青空の臨界で ー独占インタビュー:ウクライナ人は今何を語るかー

 2022年2月24日ウクライナが攻撃された。不安、焦り、苛立ち、恐怖、悲痛。そんな感情が脳の処理を上回る速度で押し寄せ、私はただ呆然とテレビに映る映像を眺めた。破壊された街の映像を観れば観るほど、大変陳腐な感情であるが、自身の無力さを痛感した。この戦争にどう向き合えば良いのだろうか。その答えは分からないが、自分なりに出来ることを行おうと思い、あるきっかけで数年前に知り合ったウクライナ在住の友人にインタビューを試みた。ひどく困難な状況にも関わらず、二つ返事で質問に回答することを承諾してくれた彼には感謝申し上げる次第である。良い記事、勇気のある行動。はたまた、偽善、感情を煽るだけの記事。どう受け取るかは個人の自由だ。しかし、この記事が少しでも「戦争」というものを考え直す手がかりとなれば幸いである。

ーー名前を教えてください。

Shilder(プライバシー保護のため偽名)、17歳です。

ーー現在、どこに住んでいますか?

Shilder:ウクライナのへルソン州です。

※へルソン州はクリミア半島に隣接するウクライナ南部の地域

ーー普段は何をしていますか?

Shilder:大学に通っています。戦争の前日まで学校がありました。しかし、24日以降は学校に通えていません。

ーー侵攻が始まった時、あなたはどこで何をしていましたか?

Shilder:家で寝ていましたが、母に起こされ侵攻を知りました。始めは悪い夢ではないかと疑いましたが、その直後に遠くで微かな爆発音が聞こえたのでその疑いは無くなりました。その後すぐに家族と一緒に必需品をカバンに詰め込み、テレビで状況を確認しました。

ーー戦争が始まってからあなたは何をしていますか?

Shilder:外が危険なのでずっと家に籠って、どこで爆発があったか、どこにロシア軍がいるのか等の情報をTelegram(SNSの一種)を用いて集めています。家族や友達とは連絡が取れますが、インターネット回線があまり安定していません。昨日(3月1日)のことなのですが、同じ街に住む私の友達の家のすぐ近くにミサイルが打ち込まれました。幸い私の友達は無傷でしたが、とても大きな爆発音で精神的なショックを受けています。

ーー街の人々は国外へ逃げていますか?

Shilder:初日に多くの人々が街から離れていきました。侵攻が始まったのが朝の5時30分頃でしたが、既に外では多くの車が街の外を目指して走っていました。

ーーあなたはなぜ家に残ることにしたのでしょうか?

Shilder:戦争がそこまで長引かないと思っていたからです。しかしこの街は侵攻が始まった翌日にロシア軍に包囲されてしまったので、どのみち逃げることが不可能でした。現在(3月2日)は街にロシア軍が駐留しています。

ーー多くのウクライナ人はこの侵攻を予期していたと思いますか?

Shilder:多くの人が「ウクライナ侵攻」はデタラメや悪い冗談で、実際には起きないだろうと思っていました。私も同様に考えていたので、本当に起こってしまったことが信じられません。

ーー戦時下で、一番大変なことはなんですか?

Shilder:正常な精神状態を保つこと、正気でいることです。(ミサイルによる)爆発が起こった時、パニックで頭が真っ白になり、誤った行動を取ってしまいがちです。しかし一瞬の選択が生死を左右することとなるので、正気を保ち、冷静に判断を下すことが非常に重要です。

ーーあなたにとって平和とは何ですか?

Shilder:凄まじい爆発音に起こされず、安眠できることです。

ーーあなたが描く明るい未来はどのようなものですか?

Shilder:国に関して言えば、ウクライナが勝利することです。そして個人的には、なにより彼女に会いたいです。あと日本にも行きたいですね(笑)。

ーー最後の質問です。何か伝えたいメッセージはありますか?

Shilder:そうですね。沢山あって難しいのですが、今強調したいのは全てのロシア人を憎まないでほしい、ということです。現在、世界中のロシア人が批判の的になっていますが、その全員が戦争を望んでいるわけではありません。反対の立場を表明する人も、心の中で戦争をやめてほしいと願っている人も数多く存在します。なので、ロシア人というだけで憎み、悪者扱いすることはあってはならないと思います。

ーー困難な状況の中、ありがとうございました。

 人々の生活がたった一瞬で脅かされる状況の中では、明日どころか10分先の命の保障すらない。しかし、そのような不安定な生活であっても、ウクライナの人々はたしかにそこに存在し、先の見通すことの出来ない霞の中から明日を掴み取ろうとしている。アジアの端の日本に住む私たちにも、目を閉じ、耳を澄ませば、彼らの確かな鼓動と息遣いが聞こえてはこないだろうか。なぜならその戦争は、遥か彼方の国で起こっている訳ではないのだから。

 いつの日か、小麦畑の上に澄み切った青空が戻ることを願って。2022年3月。

【ふかふかフカヒレ】

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