国際シンポジウム“Roles, Responsibility and Social Imaginary in a Risk Society”開催

akan7月17日・18日の2日間、国際基督教大学にて、国際シンポジウム”Roles, Responsibility and Social Imaginary in a Risk Society”が開催された。本部棟2階のA-206会議室を会場とした1日目は、午後4時から2時間半に渡って基調講演とその質疑応答が行われた。会場では、40人ほどの参加者が熱心に講演を聴いていた。

 

1.  基調講演 ”REALITY versus reality: An Inquiry into twentieth century’s political metaphysics”

まず、フランス国立社会科学高等研究院院長であるリュック・ボルタンスキー氏によって、約1時間の基調講演が行われた。 彼は、犯罪小説とスパイ小説における「謎、陰謀、調査」を研究しており、19世紀後半に現れたこれらの小説を20世紀中頃にかけて分析している。 実体のない権威に認められうる「現実」をボルタンスキー氏は指摘する。そして、背後にある権威には認められていない現実を対比させる。犯罪小説とスパイ小説を読み解けば、これらの現実の姿に迫ることができる。

ボルタンスキー氏が言及したのは、イギリスの探偵小説『ブラウン神父の童心』である。彼は、謎と「奇妙さ」は同一視できると主張する。それは現実に対して脅威になる「異常」とされることもある。また、他者に対するこれまでにない認識などが「陰謀」である。探偵小説とスパイ小説では、「調査」をしなければ真実は明らかにならない。探偵小説では、何らかの不安を全ての人物に対して持ちうる。彼は、探偵小説とは追跡者が何かに偏執するストーリーであると指摘する。しかし、探偵は新たな真実を見つければ、日常生活に戻ることができる。

ボルタンスキー氏は、地域社会や社会の格差が探偵小説では描かれていると述べる。スパイ小説が言及しているのは、国民国家における資本主義の問題であるとのこと。そして、イギリスの探偵シャーロック・ホームズと、フランスの警部メグレを比較した。国民国家と資本主義が強化されると、「多数の因果律の喪失」による不安が生じた。 現実は国家によってもたらされようとしている。資本主義は旧来の人間関係を壊しうるものである。国家と国、支配層と大衆は、権力が捉えにくくなったため検討しにくくなった。しかし、今後も重要な概念としてこれらのテーマは見なされ続けているとのことだ。

 

2.  討論者による発表と質疑応答

続いて、東京大学教養学部教授の福島真人氏が討論者として15分間発表を行った。まず、リスク情報の蓄積やリスクの検討など、リスクを統制する手段について語った。そして、普段我々が接するリスクを紹介し、日本語における「危険社会」と「リスク社会」の意味を比較した。福島氏は、不安がいつでも生じうるという現代社会の問題点を指摘する。 具体例としては、遺伝子組み替え食品やナノマテリアルが挙げられた。また、専門家でも全てを把握できないという課題も述べた。 その後、ボルタンスキー氏が福島氏に対して20分間応答し、会場からの質疑応答が45分間に渡ってなされた。

 

3.  まとめ

シンポジウム1日目の講演テーマが、「探偵・スパイ小説」であるのは意外だった。「リスク社会」の問題点を、文学作品を用いて読み解くという試みは大変興味深い。講演後、謎解きとリスク回避は類似点も多いのかもしれないと感じた。 今まで筆者は、これらの小説のストーリーとトリックしか分析してこなかったが、今後はもっと学際的な観点からもミステリー小説を検討したい。 また、国際関係学の課題に対する態度も改めたいと思う。