【前編】ICU長唄研究会の歴史と今

▲演奏会の様子。そもそも長唄とは、江戸時代に発展した三味線音楽で、三味線を奏でる「三味線方」と唄を歌う「唄方」に分かれ、演奏される。
▲演奏会の様子。そもそも長唄とは、江戸時代に発展した三味線音楽で、三味線を奏でる「三味線方」と唄を歌う「唄方」に分かれ、演奏される。

 

大学を歩いていると、様々な楽器の音色を耳にする。優雅なバイオリンの音色、元気のいいトランペットの音色、落ち着くギターの音色。その中で、ひときわ「粋な音」を奏でているのが、三味線の音色である。国際性が前面に押し出された結果、日本らしいものが目立たないこのICUで、40年間にもわたり日本独自の音楽である「長唄」を演奏し続けてきたのがICU長唄研究会だ。

 

10月に開かれた学生長唄連盟OB会定期演奏会の際、創設者の新原雪乃さんをはじめとした卒業生と現役部員の皆さん、設立当時から三味線の指導を担当されている稀音家六綾さんからお話をうかがうことができた。この前編では卒業生の皆さんと六綾さんへのインタビューをお送りする。

(※インタビューは再構成済み)

▲ICU長唄研究会の卒業生の皆様。左から、山下さん(ID 04)、佐野さん(ID 18)、鈴木さん(ID 08)、新原さん(ID 78)、加藤さん(ID 09)、渡邊さん(ID 01)
▲ICU長唄研究会の卒業生の皆様。左から、山下さん(ID 04)、佐野さん(ID 18)、鈴木さん(ID 08)、新原さん(ID 78)、加藤さん(ID 09)、渡邊さん(ID 01)

 

――新原さんはICU長唄研究会の創設者でいらっしゃいますが、長唄研究会を創設された経緯についてお聞かせいただけますか?

新原さん:ICU長唄研究会は1974年、私が1年生のときに設立されました。去年がちょうど創設40周年にあたります。

私が入学したての頃のICUには、日本的なものがまったくありませんでした。なんというか、キャンパス全体が外国にかぶれていたというか。そんな背景もあり、私のセクションで「ICUに日本的なサークルを作ろう」という話が盛り上がって、たまたま私の母が三味線の先生だったため、長唄研究会のもととなる邦楽研究会が設立されることになったというのが創設の経緯です。

 

――創設当時のエピソードなどありますか?

新原さん:今は部員全員分の三味線が用意されているのですが、創設当時は三味線が1挺しかなかったので、棒を1人1本ずつ買ってきて、それを切って三味線の形にして指の練習をしていました。当時は学生運動がまだ流行っていたので、棒を持って電車に乗っていたら活動家に間違われてしまった、なんてこともありましたね。

また、当時は部室もなかったのですが、幸いにもD館の一室を借りることができたので、不要になった布団をもらいその上で練習していました。私の世代が卒業してから何年かはあまり部員もいなかったのですが、創設から10年後くらいに部員数のピークが来てその頃はすごく盛大でした。それから何度も部員が多かったり少なかったりの山を繰り返していて、現在は10 人部員がいます。

また、16年前に誕生した東大長唄研究会とはその誕生以来兄弟サークルとして同じ先生に習っています。初めはこちらの練習に東大側が随伴する形だったのですが、いつの間にか向こうの方が人数も多くなってしまっています。ちょっと悔しいですね。

 

――本日の演奏会は学生長唄連盟OB会の演奏会でした。社会人の皆さんは卒業後も練習をされていらっしゃるのですか?

新原さん:学生時代ほど練習時間が取れない人が大半だと思います。学生時代も忙しいですけど、卒業するとそれ以上に時間がないので、よっぽど頑張らないと、「卒業したときが一番上手い」なんて場合が少なくないですね。卒業後に上達するためにはお稽古を継続しなければならないのですが、日本の習い事ってものすごく高いんです。でも、学生時代は練習に一切お金がかかりませんでした。楽器も買わなくていいし、ICUでは伝統的にお稽古もお金を取っていません。そういった意味では学生時代の練習環境は特に恵まれていたと思います。

 

――皆さんが思う長唄の魅力をお聞かせいただけますか?

加藤さん:日本文化の特徴として、一つのモチーフをいろんな形で再構成し直すということがあると思います。たとえば長研では「末広がり」という曲を演奏するのですが、曲の元ネタは狂言なんです。長唄を演奏することで、狂言や歌舞伎、そして浮世絵にも通じることができる。長唄をひとつの切り口としてその他の日本文化にも触れられる面白味があると思います。

六綾さん:長唄は江戸時代から続いている文化であり、現代にいながら過去の文化に触れられるという点で、ある種の博物館だと思います。

また、長唄は日本古来の文化です。それを知っておくことで、他の文化と出会ったときに「鎧になる」と思います。つまり、国際的な場でも、他国の文化に負けることなく胸を張って自国の文化として紹介することができる。そういう点では、国際性が謳われているICUで長唄に触れるということは、意義深いことではないでしょうか。

 

――ありがとうございました。

 

今回、卒業から何年経過しても、年がいくつ離れていても、長唄で繋がっている部員の皆さんと接し、ICU長唄研究会の歴史と卒業生を含めた部員間の密接なつながりを感じることができた。さらに、定期演奏会において聴いた演奏は、西洋の音楽とはまた違った心落ち着く音色で、長唄という江戸時代から続く文化の持つ魅力を発見することができた。

後編では、ICU長唄研究会の現役部員のお二人に現在の部の様子についてうかがった模様をお送りする。

なお、12月20日の12時から、三鷹市公会堂「光のホール」にて、学生長唄連盟の、現役部員による「定期演奏会」が開かれる。詳しくは学生長唄連盟のWEBページを確認だ。