「チルいジェンダートーク」運営者にインタビュー【前編】

ジェンダー・セクシャリティ研究(GSS)を専攻する学生たちが中心となって活動するICU公式サークル「ジェンダーと私たちのダイアログ(ジェダイ)」。「チルいジェンダートーク」とは、ジェダイが企画・運営するポッドキャスト番組で、ジェンダーに関するトピックをチルに、楽しく、わかりやすく話している。今回は、番組を運営する学生数名に結成秘話や運営中の思い、GSSを専攻する意義など幅広い内容でインタビューさせていただいた。なお、インタビュー全容は前編と後編の2回にわたって掲載する予定。取材はOliva(ID25)が行った。


ーー「チルいジェンダートーク」がスタートしたきっかけを教えてください。

りんご:どこから話したらいいかな……。もともとはみんなジェンダー・セクシュアリティ研究を専攻していて、履修した授業の中で、「三鷹市の人権条例ができるにあたって市民で話し合う会合があるからよかったら来てみない?」って先生に誘っていただいて。それで、お互い全然知らない状態で、それぞれそのお知らせを受けて、その会合で出会いました。で、その会合が終わった後に、せっかくだからってご飯に行って、最初に5人が知り合って。ジェンダー平等を目指しているみんなとして何かやりたいねってなって。その後グループLINEを作ってちょこちょこ話していたんですけど、私が元々ラジオに興味があったので、このメンバーだったらラジオできるかなと思って、みんなにラジオやらない? って話をしました。みんなから賛同してもらって、そこから結構議論を重ねて開始しました。

Oliva:ラジオに決まったのは、りんごさんがラジオが好きでやりたかったからということですね。

りんご:そうですね。もともとエンタメコンテンツが好きで、ラジオをめちゃくちゃ聞いてたっていうのがあります。でも、ラジオとかアニメとかドラマにしても、やっぱり包括的じゃないなと感じていて。例えば、同性愛の人であったり女性であったり、 LGBTQ+の存在を無視するような表現がすごく目立っています。そうじゃなくて、なるべく多くの人、なるべく全員が楽しめるエンタメ、なるべくチクチクした気持ちを与えることのないエンタメコンテンツがほしいなと個人的に思っていたんです。だから、ジェンダー平等の重要性を伝えることに加えて、普通に聞いていて楽しいコンテンツってなった時に、ラジオいいんじゃないかなと思って。ラジオは顔を出さなくていいから、ルッキズムに関係なく私たちの話している内容だけで判断してもらえます。

ーー他の方は、ラジオと聞いた時どのように感じましたか?

レモン:最初イベントに行って、みんなでご飯食べるってなった時に思ったのが、意外と(ジェンダー専攻の人)いた……! でした(笑)。私とりんごさんは寮が一緒だったので知っている人はいたんですけど、あまりちゃんと話をするってことはなくて。イベントで出会ったことで、少し違っていたとしても、自分と同じようにジェンダーに興味持っていたり、問題意識を持っていたりする人がいたっていう嬉しさがありました。

Oliva:ジェンダー専攻ってそこまで規模の大きいメジャーではないと思いますが、やはり個人的な関わりを持つのは難しかったのですね。

おこめ:最近は対面授業になって交流が増えて、ジェンダー仲間もめっちゃ増えてると思う。(知り合った時は)オンラインの授業だったから、寮生と行ける人が三鷹の市民センターに来てねって言われて。そこに運良く行けた人が、このコミュニティを作ったって感じです。最近こそジェンダー仲間が増えているけど、その頃はそれがめちゃくちゃ貴重な機会でしたね。

りんご:オンラインの授業で話をしても、やっぱりその後友達になるっていう流れはありませんでした。なんかこの人ジェンダー系の授業にいつもいるな! みたいな感じで終わってしまって。それこそ、おこめのことは他の授業でも知ってはいたけど、そこから友達になるっていうのはなかなか難しかったですね。

ーーどのようなリスナーを想定している?

じょん:アプリでリスナーの情報の統計がとれるんだけど、今のところ20代・30代の層が一番多くて、次に多いのが10代ですね。

りんご:最近は40代も増えてる。

全員:えーそうなんだ!

