助けて!TA! オンライン授業の悲喜劇

 新型コロナウイルスの流行を受け、春学期は全てオンライン授業となったICU。教員も学生も、従来の体制から急激な転換を強いられた。その結果、春学期開始直後には迷える子羊(教員、学生)のドタバタ劇を観察することができた。
 以下は、筆者がこっそりと集め続けた、その悲喜劇の記録である。また、それらを描写するにあたり、必要となる用語の説明も補足する。これらは全て筆者の経験、独断、そして偏見に基づいているので、その点だけはご容赦頂きたい。

用語説明

Zoom
授業において使用される、オンラインミーティングツール。慣れてしまえば簡単かつ便利。いまいち使いこなせない教員たちの悲喜劇の舞台。

Moodle
授業連絡、課題提出など、様々な用途に使用される学習サポートサイト。かなり前から導入されていたが、オンライン授業開始と同時に使用数が激増した。ほとんどの教員は慣れているが、よく観察してみると楽しいミスが見つかる場所。

TA
Teaching Assistantの略称。普段はプリント印刷等が主な仕事だが、オンライン授業開始後はZoom等を使いこなし、迷える教員、学生らを救出する天使と化した。

「〇〇さーん(TA)! 助けてー!」
魔法の言葉。困ったらこれを叫ぼう。さすればTAがアン◯ンマンの如く現れる。

ミュート
自身の音声(マイク)をオフにすること。ミュートにするのを忘れる、又はミュートにしていることを忘れると悲劇が起きる。

マイク/カメラオフ
自身の音声(マイク)または画面(カメラ)をオフにすること。マイクオフはミュートと同義。これさえあれば、幾らでもだらしない格好で授業参加が可能。しかし教員が寂しがるので、大抵カメラオンでの授業参加を求められる。

コンピューターオーディオ
自身以外の音声のこと。これをオンにしないと、誰の声も聞こえず仲間外れを食らう。

ブレイクアウトルーム
参加者を数グループに分ける機能。グループディスカッションを行う時などに使用する。やる気の無い学生を叩き起こし、半強制的に授業参加させることが可能。

ホワイトボード
Zoomにおける手書きパッド機能。使いこなすには意外と鍛錬が必要。

バーチャル背景
背景を別画像に置き換える機能。いくら部屋が散らかっていようと、全てが隠れる。どんな画像でも使用できるため、自己顕示欲が強めの人間による個性主張の場としても使用される。

チャット
ZoomにおけるLINEの様な機能。主に発言する勇気のない学生が使用する。

本編

〜教員編〜

・「先生!ミュートになってます!」
自身のマイクがオフであることに気付かぬまま、延々と何かを語り続けてしまう。大変初歩的なミスであるせいか、教員の少々恥ずかしげな姿を見ることができる。ごく稀に、コンピューターオーディオもマイクもオフ、つまり学生の声も自身の声も聞こえず、ただ1人画面に向かって話し続ける教員の姿を拝むことができる。教員も、自身の陥っている状況をすぐに気づきはするのだが、対処法が瞬時にはわからないため、「〇〇さーん! 助けてー!」が発動される。

・「あ、これうちのワンちゃんです」
飼い犬の乱入。鳴き声が入り込むことは学生・教員を問わずよくあることだが、犬そのものを画面に入れてしまえるのは教員の特権だろう。ちなみに、この教員の愛犬は、可愛らしいダックスフントであった。

・「あの…これどうやって抜けるの?」
ブレイクアウトルームを使いこなせない教員の悲劇。各グループを行き来しつつ様子をみるつもりだったらしい。しかし、最初のグループに入ったところで抜け方がわからず、結局終了間際までそのグループに留まった。異変を察知したTAにより救出される。

・「何だこれ!わからん!もうやめた!」
ホワイトボードを使いこなせず、放棄。放棄までの数分、学生は謎のお絵かきを見せられ続けた。結局何がしたかったのかはわからない。

・「あっ…(授業終了)」
うっかりZoomミーティングを終了してしまう。その後、学生らが自力で戻り、無事に授業は再開された。

・moodle、課題の提出期限が1年後
本来、2020年6月1日が課題提出締切日だったのだが、moodle上の締切日は2021年6月1日に設定されていた。寛大な教員だ。

~学生編~

・「ちょっと! お母さん!」
これは筆者自身のミスである。「今から授業だからね」と事前通告したにも関わらず、掃除機を持った母親が乱入した。実家暮らしの学生は皆、一度は経験していると信じたい。

・生活音乱入
掃除機、犬の鳴き声、家族の会話etc。学生は大抵ミュートで授業参加するが、発言の際には解除する。その音声から伝わってくる生活感にほっこりできる。ただし工事音だけは不快。

・小顔効果
頬杖を着きながら授業参加するそこの君。その手は本当に顔を支えているか? カメラの写り具合を気にした、小顔効果ではないのかね? 授業に集中したまえ!

・突然のバーチャル背景停止
部屋は片付けておこう。バーチャル背景は便利だが、先日何らかのトラブルで突然背景が消え、雑然とした部屋を晒した学生がいた。

・突然の回線切れ
回線の強度に悩む学生は多い。時々、授業中に忽然と姿を消す学生がいる。果たして本当にWi-Fiのせいなのだろうか……。

・そもそも入れない
「先生、〇〇さんがなぜか入れないそうです」(by TA)。なぜかZoomから弾き出されてしまう学生が稀に存在する。困ったらエンジェルTAにメールしよう。

・チャットで誤送信
便利なチャット機能。しかしエンターキーで一発送信されてしまうのが玉に瑕。改行しようとしたら最後、書きかけの文章が全学生に送信される。

おわりに

 気がつけばもう6月。春学期の授業は終了し、試験期間に突入した。思っていたよりもトラブルは少なく、それなりに充実していたと感じる。しかし、それでも筆者は従来型の授業が恋しくて仕方がない。いくらだらしない格好で受けられようと、授業直前まで寝ていられようと、あのキャンパスには代えられない。秋学期もオンライン授業ならば発狂してしまうだろう。新型コロナウイルスがいち早く撲滅されることを願うばかりである。       

【まっくろくろすけ】