ICUは献学60周年記念事業で築いたブランドイメージと理念をどのように活かすべきなのか?
|1.はじめに
ICUは2013年に献学から60周年になり、「献学60周年記念事業」が2011年から2015年にかけて行われてきた。この事業では、「Dialogue(対話)」というテーマが定められ、ICUのロゴも一新された。ロゴマーク使用のガイドラインによれば、ロゴで用いられている青色は「ICUミッションブルー」という名前で、「ICUの使命に対する活力あふれる実践力」(1)のカラーであるそうだ。
献学60周年記念事業によって、東ヶ崎潔記念ダイアログハウスや新寮の建設、ICU Peace Bell奨学金の拡大などのプロジェクトがなされ、ICUは未来の60年を担う大学としての道を歩み始めている。
来年には献学60年記念事業が終わりを迎え、ICUの新たな行動計画の指針に注目が集まっていた。折しも2014年秋、ICUは文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援(タイプB)」の対象に選ばれる。
大学側の発表によれば、「国際的社会人としての教養をもって恒久平和の確立に資する有為の人材を育成する」(2)というミッションが定められ、今後10年間の取り組みによって「信頼される地球市民を育むグローバル・リベラルアーツ」(3)を実現したいとのことである。
このプロジェクトは、春期・秋期入学の相互交流や学修教育支援センターの開設など、献学60周年記念事業以上の大改革となる。また、来年度からは「総合教養(ATLAS)」の開始をはじめとする入試制度の刷新がなされ、2017年4月には「リビング・ラーニング・コミュニティ(LLC)」を備えた新々二寮が開設予定となっている。
しかし、これらのプロジェクトが進行するにつれて、献学60周年記念事業で統合された「ICUミッションブルー」というブランドイメージや「Dialogue」という精神が曖昧になってしまう恐れがある。なぜならば、献学60周年記念事業はICUのアイデンティティを再確認するものであったが、スーパーグローバル大学事業は外部に対してICUの取り組みをアピールするものであり、「グローバル人材」を要請する社会の期待に応えたものだからである。
このコラムでは、献学60周年記念事業を終えたICUのブランドイメージと理念のこれからを分析し、将来ICUがとるべき指針を検討したい。
2.ICU独自の価値とは?
献学60周年記念事業では、ICUのロゴの色が「ICUミッションブルー」であり、テーマが「Dialogue(対話)」であるように、「グローバル」や「地球市民」ではなく、その根底にある「使命」や「対話」がプロジェクトの象徴であった。大学の公式サイトでは、「3つの使命」として「国際性」、「キリスト教」、「学問」が挙げられており、それらの基礎をなすものとして「使命」や「対話」を重視としたのはもっともな判断であろう。
とりわけ、大学の公式サイトから学内の看板に至るまで、ロゴのデザインと色が規定されたことによって、単一のブランドイメージを発信することができるようになり、ICUブランドの向上が図られた功績は大きい。
一方で、スーパーグローバル大学事業におけるミッションや目標は、「国際的社会人」や「グローバル・リベラルアーツ」といったものである。ICUが献学された当初であれば、これらの理念だけでも価値のあるものであっただろう。しかし、国際教養大学や早稲田大学の国際教養学部など国際的な人材を育成する大学や学部の設置が進み、リベラルアーツという単語も一般化しつつある今日においては、ICUだけの専売特許であるとは言い難い。
せっかく独自のロゴや「Dialogue」という理念を定めたにも関わらず、スーパーグローバル大学事業においては、これらの財産が十分に活かせていなのである。
「国際性」、「学際的」というだけで意義のある大学だと認知されていた時代はもう終わり、ICUは次の一手を考える必要がある。そこで活用すべきなのは、献学60周年記念事業を通じて再度向き合ったICUのアイデンティティである。
「グローバルブルー」などといった名前ではない、学際性やキリスト教も含めた使命を象徴するロゴ、「東ヶ崎潔記念『ダイアログ』ハウス」と施設の名前にもある「対話」という精神。これらは他のグローバル大学にはない唯一無二の価値である。大変革期を迎えている今だからこそ、外観のデザインだけでなく、学内の制度や教職員の意識もブランドイメージを踏まえるとともに大学独自の資産を活かした改革をすべきであろう。
3.まとめ
ICUのロゴで使用されている「ICUミッションブルー」のメッセージと、「Dialogue」という献学60周年事業の理念の発信は事業内のみに留まっており、外部に十分周知されているとは言い難い。公式サイトの大学概要で最初に「3つの使命」が掲げられているのであれば、ICUは「使命を遂行する大学」であることをもっとアピールすべきである。
また、語学力やリベラルアーツという特徴も「対話」というメッセージに統合できるのではなかろうか。単に施設名に「Dialogue」とついている、何となく統一されたロゴで青系統のデザインになっているという程度の認識しかされていないようであれば、ブランドイメージやICUが持つ精神の発信はまだ不十分である。
「英語力が身につく」、「リベラルアーツで様々なことが学べる」大学としてではなく、ICUが独自のミッションを持ち、様々な対話がなされる、世界でただ一つの教育機関であると認知されるようになることを望む。
注釈
(1)国際基督教大学 パブリックリレーションズ・オフィス「献学60周年記念ロゴマーク ガイドライン」、国際基督教大学『MENU 大学概要 ロゴ・ICUソング ロゴマーク・ICUソング』、p. 2。
http://www.icu.ac.jp/about/docs/icu_logo_guideline.pdf
(2014.11.24閲覧)
(2)国際基督教大学「文部科学省 2014(平成26)年度『スーパーグローバル大学創成支援 タイプB』に採択」、国際基督教大学『ICU NEWS 教育・学生生活』、2014.9.26。
http://www.icu.ac.jp/news/20140926.html
(2014.11.24閲覧)
(3)同上。
参考文献
国際基督教大学「献学60周年記念事業」。
http://subsite.icu.ac.jp/anniv60/index.html
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学「大学概要」、国際基督教大学『MENU』。
http://www.icu.ac.jp/about/
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学「平成26年度 スーパーグローバル大学等事業 『スーパーグローバル大学創成支援』 構想調書 【タイプB】」、日本学術振興会『事業のご案内 大学の教育研究機能の向上 スーパーグローバル大学等支援 スーパーグローバル大学創成支援 審査結果 平成26年度』。
http://www.jsps.go.jp/j-sgu/data/shinsa/h26/sgu_chousho_b13.pdf
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学「3つの使命」、国際基督教大学『MENU 大学概要 使命・沿革』。
http://www.icu.ac.jp/about/commitment.html
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学「文部科学省 2014(平成26)年度『スーパーグローバル大学創成支援 タイプB』に採択」、国際基督教大学『ICU NEWS 教育・学生生活』、2014.9.26。
http://www.icu.ac.jp/news/20140926.html
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学「ロゴマーク・ICUソング」 、国際基督教大学『MENU 大学概要 ロゴ・ICUソング』。
http://www.icu.ac.jp/about/logo/index.html
(2014.11.24閲覧)
国際基督教大学 パブリックリレーションズ・オフィス「献学60周年記念ロゴマーク ガイドライン」、国際基督教大学『MENU 大学概要 ロゴ・ICUソング ロゴマーク・ICUソング』。
http://www.icu.ac.jp/about/docs/icu_logo_guideline.pdf
(2014.11.24閲覧)
The Weekly GIANTS Online「あなたの声が寮を創る ―新々二寮建設支援委員会インタビュー」、The Weekly GIANTS Online『INTERVIEW』、2014.9.30。
http://weeklygiants.co/?p=1610
(2014.11.24閲覧)