ICUがシリア人学生への奨学金制度設立 ー受け入れを前に聞く、制度の全容ー

2017年6月、ICUとJICUF(日本国際基督教大学財団)は、シリア難民がICUで学ぶための奨学金制度「シリア人学生イニシアチブ(Syrian Scholars Initiative: SSI) 」を設立したと発表した。それから9か月が経過し、いよいよシリア難民学生を受け入れるまで半年を切っている。今回は、学生サービス部長の岸本誠さん、事務局長の畠山珠美さんからお話を伺った。(インタビューは再構成済み)

 

 

――まず、奨学金制度を設立するに至った経緯を教えてください。

畠山さん:ニューヨークにJICUF(日本国際基督教大学財団)という団体があります。献学以来今日まで、日頃から色々と、ICUの国際化のためのサポートをしてくださっていて、様々な形態の奨学金も提供してくれているのですが、そのひとつとして提案されたのが始まりです。世界の現状を見て、「少しでもシリアの難民を援助したい、そのためにICUができることはないのか」という模索がJICUF内でなされる中で、奨学金制度を作り、「大学に進学したいけれど、経済面など色々な面で叶わないシリア人難民たちに大学生として学ぶことを目指してほしい」と計画が立ち上がったと聞いています。その流れで、JICUFから「このような奨学金制度を作りたいのだけれども、ICUは協力できますか」という提案を受けました。ICUとしては、シリアに限らず世界中の多様な学生を受け入れることには前向きですから、一緒にやりましょうという合意の下、実施することになったということです。

制度の具体的な内容はほぼJICUFが考え、その上で大学側と例えば「寮はICUが提供しましょう」とか「授業料はJICUFが持ちましょう」とか、そういうすり合わせをして、今に至ります。もちろん難民となった若者を学生として受け入れることは初めてのことですので、私たちが想像もつかないようなこともあるだろうとは思います。なので、加えてJAR(難民支援協会)という認定NPO法人とも協働し、受け入れに関する様々なサポートをしていただくことになっています。

 

――どの学生を受け入れるかの選考は、どういった形式で行われるのですか?

畠山さん:「シリア難民」の中でも、具体的には現在トルコにいるシリア人を受け入れることになります。JICUFとJARのスタッフがトルコに赴き、志願者をリクルーティングすることになりますが、その際本学の新垣修教授(法学、公共政策、ジェンダー・セクシュアリティ研究、平和研究)が、コーディネーターとしてプロセスに加わります。

岸本さん:そうして選ばれた方に、他のICU書類選考志願者と同様の要件と手続きにより、ICUを志願してもらうことになります。

畠山さん:この制度は、JICUFが奨学金を支給する学生を選んで終わり、ということではありません。現地で選ばれた方は、ICUの入学選考を他の留学生と同じプロセスで受け、それに合格して初めて奨学金が支給されることになります。

岸本さん:大学が用意している入学選考を受けていただく点は他の学生と同じ。ただ、合格した暁には奨学金が出ますよ、という条件を最初に提示している点が違うということです。

 

――初年度分の学生の選考プロセスはどこまで進んでいるのでしょうか? 受験はすでにされているのでしょうか?

畠山さん:すでに志願されています。

 

――受け入れの体制について詳しく教えてください。先ほど寮の話などが出ましたが、選考プロセスを経て入学者が決まったのち、大学として他には具体的にどういったサポートをすることになるのですか? 

