ICU在学生を無料で招待!ー劇団主宰者が『アイヌ 旺征露』東京公演を前に語る、シェイクスピア劇の魅力と本公演への思いー
|東北弁でシェイクスピアを演じる劇団シェイクスピア・カンパニーによる『アイヌ 旺征露(オセロ)』の東京公演が、2018年6月9日(16:30開演)・6月10日(13:00開演)に国際基督教大学ディッフェンドルファー記念館東棟オーディトリアムで行われる。本学を1985年に卒業し、シェイクスピア・カンパニーの主宰を務める下館和巳(しもだてかずみ)さんによるレクチャーが5月15日の「西洋古典の世界」の授業内で行われ、シェイクスピア劇の魅力や『アイヌ 旺征露 』に込めた思いが語られた。
「シェイクスピア劇は、最初の一言にそのエッセンスが込められている」と話す下館さん。下館さんがシェイクスピアの四大悲劇『オセロ』『ハムレット』『マクベス』『リア王』のそれぞれ最初のセリフを紹介し、その作品の主題を浮かび上がらせる様子に学生たちは引き込まれていった。下館さんによると、それらのセリフにはキャラクターの個性がよく表れるが、同時にセリフの言葉自体がそのキャラクターを作っているのだという。『オセロ』の冒頭のセリフは ”Tush.”で、日本語に訳すと「ちぇっ」の一言である。これはロダリーゴという白人のセリフだが、全体を通して見るとこの物語を大きく動かしていくイアーゴの「不満」の暗示以外の何ものでもない。黒人の将軍であるオセロは彼の部下で白人のイアーゴに騙され、白人の妻デズデモーナの浮気を疑って殺してしまうが、最終的に真実を知って自殺してしまう。その全ての発端はこの物語の最初のセリフ、”Tush.”から始まっているのである。白人中心の世の中であり、黒人は悪として描かれることが多かった当時のイギリスで、あえて黒人を主人公として白人のイアーゴを悪役にした『オセロ』は、シェイクスピアにとって世の中に対する挑戦であった。
また、登場人物のセリフも良く計算されたうえで書かれている。例えば、『ハムレット』で有名なセリフ、”To be or not to be, that is the question.” はシンプルで理解しやすい言葉だが、その後には”Whether ‘tis nobler in the mind to suffer…”と続き、同じニュアンスを複雑に言い換えて語る。こうした箇所には劇作家としてのプライドをにじませつつ、万人に理解されるような作品を作ろうとするシェイクスピアの作品に対する姿勢が表れているのだ。そして、それらのセリフは観客に向けて語りかけられており、観客が役者と交わることができるように作品が作られているという。
学生時代から演劇に携わってきたという下館さん。自らのプロモーションによって高い倍率を突破してその参加への切符をつかんだスコットランドで行われる公演祭、エディンバラ国際フェスティバルでは、合計900万円もの資金を団員からひとりあたり30万円ずつ調達したという。シェイクスピア・カンパニーで上演する『アイヌ 旺征露』には、「黒人と白人」の構図が「アイヌ人と和人」に置きかえられ、アイヌ人に対する人種差別の実態や彼らの文化を伝えたいとの思いが込められている。公演には共同演出としてアイヌ民族の秋辺デボさんが加わったが、下館さんは初めからアイヌの人と一緒に作品を手がけることを考えていたわけではなかったという。しかし、不思議なめぐり合わせで出会った秋辺さんは、差別用語が削除されている脚本を読んで「差別用語を消してしまえば、アイヌに対する差別の実態は伝えられない」と指摘し、差別用語も含めた脚本のままで共同演出することになったという。
東京公演をここICUにて行うことになり、卒業生の下館さんとしても公演にかける思いは深い。ICU生へのメッセージとして、「私は、シェイクスピアをまさにここICUで学んだので、いつかここで上演したいと考えていました。アイヌの方々をシェイクスピア劇の中で見ることも前代未聞なことですから、必見です! そして、何より嫉妬をテーマにした『オセロ』は絶対面白いですよ 」とのお言葉をいただいた。
なんと今回の公演は、ICUに在学する学生は無料で観劇できることとなった。各公演の開場時刻(6/9 16:00、6/10 12:30)に旧D館オーディトリアム2階入り口で学生証を提示の上、入場できるとのことだ。また、すでにチケットを購入した学生は、当日受付にチケットを持参すれば払い戻しが受けられる。一般向けのチケットに関してはシェイクスピア・カンパニーの公式サイトを参照して欲しい。