じょん:最初想定してたのが、私たちの友達周りとかだったんですけど、意外と学外の方で聞いてくれている方が多いみたいで。それは個人的にもびっくりしています。卒業生とかも。

りんご:それでも今は、 ICUと何らかの関わりがある人がメインのリスナーだから、そこから徐々に輪が広がっていってほしい。例えばメンバーの中学時代の友達とか。だけどぶっちゃけ、想定している層はないかな。みんなに聞いて欲しいし、それこそ自分がマイノリティ性を感じているけど身近にそういう人がいなくて孤独だって人にも聴いてもらって、ここに仲間がいるよって知ってほしい。逆に、フェミニズムなんて全然理解できないとか保守的な考えを持っている人にも、こういう人たちがいるんだよっていうのをラジオを聞いて知ってほしいし。単に大学生のおしゃべりを聞きたいって人にも聞いてほしい。だから、特に狙っている層はないかな。強いて言えば、初学者、ジェンダーにめちゃくちゃ詳しいわけじゃない人に聞いてもらえるような番組作りをしてます。

おこめ:用語集をりんごがHPに載せてくれています。例えば、性自認とは? とかその種類とかの解説を載せています。なのでジェンダー初学者にもわかりやすい内容になっていると思います。

Oliva:用語集いいですね。

今まで9回の配信をされていますが、話すトピックはどのように決めていますか? その場でってわけじゃないですよね(笑)。

おこめ:いや、結構……(笑)。

レモン:この間の生理の回はゲストをお呼びしたので、多少なりとも事前にLINEで話はしたけど、それが珍しいくらい毎回結構その場で(笑)。

おこめ:一応ネタだしのグループはあるけど、それから何を拾うとか、誰が話すかとかは三日前くらいに決まります。今週このメンバーでいけそう? みたいな感じで決めて、チルくいきます(笑)。始まる10分前くらいに雑談して、テーマ何話そうって決めて、撮り始めるみたいな。

レモン:(メンバーによって)興味ある分野とか詳しい分野とか結構違ってたりするから……。

りんご:やっぱりなるべくメンバーがその時一番ノって話せる話題にしようとは思っています。そのネタ出しのLINEで、日々の生活でこれ絶対話さなきゃって思ったことをポンポンポンって投げてくれてる中から、実際集まったメンバーで、私最近こういう言いたいことがあったんだよねっていうのがあればそれを優先するし。そのメンバーが一番熱く話せることをその場で決めるって感じですね。

じょん:バイセクシャルトークとかはそうだよね。このメンバーだったらこの話できるんじゃんみたいな。

おこめ:あれすごく楽しかった。

Oliva:てっきり結構話し合ってトピックを決めているのかと思っていました。それがチルさに繋がっているんですね。

じょん:ジェンダーってやっぱり初学者にはすごくハードルが高いと思うんですね。私もいまだにわからないこととか、インクルーシブな表現や考え方を考えきれていないなって思うこともあって。だから、(ジェンダー系の)授業とって勉強してて面白いなって思うけど、こんな私がやっていていいだろうかっていう迷いはずっとあります。ジェンダーって、やっぱり入り口がすごく固かったり、こうあるべきっていうかっちりとした基準があったりするのが難しい部分で。まあそれがジェンダー学の良さでもあるんですけど。そういう意味でもおしゃべりっていう感覚で聞いてもらって興味を持ってくれたらいいなと思います。

おこめ:ジェンダー仲間っていう前の本当に大事な要素として、友達っていうのがあるんですね。そもそも友達だから話題も尽きないし、いつでもご飯に行きたい。それに、ジェンダーのことも共有できる友達って少なくてストレスも溜まるから、やっぱりジェンダーの話になるし、その話が一番盛り上がる。(ラジオも)結構そういうおしゃべりの感覚でやっている部分が大きいですね。

レモン・りんご:めっちゃわかる。

りんご:私たちがジェンダーに関心が高くて、社会を変えようと思っているからこれをやっているっていうよりかは、本当に仲良しで普段のおしゃべりにジェンダーの話が出てくるから、そのおしゃべりを聞いてもらおうっていうか。

おこめ:そう。それがラジオを始める時に、一番最初にあがった理由だよね。初めてジェンダーに興味ある人たちで集まって話してみたら、お互いから学ぶことがすごく多いし、単純に話していてすごく楽しい。これをここだけに止めるのもったいないね、ラジオでみんなに発信できたらいいねってなって、ここまで来ました。

ーーラジオ収録中に気をつけているところや難しいところはありますか?

