ICU報道のウソ!? 「関係者」証言に燃える各誌の報道を振り返る

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昨年秋以降、私たちの大学がメディアに取り扱われる機会は急増した。いちICU生としては当然、その粗さが気になるわけだ。春先には「新入生をエイプリルと呼ぶそうです!」などと読み上げるアナウンサーに苦笑いする程度であった(ちなみに正しくはエイプリルとは4月入学生を意味し、9月入学生(=セプテン)と区別する学内の用語。新入生であろうが、4年生であろうが、エイプリルはエイプリルなのである。)

しかし次第に、ICUが世間にあまりよく知られていないことをいいことに、間違った事実を書き立てる週刊誌が目に余るようになってきている。そんなトンデモ報道の数々のなかからいくつかピックアップして、「ICUの週刊誌」の記者である筆者が、独自の検証を行ってみた。

 

1. 「学生に対し、ネットで不用意な書き込みをしないよう『箝口令』が敷かれている」(と、いう「関係者」による証言が紹介された記事)

取材を受けたご本人は、もしかしたら「箝口令が敷かれている」つもりでいらっしゃる、ということなのかもしれない。しかし筆者が知る限り、一般的なSNS利用上の注意については通達があるものの、特定の話題に関する学生全体に向けた通達はない。いまご覧いただいているオンラインサイトを擁する、学内最大のメディア団体Weekly GIANTS Co. にさえ、現時点でもそういった「箝口令」は課せられていないのだ。

そもそも、若年層による「バカッター」が問題化して久しい今どき、SNSをはじめとしたネットの取り扱いについて注意を促すのは、どこの大学でも変わらないだろう。この話題に限った話でもない。

またネット上の「箝口令」についてからは離れるが、「ICUの学生は帰国子女が多く、浮世ばなれしているから囲い込みやすい」、つまり、いわゆる内通者を作っているという旨の「週刊誌皇室担当記者」の発言が紹介された別の記事もある。ネット上・現実問わず、こうした情報の発信については、学生の自主性に委ねられている、というところが実情だ。良し悪しは別として、ICUらしい、ともいえよう。むしろある特定の種類の情報だけ秘匿されるような社会は恐ろしげでさえある。

 

2. 「ICU内では6月中、さまざまなイベントが行われました。例えば、……教授”たち”がDJとなり、”ほとんどの”学生が参加する『ボールパーティー』、学生寮の風呂場で水着になり行う『混浴パーティー』などです」(と、いう「関係者」による証言)

学内の寮に住む学生が寮外の人々を招いて行う「ボールパーティー」は確かに実在する。春学期終盤の6月、学内にある第二男子寮主催でおこなわれたボールパーティーには、同寮が閉寮となる前の最後のボールであることも手伝ってか、学生を中心に多くの参加者が詰め掛けた。第二男子寮の最後の「大統領」(寮長)である榑林笙太氏によれば、その数、正式な受付記録としては500名ほど、混乱のなか正確に把握しきれなかった人数も含めれば600名ほどだったとのことである。

もとの収容人数30数名にすぎない第二男子寮で行われたイベントであることを鑑みると、たしかにこれは膨大な数であり、主催側の寮生たちの苦労が並々ならぬものであったことは容易に想像できる。しかし、大学公式発表によれば2800強の学生がいるICUにおいて、600という数字を「ほとんど」という言葉を使って表現していいものであるかは疑問である。

榑林氏はまた、「私も噂程度にしか聞いたことないのですが」と前置きした上で、「私たちの寮とは別の寮が主催したボールパーティーで、ある教授がDJをして場を盛り上げた、ということがかつてあったらしい」と述べた。一からの作り話、というわけではないようだ。しかし、「6月に行われた今回のボールでのDJたちは私が呼びました。その中に『教授』は居ません。一般の参加者としても教授はほとんどないでしょう。社会人参加はいますけどね」と続ける。伝統ある寮の長を継いだ人物でさえ「噂」としてしか聞き及んでいないような話であるというばかりでなく、「教授『たち』」と一般化するにしては、あまりに個人的かつ特殊な例であったようだ。

「混浴パーティー」。そんなの初めて聞いたぞ、と驚いたICU生も多いのではないだろうか。情報のでどころが気になるところであるが、当該報道にて取り扱われた「混浴パーティー」なるものに近いものが、学内に存在するとある寮にて開催される「らしい」ということがTwitter上で話題になり、どうやらそこを根拠として記事にしたようだ。

しかし、その実施を明確に示すような情報はいまのところ見当たらない。また仮に実際に開催されていたとしても、それはICUのなかでも限られた人々以外は存在すら認識できない程度の、ごくごく小規模なイベントであったということだ。記事タイトルにまで「混浴パーティー」という言葉を混じえつつ、全学的イベントであるかのような誤解を招きかねないような取り上げ方をしている当該記事は、明らかに偏向的といえよう。

