なぜ、一般入試に「総合教養（ATLAS）」 が導入されたのか？

1.はじめに

ICUの一般入試では、2015年から「総合教養（ATLAS）」という科目が、「リベラルアーツ学習適性」の代わりに課される。総合教養は、日本の大学入試としては珍しく、「日本語を聴く」力を見る科目だ。

この科目では、15分ほどの講義の後に、60分程度の時間で、講義内容の理解、人文科学、社会科学、自然科学の各分野の問題に解答する。大学が公開しているサンプル問題から推測すると、4分野の問題数は同じくらいであると思われる。

多くの受験生が選択する一般入試では、1科目内の1分野に過ぎない。しかし、科目の特殊性を考えると英語リスニングと並んで試験全体を左右するパートになるだろう。

では、なぜICUは一般入試に総合教養を実施するようになったのだろうか。本稿は、ICUの入試制度刷新の背景を分析することを試みたものである。

2.総合教養の目的

ICUは、新たな一般入試において評価する領域として「対話力」と「学際性」を挙げている。入学者受入れ方針（アドミッションズ・ポリシー）に従えば、対話力とは課題の設定からコミュニケーションによる文化間交流、思考の批判的検討、対応策の決定と実践である。また、学際性とは、問題解決を行う主体における文系的・理系的な知の融合であろう。

リベラルアーツ適性試験では、知識にとらわれない柔軟な発想力、短い時間で内容を判断する瞬発力、多様な領域から出題される問題に解答する学際性が問われていた。

ICUの授業ではテキストや板書を読む力だけでなく、ディスカッションやグループワークに対応する能力や、講義中の先生の発言をまとめる力も必要になる。様々な分野の設問に短時間で解答するリベラルアーツ適性試験は、口頭で自分の意見を発表する機会が多いICUの学生生活に適応する能力を判断する役割があったはずだ。

ところが、リベラルアーツ適性試験にて出題される内容には傾向があり、ICU向けの予備校やWebレクチャーを利用すれば、過去問を集めて対策をすることができたため、次第に暗記でもある程度の点数をとることが可能になった。

そこで、大学側は聴く力を直接評価し、話す力に関してもより正確に判断するために総合教養を一般入試に導入したのであろう。

総合教養は、リベラルアーツ適性試験以上に学際性を問うことができる科目でもある。リベラルアーツ適性試験では、元素記号や三角関数などの断片的な知識は問われたが、それ以上の理系的な教養は評価されていなかった。

一方、総合教養においては、量こそ少ないながらも、講義に関連した自然科学分野の論述と選択式の問題が課される。サンプル問題においてこの分野の難易度はさほど高くない。大学側は自然科学に関する論述を出題することで、単に理系の受験生を求めているというだけではなく、受験生に文理の隔てなく、さまざまな分野の論述に親しんでほしいと考えているのかもしれない。

3.まとめ

これまでの一般入試は、基本的には「読む力」を判断する試験に過ぎなかった。「書く力」は、要約された文章から正答を選ぶ際に多少評価されているが、「聴く力」、「話す力」に関しては、ほぼ見られていなかった。しかし、総合教養が導入されることによって、リベラルアーツ学習適性では形骸化していた聴く力と話す力を適切に評価することができるようになり、より学際的に思考できる学生を集められるようになるのではなかろうか。

■関連記事
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http://weeklygiants.co/?p=597

■参考文献
国際基督教大学「2015年度　ICU入学試験　概要」、国際基督教大学『入試　学部4月入試　入学者選抜制度　一般入学試験』。
http://www.icu.ac.jp/admissions/april/general/index.html
（2014.9.20閲覧）
国際基督教大学「Q&A」、『入試　学部4月入試　Q&A』。
http://www.icu.ac.jp/admissions/april/faq/index.html
（2014.9.20閲覧）
国際基督教大学「新入試科目『総合教養（ATLAS）』のサンプル問題を掲載しました」、国際基督教大学『入試　学部4月入試　最新情報　一覧へ　2014年度』、2014.6.24。
http://www.icu.ac.jp/admissions/april/news/sogou.html
（2014.9.21閲覧）
国際基督教大学「入学者受入れ方針（アドミッション・ポリシー）」、国際基督教大学『入試　学部4月入試』。
http://www.icu.ac.jp/admissions/april/policy/index.html
（2014.9.21閲覧）