響をもろに受けた世代です。お二人には対照的なところもありますけどね。

 フェミニズムは学問的な蓄積が随分あって。といっても、これから社会運動論の授業でも扱うけれど、70年代アメリカからです。その代表が、ヒラリー・クリントン。彼女がきっかけで。フェミニズムは理論が面白いし、そういう本をたくさん読むと頭も良くなります。頭の切れる論者たちがたくさんいる、上野先生も含めて。すごいカタルシスを感じる。ずばずばっと斬りますよね。それがかっこいいっていうのもあります。

ーーあまり馴染みがなかったけれど、読んでみたいと思いました。

 あ、おすすめ。上野先生の本もだけれど、もう少し楽しい本で斎藤美奈子さんの本があります。めっちゃ笑えるし、めっちゃ頭が良いし、すごく勉強になると思います。何を読んでもよいので、とりあえず読んでみてください。私は大ファン。勿論この人もフェミニストで、上野先生とも仲が良くて。上野先生に「斎藤美奈子さんが面白いです、大好きです」と言ったら、上野先生もあの人面白いよねと話していました。文章もユーモラスで面白い。たくさん読むし、たくさん書く人。それから文章のレヴェルが高い。

ーー文学系の方ですか。社会運動、フェミニズム、教育と、社会学も扱う範囲が広いですね。勉強になりました。

 質問がまじめでしたね。でも、ICUは学生と先生の距離が近いような気がする。色々なことを自由に話せるような雰囲気がありませんか。なぜそう思ったかというと、私は量的手法、まあ統計学を専門にしていると、いきなり全く知らない学生から連絡が来て統計学を教えてくださいっていうことがあるんです。多分、他の大学では中々想像できないことですね。まあ大学の先生方は皆忙しいからだと思いますけど。でも、連絡してくるのも一人じゃない。ICUにはそういう空気があるのかな、素晴らしいなと。何か気になることあれば、大学の先生を探して連絡を取るということはすごいことだと思います。あなたも今まさにそうですね。

ーーそうですね、突然連絡してしまって。先生方はお忙しいところでも時間を割いてきちんと答えてくてくれる方が多いので、学生からの信頼は高いです。本日はありがとうございました。【Sylvie】

*CGS 国際基督教大学ジェンダー研究センター。「ジェンダー・セクシュアリティの研究に関心がある人たち全てに開かれた新しいコミュニケーションスペース」(CGSホームページより)

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