 

3.「水泳の授業を、ビキニやタンキニなど、おしゃれな水着を着て受ける女子学生がほとんど」(と、いう「関係者」)

学外の者に言うとよく驚かれることだが、ICUでは体育実技科目が必修である。なかでも、1年次に全学生が一律に履修させられる「Basic(ベーシック)」と呼ばれる科目において、男女別で数回にわたって水泳の授業がある。ここまでは事実であり、毎年のように水泳の苦手な学生を苦しめているのだ。とはいえビキニやタンキニで、とは。ICU男子学生たる記者もびっくりである。

しかし。こんなものはあえて訊ねて回るまでもなく、この報道について話題にのぼった際にICU女子学生たちがとった態度から推して量るべきであろう。それは、「失笑」「呆れ」もしくは「怒り心頭」といった類のものである。

 

いかがだっただろうか。各誌における報道は、全くの想像の産物というよりは、真偽の判別しづらい噂レベルの情報、あるいはごくごく一部分を切り取った情報を、さもICUにおける一般的な状況であるかのように不当に拡大して騙るものが多いことがお分りいただけるだろう。よくあることだ、ゴシップ記事など相手にするまでもない、そういう考え方もあるかもしれない。しかし筆者は、今まで表立ってメディアで取り扱われることのなかった「ICU」が、歪められたイメージとして、じわり、じわりと広まりつつあるのではないかと懸念している。

現に、筆者のアルバイト先で共に働くとある他大学生は筆者がICUの学生であることを知ると、「『混浴パーティー』行ったことあるの?」と興奮を隠さず聞いてきた。そういったものに触れてこなかった、触れるつもりも別にない大多数のICU生のうちの1人としては、全く心外なことである。また、「混浴パーティー」などというものがあると耳に入れてしまったら、大事な子どもを受験させる親としては気が気でないはずだ。そんなことを理由に「ICUを受験しない」という選択をする受験生が出てきてしまうのは、想像するも悲しい事態である。

ひとびとの欲望と好奇心を満たすことで儲けようとする扇情的な情報は、それゆえに広く、素早く拡散する。小規模で目立つこともなく、年配のひとびとや大学教育に関心を持たないひとびとからは「集中治療室?」「牧師さんにでもなるの?」などと言われるほどだったICU。一気に注目を集めたいま、たかがゴシップ記事といえどもその影響には計り知れないものがあるのだ。

高貴なる不関与を貫く人々の態度だけにではなく、意識あるICUの学生たちがよくSNS上で使う、「放っておいてほしい」、「そっとしてほしい」、というような言葉にも、筆者は違和感をおぼえる。そう言って放っておいてくれる相手だろうか?ということ以上に思うのは、「放っておいてくれ=黙ってくれ」と発言することが、敗北宣言とさえ受けとられかねないのではないかということだ。

「言論には言論をもって反論せよ」が金科玉条である世界にいる彼らにとって黙ってくれなどという主張は痛くも痒くもないし、それを受け入れることなどありえないだろう。どれほどICUの関係者たちが怒りと悲嘆のこもった声をあげようとなんら被害を受けることのない彼らは、ただほくそ笑み、勝ち誇ったかのように同様の偏向記事の執筆にとりかかるであろう。センセーショナルな内容で閲覧数を稼ごうとする彼らにとり、世間の目にはミステリアスにさえ映るであろうICUはいいネタだ。

このように思いながら、知人たちによるFacebook上の「そっとしておいてよ投稿」に、筆者はどうしようもなく歯痒さを覚えるのだ。その投稿に「いいね!」するしか能のない筆者自身にも。しかし、「ほっといてよ」、おそらく多くのICU生の共感を得るであろうその言葉が、自分に共感してもらうためのネタのひとつとして非常に有用なのは確かだ。コミュニケーションの1つの方法としては、このような言葉は無意味ではない。

夏期休暇中の現在は、ICUを取り扱った報道はいったんの落ち着きを見せている。しかし、秋学期に入ればその安寧も破られるだろう。また、来る秋学期には一大イベントICU祭も控えている。話題性につられて増加が予想できる一般の来場者に紛れて、目に見えて分かるもの・そうではないものも含め、報道に関わるものたちが多く押し寄せるのではないだろうか。各報道におけるICUの扱われ方に対し、今後も厳しい目を向けていきたいものである。

 

※記事内訂正
「大学職員」という表現について、誤解を与えかねないと判断したため改めさせていただきました。関係者の皆さまにはご迷惑をおかけいたしました。申し訳ありませんでした。
2015年8月7日 The Weekly GIANTS ONLINE編集部