【ここでしかできない留学】ヴィータウタス・マグヌス大学 鹿野茉莉衣さん

ICUには海外の提携校で1年間学ぶことができるという交換留学制度があり、現在も多くのICU生が世界中の大学で勉強している。皆それぞれが現地でしかできない経験をして多くの刺激を受けていることだろう。そこで、Weekly GIANTS Co.は「ここでしかできない留学」をテーマに世界中に留学しているICU生へのインタビュー企画をお届けする。第四回はリトアニアのヴィータウタス・マグヌス大学 (通称: VMU)に留学中の鹿野茉莉衣(ID 20)さんだ。(※内容は再構成済み)

▲リトアニアでの鹿野さん

ーー最初に現在留学しているリトアニアと通っている大学について簡単に教えて下さい。

現在、私が留学しているVytautas Magnus University (VMU)はリトアニアの第二の都市であるカウナスという街にあります。リトアニアという名前を聞いてもあまりイメージが湧かない方が多いかも知れませんが、リトアニアはバルト3国の一番南に位置していて、面積は北海道の約80%、人口は約285万人の国です。 公用語はリトアニア語です。第一次世界大戦後の1918年にリトアニアは共和国として独立しましたが、第二次世界大戦中にソ連やナチスからの侵攻を受けて、ソ連の支配下に置かれました。その後、1991年にリトアニアはソ連から完全に独立した共和国となりました。後ほど詳しくお話ししますが、ソ連からの独立からまだ年月があまり経っていないため、人々の記憶にもソ連時代のことがまだはっきりと残っていることが日常生活の中でも伺い知れます。

 

ーー鹿野さんが感じているリトアニアと VMUの魅力はなんですか?

リトアニアの魅力は、時の流れがゆっくりしている点と、その素朴さです。私は中学生の頃から東京で電車通学をする生活をしていましたが、東京のせわしなさや人間味の無さに疲れてしまうことがよくありました。一方、ここリトアニアでは、もちろん通勤ラッシュもありませんし、そもそも電車はあまり発達しておらず、バスが中心の社会です。さらに私が住んでいるいる街のカウナスは小さい街でほぼ全ての施設が徒歩圏にあるため、通学も遊びも徒歩で行くことが可能です。急いで走っている人はこれまで見たことがありません(笑)

大学の魅力は、留学生の多さと対応の柔軟さだと感じています。VMUでは、私にとってこれまであまり馴染みの無かった地域からの留学生が多く、彼ら/彼女らの意見を授業中に聞くことができます。例えば、今学期履修した政治と宗教の授業では、シリア人のクラスメイトがシリアでの紛争について意見を述べていてニュースからではわからない生の声を聞くことができました。他には、ウクライナやジョージア、アゼルバイジャン、カザフスタンなど、東方の国から来ている学生の割合が多いことに最初は驚きました。逆に、リトアニアより西のヨーロッパの国々から来ている留学生の割合は少ないです。

大学の学生に対する対応は柔軟で、教授が学生の「テスト時間を延ばして欲しい」という交渉に応じてくれたり、都合が悪いと言えばテスト日程をずらしてくれたりもします。一方、いきなり休講になったり教室が直前に変更になることが多かったり、毎回遅刻する教授もいたりと、学生の方も柔軟な姿勢で対応することが求められているとも感じます(笑)つまり、あまりきちっとしていません。

 

ーー大学生活について教えて下さい。

今学期の授業は政治学と社会学を中心に履修しました。VMUはリベラルアーツ大学ということも影響してか、一つの学問領域にとらわれずに授業をする先生が多いと感じています。例えば”European Identities”という政治学科の授業では、EUの歴史や政治、国際関係、そしてアイデンティティ論などという幅広いトピックが扱われていました。

また初めての第二外国語としてリトアニア語を履修しました。リトアニア語は言語学者の注目を集めるほど古く難しいのですが、意外と学習が面白かったです。内容も実践的なため日常で活かせるのが嬉しかったです。