おこめ:第1回の収録で、おこめがバイセクシャルを両親にカミングアウト*1 をしたんだよねって話をしたんですけど、その時りんごが「えらいね」か「すごいね」って言ってくれて。それはそれで嬉しかったんですけど、その後りんごが、カムアウトってするのがえらいとかすごいわけじゃなくて、そもそもカミングアウトする必要がないべきだし、しなくてもいいはずだし……さっきの言葉あんまりよくなかったよねってなって、その部分をカットしました。英語だと、カムアウトした時に Congratulations(おめでとう)ってすぐなるんですけど、日本語だとカムアウトの文化がマジョリティにあまり共有されていないから、おめでとうって言ってくれる人が少なくて。これをラジオで言ってもらえたらめちゃくちゃ嬉しいなって思って、もはやリクエストしてしまったんですけど(笑)。それで実際に2回目ではおめでとうって言ってもらったというエピソードがあります。カムアウトした人もしてない人もインクルーシブに感じられるような、疎外感がないような、誰も傷つくことのないラジオを目指しているので。

りんご:カムアウトした人にえらいね、すごいねって言うことは間違いではないと思うけど、じゃあカムアウトしたいけどできない人にとっては自分は偉くないのかなって思ってしまうかもしれないし、してる人が偉くてできない人は除外されてしまうのかなっていう雰囲気をリスナーに与えてしまうんじゃないかなって思って収録し直したという経緯があります。

 ラジオを収録している中で、やっぱり後で確認して別の意味で捉えられる表現があると感じたらカットします。なるべく誤解をうまない表現を使って、聞いている人に自分は仲間じゃないって思わせるような表現はしないように結構気をつけています。

おこめ:セーフティスペース*2 にしたいねって設立当初から定期的に話していて。この「チルいジェンダートーク」は誰も傷つけないコンテンツでありたいし、みんなの心の拠り所のセーフスペースにもなりたいって強く思っているから、結構気をつけていることは多いです。一方で、気を付けることは私たちの間では当然というか。お互いアイデンティティを明かしてはいるけど、これから変わる人もいる人もいるかもしれないし、リスナーの中にも私たちの中にも今自分のアイデンティティを考え直している人もたくさんいると思うし。本当に誰も傷つかないようにしたいし、そういう人間でありたいよねっていう共通認識が常にあります。

レモン:名前を伏せてラジオネームっていうルールはあるけど、それ以外のカチッとしたルールはほとんどなくて、それぞれの感覚を元にっていう感じです。

りんご:みんなの感覚を信じているから、信じられる人たちだなって思っているから、特にこれは言っちゃいけないとか、こういう表現は気をつけてねとか言いません。言わなくてもみんな分かってるし。

おこめ:たまに失言があっても、今よくなかったと思うって伝えたらそれを受け止めてくれるっていう信頼もある。

Oliva:ということは修正することはほとんどない?

おこめ:第1回は収録し直しました……完全にゼロから(汗)。

レモン:でもそれ以降は完全に撮り直すってことはなくて。話にあまりまとまりがつかなかったからカットしたりはあるけど。

じょん:あとは超内輪ノリになっちゃった時とか。寮のイニシエーション*3の話になった時に、それは学外の人には伝わりづらいねってことでカットしましたね。

おこめ:おしゃべりに夢中で話が長くなっちゃうこともあるね。

りんご:基本的に表現の問題でカットしたのは最近では本当になくて。例えば、前におこめとりんごの収録で映画の話をした時に、私が飯テロって言葉を使って。その時におこめが、人によっては飯テロって言葉に傷つく、トラウマを思い起こさせるかもしれないから、あまり使わない方がいい言葉だよねってことをその場で指摘してくれて。一連の流れをそのままラジオに残して配信したんですよ。収録中の会話でその言葉はあまり良くないからこの言葉の方がいいんじゃない? ってことをその場で言って、そのまま配信してるっていう方が多いのかなって思います。

ーー実際に「チルく」トークできてる?

おこめ:「チルい」の定義がみんなあんまり分かってない……(笑)。「チルい」ってワードを使う層があると思うんですけど……

じょん:バカ山チル*4だよね。

りんご:まあ変に力んでないって意味では、すごく「チルく」トークできてると思います! 例えば「今日収録か、めんどくさいな」とかは全然ない。むしろよっしゃみんなと喋れるって毎回参加してるって意味では完璧に「チルい」かなと(笑)。

レモン:そう。しゃべれる時間が自分にとってのリフレッシュだから、私にとってはチルだわ〜。

ーーこだわりは?

