入管法問題、生の声
|昨今大きな問題となっている入国管理法改正案(難民などの帰国できない事情を持つ外国籍の人間が強制送還を拒んだ場合に刑事罰を課し、また難民認定申請者の強制送還を可能にする)。本紙は4月23日に国会議事堂前で行われた改正反対デモに参加し取材を行ったICU生に話を聞いた。彼らは収容経験者、ICU関係者や研究者などさまざまな人に出会ったという。
「なぜこの現状を人々は見過ごすのか」
トルコ出身のデニズさんはクルド人で、迫害を受ける恐れのあったトルコを脱出するために日本政府に難民申請を4回出したという。受理されないまま日本に来たのは2007年。今回のデモに参加したのは自身が当事者であるためだ。実際にデニズさんは入国管理局に収容されていた当時、職員から暴行を受けたという。腕をねじりあげられ、その痛みから動いた途端、「暴れたから抑えた」と暴力行為を正当化された(注1)。さらには職員の肩を軽く叩くなどのスキンシップさえも暴行と捉えられるなど、理不尽な扱いを受けたという。デニズさんはそれらに対抗するためにハンガーストライキを2回行い、体重が15キロ近く落ちた。当時を振り返って、「死ぬか生きるかという思いで実行した」と語る。現在は仮放免されて管理施設で暮らす必要はないものの、移動は都内に制限され、ビザがないため仕事もできず、医療費の保護もない。2011年に日本人女性と結婚したが、いまだに彼らに安定した生活は訪れない。
「日本でいろんな方を守ってほしい。我々は人間。日本に生きるために来たけれど死ぬかもしれなかった。さらには入管からの精神的、身体的暴行によって死にたい気持ちが出てきた。私たちはルール違反で捕まったが、日本は国連のルールを違反している。どうしてこの現状を人々は見過ごすのか」と強く語った。
「家族バラバラは、ダメ」
ガーナ出身のキシクさんは1993年に日本へ来た。現在は日本の高校に通う娘がいる。キシクさんは自身が強制送還されるというのは、日本国籍もガーナ国籍も持たない娘と引き離されることだ、と語る。現在は仮放免中の彼女は施設では「外国人は人間ではなく動物」だと言われ、何度も怒鳴りつけられたと言う。
「日本人は悪くない。けど政府がダメ。外国人も日本人も同じ人間だから、同じように扱って欲しい」そう切々と訴えた。
「命に関わる話をちゃんと知るべき」
Aさんは、牛久入管での事件(2014年に収容されていたカメルーン人男性が死亡した事件)を受けて立ち上げられた組織、「FREEUSHIKU(フリー牛久)」に属する活動家で2018年ごろからデモに参加するようになったという。彼女が活動を通じて気が付いたのは管理施設の情報の不透明さだという。実際に収容されている方との面会を通して、職員からの嫌がらせや暴言などの実態を知った。食事にムカデが混入していたこともその一例だ。しかし、このような現状は牛久事件や今年3月名古屋で収容されていたスリランカ人女性が死亡した事件などの報道がなされる前には、あまり認知されていなかった。
このような政府の後進的な対策や情報の不透明さが明るみに出た現在、「夢を持った外国の方を助け、守れるように情報を知っておくことが大切だ」と断言した。
「ラッキーかアンラッキーで人生が左右される社会はおかしい」
俵公二郎さんはICU’08卒の弁護士だ。デモに参加した理由は「ムカつくから」だという。もちろん感情論だけではなく、そもそも法的な観点から見て暴行を受けて良い人はいない。不法移民であろうと人間である限りそれは同じだ。したがって在留資格に問題があろうと、それらの人に暴行を働くのはれっきとした国際法違反だ。よく「外国人を我々の税金で養うことはない」という意見を聞くが、そういう人は「移民は難民であっても課税対象である」という事実を知らない。また「難民を受け入れると犯罪率が上がる」という意見もあるが、これらの施設にいる難民は犯罪を犯したから収容されているのではなく、司法上の手続きに問題があったためであり、彼らは犯罪者ではない。
「ムカつく」という感情的な理由とは裏腹に、そう論理的に説明した。
「日本人って、誰?」
Bさんは学生として日本に住むオーストラリア人。今までの人生の約半分を日本で過ごした。今回のデモに参加したのは、本人が難民保護活動に関わっており、一橋大学でその研究をしているからだ。「今回の法案は改正ではなく改悪だ。ただでさえ悪かったものをさらに悪くしようとしている。よって、この改悪を阻止することだけでは状況は進展しない」日本は実際に国連などの国際機関から強い非難を受けており、勧告も受けているが、目を背け続けている。国際的立場がある国として、国内の利益だけに囚われずに国際規範を良くすることに努めるべきである。
「人々は現在の状況を把握するだけではなく、日本の歴史におけるナショナリティ、血統主義といったものをもう一度考えて欲しい」と熱弁した。
インタビューを行ったICU生の1人はこう語った。
「このようなデモに参加したのは初めてだが、いかに自分が限られた情報で社会問題を知った気になっていたかに気付かされた。今回のデモではこのような取材をする予定はなかったのだが、その場の雰囲気や、普段関わることがないであろう当事者の衝撃的な話などを当日デモに参加しなかった人と一緒に考えていきたかった。私は記事を通して学内外問わず多くの人にこの現状を知って欲しいと思う。私はデモなどの抗議活動に意味はあると思う。物事を自分の思索の中だけで終わらせず、公に向けて意思を表明する手段であり力であるからだ。この記事を読んだ人々には、ぜひ自分たちに力があることを知り、行動に移していってほしい。」
取材を終えて
取材をした学生、インタビューを受けてくださった方の意思を尊重するため、一部文章、言葉は語られたままとした。この多様な人々の意見や経験が学生同士の議論の一助となることを願ってやまない。【山本瑛】