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上遠岳彦教授と考える―アナグマと共存するキャンパス―

ICUの構内は広い。さらに正確を期すなら、「ICUの構内にある森は広い」というのが正しいだろう。私の感覚からすると、ICUは自然が豊かで、ほとんど自然公園と言ってよいほどだ。Google Earthで衛星写真を見ればわかるが、ICUの敷地の大部分を木々が覆っており、数多くの動植物とICU生が共存しているユートピア空間が形成されている。今回は、過去にNHKのテレビ番組「ダーウィンが来た!」でも取り上げられたICU内に生息するアナグマに関して、本校の生物学・環境研究メジャーでICU内のアナグマの生態を長年研究されている上遠岳彦先生にインタビューをさせていただいた。(インタビューは再構成済み)

 

――現在のアナグマの生息数と生息状況について詳しく教えてください。

 

生息数は正確にはわかりません。子供を入れれば10頭はいます。去年は2家族がICU内で子供を産みました。生息域についても正確にはわかりませんが、野川公園の川の自然観察園側までは行動範囲内だと思います。ただ、それ以上どこまで行っているのかはわかりません。恐らく自由に野川沿いを移動したりしていると思います。

 

――現在行っているアナグマに関する研究の詳細を教えてください。

 

実際の観察よりもICU内にあるアナグマの複数の巣穴の周囲を赤外線カメラで定点観察して、アナグマの巣の利用状況や利用頻度を調べています。また、フンを分析して食べているものも調べました。今後、DNAを分析して個体の情報から親子関係なども明らかにする予定です。

 

――赤外線カメラでは主にどういったことを観察しているのですか。

 

穴の出入りや使用頻度、何時ぐらいに活動して利用しているかを観察しています。アナグマは冬には雪が降ると冬眠します。奥多摩だと2ケ月間こもって出てこなかったりしますが、ICU内のアナグマは冬でもほぼ毎日、活動時間は短いが活動しています。あとはオスがメスにアプローチしている行動だとか交尾をしている様子や、アナグマが使わなくなった穴を別の動物、例えばタヌキやハクビシンが利用しているといった状況を観察したりしています。

 

――ICU内のアナグマは冬眠を一切しないのでしょうか。

 

もともとアナグマははっきりとした冬眠はしないです。冬の間はあまり動かなくなるというくらいで、雪がかぶったりしなければ日によってもちょこちょこ出てきたりというようなことは他の地域でもよくあります。1日中動いていることも意外なことではないんです。例えば、ヨーロッパアナグマの住むスペインのような低緯度地域ではアナグマは1年中活動しています。

 

――ICU内の様な都会に囲まれた環境に住むアナグマと野生のアナグマの違いは何かありますか。

 

それは基本的にはあまりないですね。

 

――それはICU内の環境がそれほど良いということでしょうか。

 

まあそうですね。ただ活動開始時間が若干遅いかなとは思います。恐らく校舎のそばで人間が遅くまでうろうろしているからでしょう。

 

――明かりの影響ということでしょうか。

 

明かりというよりも人がいるからでしょう。夏だったら日没時間の30分前後に出てくるのが夜行性動物の一般的なパターンですが、ゴロチ(5限6限7限の3コマ連続で行われる授業)などで遅くまで学生がうろうろしていると、場所にもよりますが、建物周辺で活動する個体だと、冬になって暗くなるのが遅くなっても19時まで出てこないこともあります。人間を避けている動きというのはあります。

 

――ICU内の猫との関係はどうなっているのですか。キャットフードを食べているという話を聞いたのですが。

 

ああ……そうそうそこが一番の野生との違いかもしれないね(笑)。ICU地域猫クラブ(ICU内のサークルの一つ)だけじゃなくて、いくつものグループが野良猫に関する活動(餌やりだけではなく、ICU内の猫の保護・保全活動などもおこなっている)をしています。

 

――猫の縄張りとアナグマの縄張りは重複していないのですか。

 

重なっています。だから子供がいるときは猫が追っ払われたりすることはあると思います。猫が住み着いていて、いつも飼い主が餌をあげるようなところにアナグマが来ると猫も自分の領域だからアナグマを追っ払ったりしている例はよそではあります。ただここでは猫自体も野良猫で(両方)餌場に来ているので、アナグマのほうが強いです。数は圧倒的に猫のほうが多いです。140匹は超えていると思います。

 

――アナグマの研究のこれからの展望について教えてください。

 

