新たな寮の整備か? 既存寮の改善か? 新々二寮建物構想公聴会
|6月12日にダイアログハウス2階の国際会議室で「新々二寮建物構想公聴会」が行われた。新々二寮は第2男子寮と第2女子寮に代わって建てられる寮で、新たにLLC(Living and Learning Community)というセミナーなどを実施し、学生が集まって学ぶ場が設けられる。
1.新々二寮建設の経緯
公聴会では、まず森本あんり先生と布柴達男先生が新々二寮を建設する経緯を説明した。森本先生は、寮はICUでの生活において非常に大切な場であり、学びと生活が寮では統合されていると語った。ICUは先駆的な取り組みを行ってきたが、長い時間が経てば老朽化し建て替えなければならず、寮の収容人数を増やして将来的には半分の学生が居住できるようにしたいとのことだ。
布柴先生は、寮生の話をヒアリングしていくと各論賛否があり、全員が満足できる寮を建設するのは難しいと述べた。新しい寮を建てるとともに各寮の個性を明確にし、学生が寮を選べるようにしたいので、寮建設の提案書の構想は叩き台だと思ってほしいとのことであった。
2.新々ニ寮の概要
次に会場で配布された提案書の解説がなされた。まず新々二寮は、第3条で自然環境の保全を、第6条で省資源・省エネルギーを目指したキャンパスマスタープラン憲章と合致したものにしなければならない。
寮の1階には、ホール1つ(利用人数100人前後)といくつかのセミナールーム(利用人数15名~20名前後)が備わったコミュニケーションフロアを作り、寮生以外も利用できるようなエリアとして活用する。
寮内には防犯カメラが整備され、寮は来訪者のスペースとは明確に分けられる。LLCは寮のオフィスを中心となって実施する。寮内には共用キッチンもあり、設備は寮生以外にも開放される。また、寮内にコンビニエンスストアを整備する案もある。寮1棟の定員は96名で、男子に1フロア、女子に2フロアずつ割り当てられた4階建てである。
おおまかな案としては、1フロアに4学年から各学年8名ずつ計32名が居住する。以前の寮に存在した制度である寮アドバイザーやネイバー(将来的には寮アドバイザーを担当させる可能性もある学生。名称は仮)も復活させるとのことだ。
3.寮内の監視カメラについて
以後は、学生との質疑応答が行われた。まず監視カメラについて質問がなされた。学生からは、寮でトラブルとなりうるのは外部からの侵入者であり、内部にカメラを設置するのはプライバシーを侵害しうるのではないかという意見が出された。
布柴先生は、自身が想定していたのは寮の入り口を監視するカメラであると述べ、職員は、たとえ警察であっても同意なしには画像を提供しないのでプライバシーは保たれると回答した。
4.LLCと寮費について
別の学生からは、グローバルハウスには当初は授業で使う予定だった新々二寮のコミュニケーションフロアに当たるソーシャル的なエリアが10年前からあったが結局活用されていなかったと指摘があり、LLCの運営は学生の自主性に任せるのか学校が働きかけるのかという質問がなされた。
布柴先生は、LLCは基本的に学生が主体で、教員は適切な距離感でサポートすることが必要だと述べ、ICUサステナブルキャンパス委員会の学生グループがE-Weeksを開催しているように、自主的な取り組みを行ってほしいと回答した。新々寮では環境だけでなく防災についても寮単位で学べるようにしたいとのことだ。
質疑応答では、新々寮の建物の機能について意見を出す学生もいた。彼は、新々寮はバリアフリーを掲げているが、全てのバリアを取り払ってしまえば何も残らないと批判し、建築とは建物ではなく場の創造であり、東大の福武ホールにある安藤忠雄が設計した考える壁のように学生に何かを考えさせる場を設けるべきだと主張した。また、LLCも他大学の模倣であり、ICUは他の大学にはない独自のものを作るべきだと述べた。
ホワイトロー先生と森本先生は、LLCは真似ではないと批判を否定し、森本先生は、LLCは実験する価値があると語った。先生は、LLCに関わるのは96名のごく一部であり、既存の寮でもLLCは行えると述べた。LLCには単位が出され授業としての形を持つが、学生のイニシアティブが大切であるとのことだ。
また森本先生は、ある要求は他の要求と矛盾してしまうこともあり、例えば寮費を下げるためには1つの寮の収容人数を増やさなければならず、門限が不要という学生がいれば、制限があるから安心できるという学生もいると回答した。先生は、他国の方からも寮は監獄みたいだといわれているようであるが、不満があるなら意見をまとめて行動してほしいと述べた。先生によれば、新寮では寮生の希望を受けて今後4年間滞在できるようにするそうだ。
ある学生は、LLCは素晴らしい計画であるが、寮費を割安にしてほしいというのが寮生の希望であり、現在ある新寮のように寮費が旧寮の2倍になってしまっては経済的に苦しい学生にとっては大きな負担になってしまうと述べた。
5.新寮の問題点と新々寮の建て替え計画について
新寮の学生からは、新寮は建設から1年でクラックが生じ、湿気が多いので夏休み中に除湿剤を8~10個入れていたのに、秋学期のはじめにはすべて駄目になっていたと語った。彼は、キッチンの奥にある洗濯小屋に行くためには一度キッチンを通らなければならず、小屋が北向きなので洗濯が乾きにくくなぜ南向きにしないのかと批判した。彼は寮であるならば、建物としての質を最小限は守ってほしいと述べた。さらに、新寮は滞在年数が短いので寮との文化的な繋がりが2年で途切れてしまい、寮の仕組みも先輩を気軽に呼べるようにはなっていないので、退寮後に寮に深く関わりたいという学生が少なく、無関心になりがちだと語った。