じょん:表現のあり方として、性にこだわらなくていいかなと思っていて。私自身は多分シスジェンダー*5(以下シス)だけど、あまり女の子らしくみられるのが好きじゃなくて。一人称で僕って使ってみたいなとずっと思っていたので、ラジオで使ってみたりとか、二丁目行くんだよねっていうトークとかも積極的に話したりとか。これがじょんだよって知ってほしいし、聞いた人がシス女性でもこういうあり方をしてる人がいるんだってことを知って、誰かが楽になってくれたら嬉しい。おこめとか聖司くんとかも共感してくれると思う。

おこめ:そうだね。マイノリティ性がある人がリスナーにいるとして、その人が安心できる場所になりたいよね。もちろんその人たちだけのために活動しているわけじゃないけど。

りんご:今社会にあるもののほとんどが、マジョリティに向けたものであって。だから私たちはせめて、マイノリティ側のためのものであっていいのかなってことを最近思っていて。もちろんヘテロセクシャル*6の人だったりシスだったり、男性であっても聞いてほしいけど、そういう人たちには彼らを受け入れてくれるところがたくさんあるから……。

おこめ:マイノリティ性をポジティブに捉えるっていうか。マイノリティ性をセレブレイト(祝福)する場所でありたいですね。

レモン:ラジオを実際やっていて思うのが、特にジェンダーの話だと自分には遠い存在に思ってしまうことが多い気がして。特にその人がマイノリティ性をそこまで感じてないと、そう思ってしまうことが多いんじゃないかなって思う。ジェンダーに興味を持っていない友達と話していても、そう思うことがあるけど。結構自分たちの身の回りにあることも、ジェンダーに関わっていることがあるし、たとえ自分がマジョリティ側にいてもそこで考えるのを止めるんじゃなくて、もっと、なんでだろう? とか、どうしたら良くなるだろう? って考えることが大事だと思うから、そういうことを考える場を提供できたらなって思っています。私は自分がヘテロセクシャルだなって思うので、そういうことを時々考えます。

りんご:確かに、ヘテロのシスの人に聞いてほしいですね。私はヘテロのシスだけど、やっぱり今はそういう人が特権を持っているからこそ、特権を持っていることで誰かを傷つけることがある。だからこそラジオをぜひ聞いてほしいですね。

 それと、音声コンテンツってことは結構活用していて。さっきのじょんの僕を使うって話も、もし顔が写っている状態で僕って使った時に今の日本だったら、女なのになんで? って来るかもしれない。お便りでも、「聖司くんって男だと思ってたけど、シスの女性で驚いた。自分の中にあるジェンダーによって人を判断する価値観に気付かされた」という趣旨のものをいただいて。それってやっぱり音声だからこそできることなので、これからもガンガン活用していきたいと思っています。誰が話をしているとか、どんな人が話をしているとか、容姿が見えない状態で、その人が何を話すかによって楽しんでもらいたいと思っていて、そこは結構こだわりかな。

Oliva:配信する時間帯にこだわりはありますか?

りんご:リラックスできる時間帯っていつかなって考えた時に、大体の人が学校や仕事が終わるのが金曜日だからって感じですかね。金曜がいいって言うのは割と早い段階で一致していて。で、0時なのはなんでだっけ(笑)?

レモン:キリがいいからじゃないっけ?

りんご:ちょっとよくわからないです(笑)。

[後編に続く]


*1カミングアウト:自身が少数派の主義・立場であることを公表すること。
*2セーフティスペース:ありのままで安心して過ごせる空間。
*3イニシエーション:新入生が寮での生活を始める際に参加するイベント。寮ごとに受け継がれている特色あるダンスや歌などをキャンパス内で披露する。
*4バカ山チル:本館前の芝生にある小高い丘(通称:バカ山)でゆっくりまったりすること。
*5シスジェンダー(cisgender):性自認(自分の性をどのように認識するか)と生まれ持った性別が一致している人のことを指す。
*6ヘテロセクシャル(heterosexual):異性に性的な感情を抱くセクシュアリティを指す。


今回インタビューした人

りんご

おこめ

じょん

レモン

ジェダイについてもっと知りたい方へ

・HP:https://sites.google.com/view/chillgender/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0?fbclid=PAAaZwoM2ELXZ5HRpBj9bc4fTxe7n3rJgCuhss8dCu9StJa0V7pDCU4ygtn-Q

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