岸本さん:まず、入学者の受け入れにあたって、夏休みに毎年ICUで開講されているサマーコース、夏期日本語講座に参加し、日本語と日本文化について学んでもらうことを考えています。

入学した後は、本当に経済的に困窮している方を受け入れることになるので、かなり手厚い形でサポートを提供していこうと考えています。具体的には、学費はもちろん、住む場所として学内の寮を提供するほか、食費をはじめとして生活上のサポートもする予定です。また、具体的な金額は伝えられませんが、生活をしていく上での経済的支援も、このプログラムには入っています。

ただ、最低限の経済面のサポートで足りない分は、他の学生と同じように学生アルバイト等に取り組んでもらいたいと考えています。勉強や課外活動など、前述のサポート以外の部分では、各自の判断で、他の学生と変わらない学生生活を送ってほしいと思います。

 

――JICUFとICUJARで協力をしてサポートするということですよね。

岸本さん:そうですね。JARには経済的な支援というより人的なサポートをお願いしています。

畠山さん:彼らが悩みを抱えたときなどに、サポートをお願いしたいと考えています。JARは難民支援のノウハウを持っており、それに関して全面的に協力するということを言ってくださったので、私たちも受け入れについての不安を払拭できました。

 

――ICUとして、今までにこういった経済的に困窮している留学生を受け入れた実績はありますか?

岸本さん:今までも、いわゆる開発途上国出身の学生が在籍していたことはあります。しかし、こうした特別な制度を設けて学生を受け入れるのは新しいことです。

畠山さん:残念なことに、世界のシリア以外の場所にも難民の方は大勢いるので、シリアに限定することについては、学内で意見交換がなされました。ですが、これだけ緊急で世界的な支援が必要だと言われているシリア難民に対し、少しでも協力したいというJICUFの熱い思いを受けて、今回の制度を新設し、大学として受け入れることになりました。

 

――制度としての、今後の展望を教えてください。

畠山さん:まず、今年2名を受け入れて、2025年までの8年間に計6名を受け入れる計画です。それ以上のことは現状何も決まっていません。こういった奨学金制度を運用するには相応の財源も必要ですし、手広くは行えませんが、今回はJICUFも募金活動を始めとして精力的に活動しているので、ICUとしても那須キャンパスで行っている太陽光発電の収益を充てるなどして、協力していきます。

 

――制度が施行された後に期待していることはありますか?

岸本さん:そうですね。まず、正直に言って制度が施行された後のことについては、一つひとつ手探りでていねいに進めていきます。受け入れの体制は作りましたが、実際にICUにその学生方が入学し、どんな風に過ごすのか、上手く馴染んでくれるのか、そのためにこちらは何ができるのか、そういったことは、実際に入学した後に一緒に考えることになると思います。

畠山さん:受け入れ予定者の方々は、トルコでは日本語を学んでいるので、日本に興味を持っている学生が入学するんだろうなと感じています。一番は、他の学生と同じく「普通に」、日本の大学生活を謳歌していただければ嬉しく思います。

岸本さん:彼らは母国から逃れざるを得ず、普通の生活ができなかった人たちです。やはり「あたりまえの普通の大学生活」をしてもらうというのは大事だと思います。僕らは普通に生活しているので気が付かないことも多いかもしれないですが。

 

――特別視するのではなく、個人的にも「普通の学生生活」を送ってほしいと思います。

畠山さん:私も、本当にそう思います。ICUの学生だったら、彼らがそのように過ごせる、受け入れ土壌があるのではと期待しているところです。

 

――現状、ICUには難民ではなくても、多様なバックグラウンドを持つ学生がいますよね。

岸本さん:そうなんですよね。今度受け入れる彼らのそれも、「多様なバックグラウンド」の一つだと思います。畠山さんもおっしゃった通り、ICUだからこそ彼らを自然体で受け入れ、一緒にやれるのではないかと考えています。寮生活などにおいても、ICU生ならば皆受け入れてくれるだろうし、シリアからの留学生にも、関心のあるクラブやサークルを見つけたら、ぜひ入ってほしいです。

畠山さん:ICUの学生さんにとっても、シリアから来た方々との出会いが刺激になるなら幸いに思います。「シリア難民」という肩書きが話題性があるので難しい部分もあると思いますが、別に毎日名札をつけているわけじゃありません。バックグラウンドを知っていても、自然に接していくれるんじゃないかと、私たちは期待しています。

 

 

――ありがとうございました。