課外活動では、”Hashi”という日本文化のサークルに所属しています。リトアニアに来て驚いたのは日本に興味を持っている人が多いということで、特にVMUにはアジア研究所があることから、アジア関連のイベントも活発です。”Hashi”サークルは、アジア研究をしている学生たちが中心となり、週1回の活動をしています。リトアニア人の中で日本のアニメや漫画の人気が高いと感じますが、それ以上に日本の歴史や政治に私よりも詳しい学生が多く、毎回話していて勉強させてもらっています……。

 

ーー現地での生活について教えて下さい。

授業からだけではなく、日々の生活をしてリトアニア社会を少しずつ知っていく中で学ぶことがたくさんあります。例えば、リトアニアに来てから自分がアジア人であるということを強く意識させられるようになりました。リトアニアは人口の約87%がリトアニア人で、外国人の数は少なく、保守的な国だと言われています。

私のいる街、カウナスは大学が多く留学生もたくさんいますが、バスで15分乗った先の街に行くと、お店に入った途端店内の人たちの視線を浴びるほど外国人は少ないです。リトアニア語またはロシア語しか話さない店員さんやバスの運転手さんも多く、コミュニケーションがうまくいかずに少し大変な時もあります。自分がマイノリティーになると、自分のアイデンティティについて考えるようになるんだな、と実感しています。

また、リトアニア人の友人から日本の展示会に出展する鞄のブランドのイメージモデルを頼まれ撮影の協力をしました。その際、施されたメイクが、いわゆる典型的なアジア人のステレオタイプであるつり目を強調したものでした。それはリトアニア人の考える「アジア的な美しさ」を体現したものだったのか、そのメイクアップアーティストの通常の好みなのかは分かりませんが、ここにある種のオリエンタリズムが存在するのではないか、と疑問を持ちました。もし、自分が「典型的なアジア人像」にはめ込まれたのだとしたら居心地が悪いと思ってしまいます。この経験もあって、来学期はオリエンタリズムの授業を取ることにしました。

他に現地の生活で特徴的なのは旧ソ連圏という歴史的背景です。リトアニア人と話していると、ソ連から独立してからまだ日が浅いからか、過去の出来事が現在も、遠い歴史としてではなく生々しい体験として記憶されているのだな、と感じます。ソ連時代の遺構がずっと放置されていたりと、その面影は私にも感じられることはありますが、本当の意味で経済的/政治的に苦しい国のなかで生きるということがどういうことなのか、1年間の留学では到底分かるはずが無いと考えています。リトアニアの若者は卒業後にイギリスなどの物価の高い国に働きに行くことが多いとも頻繁に聞きます。さらにソ連時代に教育を受けた世代と、今の若い世代では、英語が話せる/話せないだけでなく、政治や思想の世代間格差もあると聞きました。ただ、どの世代にも共通して愛国心が強いのは私にとっては新鮮でした。

 

ーーリトアニアならではのカルチャーショックを感じることはありますか?

リトアニアに来て驚いたのはアルコール依存症が社会問題となっていることです。特に貧困層がアルコール依存に陥りやすいらしく、お酒を買える時間が制限されているなどの法規制が敷かれています。また、経済の慢性的な不景気が理由なのか、自殺率も高いです。そのため、学生の間でもメンタルヘルスの問題について、日本よりも割とオープンに語られていると感じています。

 

ーー最後に一言あればお願いします!

もともと交換留学に行くことに興味がなかった私は、交換留学に行くことを考え始めたのが去年の夏の終わり頃でした。そして、リトアニアという留学先も直感で選びましたが、実際に来てみると「ここを選んでよかった」と感じます。もちろん、大変なこともありますが、捉えようによっては楽しめるのではないでしょうか。なので、留学先がどこに決まったとしても自分の努力次第で意義のあるものにできると思います!

 

ーーありがとうございました。