ICU内のアナグマの行動時間のずれや、ほかの動物との関係がだんだんわかってきています。それから、最近ではオスとメスの関係性や行動、アプローチの仕方や頻度、広いテリトリーと囲っているメスの数など、アナグマは一夫多妻形式ですがそれがICUではどうなっているのかを調査しています。去年初めてメスが2頭子供を産みましたが、それまでは1頭しか確認できませんでしたから。2009年に初めて子供を観察してからずっと生まれています。

 

最終的にはアナグマがどういうふうにしてここで暮らせるのか、あるいは暮らす場合にはどれくらい人と近づいても大丈夫かといったことを明らかにしたいと考えています。例えば、都市の公園化計画の様な時にアナグマなどの動物も住める環境で公園を作るとか、どんなところを使って公園内を移動するかとかそういうような「人との共存」に何が必要なのかを知りたいと思っています。ただここで人との共存が良いことといえるかどうかは別の問題です。良いと思う人もいれば、よく哺乳類なんかで見て可愛いと思うものはいっぱいいますが、身近にいてほしいという人はあまり多くない。イギリスではアナグマが庭に穴を掘ってめちゃくちゃにしてしまったりしています。猫なんかは典型ですよね。可愛いからといって餌だけ与えているのが一番楽でしょう。そういう可愛がる気持ちはアナグマやタヌキも含めてみんな持っているけれども、あまり身近に来てほしくないと感じている。猫でさえトラブルが絶えません。人間との共生を考えるうえで生物側からどういう条件が必要なのかということを最終的には明らかにしていきたいと思っています。

 

――昼間にアナグマらしき姿を見たという話があるのですが、夜行性のアナグマが昼間に人の多い場所に姿を現すことがありますか。

 

可能性としてはあります。時期的には5月から7月くらいまでが昼間出歩く可能性が一番高い。子育てをしているので母親が餌を取りに行きたいのです。

 

――昼間に学校内を歩いていたりすることがあるのですか。

 

ありますよ。たとえばある建物の玄関の前に机といすが置いてありますが、そこで学生が本を読んでいたら椅子の後ろをサーっとね(笑)

 

――今度張ってみます(笑)

 

いや、張って見られるものではないですよ(笑)。見るのはすごく大変です。一年間卒論をやって一度も生で見なかった学生も何人もいます。生で何度も見たという学生もいますし、巣穴の近くに取り付けたカメラのレンズを交換していたら遠くからガサガサとやってきたりとか、アナグマはけっこうドンくさくて、人まで4、5メートルのところまで来て急に気づいて走って逃げていったということもあります。

 

――今回はオンラインに乗せる記事ということで、ICUの外部の人にもICUの様々な側面を知ってもらいたいと思っているのですが、そのことについていかがお考えでしょうか。

 

学内の生物について報道する際に気を付けておいてほしいことは、その報道によって引き起こされる環境や状況の変化です。報道を見る様々な人たちに影響を与えるものですから、大学側への配慮も必要です。

 

――最後に、ICUのアナグマに興味のある人たちに何かメッセージをお願いします。

 

ちゃんと動物を生物学的なことも含めて理解して、動物との適正な距離というものを考えて付き合ってほしいですね。それが近づきすぎてしまうと、今問題となっているように動物が人里に食べ物を求めておりてきたり、餌付けされたことによって味をしめて近づいてきて狂暴化したりといったことが起こります。どのように動物と付き合っていけばよいのかは現在世界中で考えられていますが、まだよくわかっていません。野生動物と接するときは常に距離感を意識することを心掛けてください。

 

――先生の研究が、アナグマの生態を理解して「適正な距離」を知るために重要だということですね。

 

そういうことですね。特に餌を簡単にはあげない。餌をあげたら動物は人のことを餌をくれる対象だと思ってしまいます。本来持っている人間に対する恐怖心が薄れて人間に近づきすぎたがために、動物が問題を引き起こしてしまったり、過剰な餌のために個体数が極端に増えてしまうことが問題になったりもします。ですから適正な距離の感覚をもって、可愛がるだけではなく、結果も考えて付き合ってほしい。ただ実際に見ることができる動植物を観察することはどんどん楽しんでほしいと思いますね。

 

――上遠岳彦先生、取材を受けていただいたうえにご丁寧な対応をしていただき、どうもありがとうございました。

 

昼間の学内を野生のアナグマが闊歩している大学、ICU。案外普通に毎日歩いている校内の道の横の草むらあたりに隠れてこちらをうかがっているのかもしれない。
適正な距離の感覚をもって明日から大学を歩いてみようと思う。もし万が一出会えなくても、それが自分にとってのアナグマとの適正な距離だということだろう。みなさんもぜひ自然体で、アナグマとの偶然の出会いへの期待を胸に秘めながらICUを散歩してみてはいかがだろうか。

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