別の新寮の学生からは、非常口や転落防止設備など命を守るという点では旧寮から改善されているが、トイレが13個と多く節水を行いすぎて流れにくいと批判があった。彼は、新寮の窓は全部特注で他にも特注品が多くなっているので寮費が高いのではないかと指摘し、新々寮は2つともLLC寮にするのではなく旧寮のような非常にシンプルな寮も必要だと述べた。
さらに、学内では多くの建物を建て替えなければならず、オリンピックも近いので期限を区切るのは重要であるが、1つだけ寮を建てて意見を反映させてから2棟目の寮を建設すべきではないかとのことだ。
彼は、4人の管理者で600人の寮生を相手にするのは無理があり、新々寮を教育寮にするのであれば、行政職員や非常勤を含めた教員のサポートが必要であると語った。寮を増やせば均一化し管理も必要になるが、昨今の情勢では難しいとはいえ学生の自治に任せてもよいのではないかという意見も彼から出された。最後に、新寮の男子寮は定員割れをしているが、96人が1棟に居住する新々寮を建設して需要があるのかという質問が彼からなされた。
森本先生は、ICUの敷地は広大だが寮を建てることができるエリアは限られており、湿気が多いのは教員住宅も同じであると回答した。先生はオリンピックとの兼ね合いなど財政的な面は理事の専門家に任せてあると語り、今の考えではまず新々寮を2棟建て、さらに寮を2棟建設する計画であるとのことだ。先生は、何人入りたいかという割合を出して人数を計算しているため、寮の居住者は十分に確保できると述べた。
6.マイノリティへの配慮と寮の定員、異性と生活する場の減少について
研究生からは、新々寮ではセクシャルマイノリティの意見を踏まえてトイレやシャワーを整備するのは要望が聞き入れられるようになった現れであるが、公聴会だけでなくマイノリティの意見を聞く場を作る必要性があると語った。
ある学生は、新々寮の提案書には着工までのプロセスがないと述べ、公聴会の広報方法も1ヶ月前の寮代表者が集まったヒアリングの場で決まっておらず、2週間前にICU Portalに掲示するというのは不十分であり、もっと様々な人の意見が聞きたいと述べた。また、寮希望者はどんな寮か分からないまま答えており、森本先生が提示したデータも説得力があるとは思えないと批判した。
布柴先生は、新寮にも解決すべき問題はたくさんあり、今度の9月から新寮運営管理委員会が動き出すと述べ、新寮には悪い面だけでなく良い面もあるので、寮の良さにも注目してほしいと語った。
ある学生からは、10年後にグローバルハウスと新寮、新々寮だけになってしまうとグローバルハウスを除いて他者を知るきっかけが同性だけに限られてしまうと語り、ボールも行えなくなってしまうのではないかと指摘した。また寮には、ホームとしての機能も残してほしいとのことだ。
7.旧寮の文化について
体育の岡田光弘先生は、旧寮が無くなってしまうと卒業生が資金やエネルギーを出す場が途切れてしまうと指摘し、旧寮の名前や人脈を残してほしいと述べた。
別の学生からは、様々な旧寮の文化行事を残してほしいという意見が出され、旧寮の風呂はコミュニケーションの場になっていたと語った。新々寮だけでなく現在の寮についても考えてほしいという意見もあった。
8.まとめ
最後に布柴先生は、今ある新寮に関しては自分たちで作っていく必要があると語り、新々寮についても学生が参画して色々な意見を聞かせてほしいとのことだ。先生は、2017年に新々寮を開設するというのは決まっているので、外枠はある程度の時期には固めなければならないが、LLCのコンセプトはこれから色々なアイデアが出てくればよいと述べた。職員は、今後公聴会を開くかは未定だが、これからも意見を聞いていきたいと語った。
公聴会は2時間30分に及んだが、新々寮の特徴であるLLCをアピールしたい大学側に対し、新寮の学生からは今の寮が抱える問題点が数多く放置されていることに対する不満が出された。閉会後に筆者は、新たに寮を建設する前に新寮の環境を改善し、居住する学生の満足度を上げなければならないのではないかと感じた。
また、旧寮のOBOGが指摘するように、旧寮と新寮で文化が断絶すると、いかにして旧寮時代の同窓生から支援を継続させるかという課題もある。森本先生は新々寮を2棟整備し、さらに寮2棟を建設する構想もあるそうだが、どの寮を建て替えていくのかという問題も考えなければならないだろう。
新寮では意見が集まらないため不満があっても解消されないとのことだが、居住期間が2年と短く、退寮後は寮に再び来にくいのであれば、学生と卒業生が団結して寮について考えようという気はそもそも起きないのではなかろうか。大学側が新寮の学生は愚痴をこぼしているだけに過ぎないと思っているのであれば、大きな誤解である。
新々寮は学生が集うホームであり、LLCのような新たなプロジェクトを外部に発信するショールームではないはずだ。新たな寮が思想を持った学生の息吹が感じられる建物になり、現在の新寮もLLCとは異なった魅力のある施設に変わらなければ、学生にとって寮は学生生活におけるただの通過点でしかなくなってしまうのではないか。