なぜ考古学系の本が残ってしまうのか? 「誰も借りてくれない本フェア」でも借りられなかった本を借りてみた

図書館

1ヶ月ほど前、ICU図書館で行われたユニークな展示を覚えているだろうか。そう、「誰も借りてくれない本フェア」である。

Twitterだけではなく、ネットニュースやTVでも取り上げられて注目を集めたこのフェアが、今月19日に行われたオープンキャンパスにて1日限定復活を遂げた。オープンキャンパス当日は、1ヶ月前と同じく新書を対象として展示され、本棚には図書館職員の方々によって手作りされた好奇心と同情心をくすぐるポップが並んでいた。

さて、ここでは学内外問わず人気を博した、「誰も借りてくれない本フェア」でも借りられなかった本に焦点を当ててみたいと思う。フェア期間中、SNSなどでその存在が知られるや否や、噂を聞きつけた学生たちによって瞬く間に借りられていった「誰も借りてくれない本」たち。しかし、図書館エントランス隣の本棚に、カラフルで力の入ったポップが張り付けられるという、今までにない好条件で展示されたにも関わらず、残念ながら学生の手に渡らなかった本たちも存在する。

選ばれる本と選ばれなかった本、その違いは一体どこにあるのだろうか。

 

「選ばれなかった本」とは

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1 .新しい本

まず、選ばれない本の理由として最も単純なものが、知名度の低さである。当然、新しい本は他と比べて人目に触れる機会が少なく、学生たちはその存在を知らない。また、奇抜なタイトルなどで注目を集めない限り、図録から専門書まで幅広い分野の図書が並ぶ新着本棚の中で、新書が存在感を出すのは難しいだろう。

 

2 .専門用語が多い本――新書の様式変化

突然だが、皆さんは新書と選書の違いをご存知であろうか。

新書は、新書版と呼ばれる文庫本よりひとまわり大きいサイズをしており、専門的なことが分かりやすく書かれている学問の入門書である。一方選書は、新書よりももうひとまわり大きなサイズだ。内容も新書と比べて専門性が強くなるためか、値段もぐっとあがる。フェア期間中に借りられることのなかった本の中には、選書を始め、専門用語などの事前知識が必要そうな新書が数多くみられた。

では、なぜ専門分野への入門書であるはずの新書や選書が、事前知識が必要そうだという理由で避けられてしまうのだろうか。

原因の1つとしては、新書というジャンルの立ち位置が学問の入門書から時事系、自己啓発系、自伝やビジネス系などへ変化したことが挙げられる。
出版物の売り上げが落ち込む中、今までは各専門分野にのみ焦点を当てる役を担っていた新書も、時代の流れによって、その様式を少しずつ変化せざるを得なくなった。その結果、時事問題や礼儀作法、ビジネスノウハウなどという比較的親しみやすく手軽な話題を題材とした新書が爆発的に増え、一般的な新書へのイメージが学問書から時代の流行を映し出すものへと変化していったのである。

特に変化前の新書の様式を知らない今の学生たちにとって、もはや新書は流行を知るためのツールであり、専門性を学ぶためのツールではないのだ。そのため、専門用語や事前に知識が必要そうな本や、より専門性の強い選書が選ばれなかったのではないだろうか。

 

3 .「借りてくれない本」の分野に興味を持つ学生が少ない

ここで、残ってしまった本のタイトルをいくつか挙げてみよう。

『発掘から推理する』
『「明石原人」とは何であったか』
『木簡から古代がみえる』
『三角形の七不思議』

お気付きだろうか。残ってしまった新書や選書のタイトルは、特定の分野に焦点を絞ったマニアックなものなのである。明石原人そのものや、木簡などに強い関心のある学生がいない限り、特定の分野にのみ特化したこれらの本が借りられることはなさそうだ。

大学図書館を利用する多くの学生たちは、本を探す際、OPACを利用することがほとんどである。ご存知の通り、OPACでは検索でヒットしたタイトルや本の外観等の概要から内容を推測し、検索結果から取捨選択しなければならない。そのため、自分の欲しい情報がタイトルにクリーンヒットしない限り、シンプルな外装かつマニアック層を狙ったタイトルの新書は、手に取られる機会が少ないのである。要は、タイトルや見た目によって本の良し悪しが決められているといっても過言ではない。

また、大学図書館を課題やレポート等の資料集めのために利用する学生も多い。こういった学生たちのほとんどは自身にとって参考となる本のみを探し、授業科目に関係のなさそうな本を借りることは少ない。そのため、ICUでの授業数が少なく、あまり取り扱われていない考古学や物理学などの本が取り残されてしまったのだろう。だが、リベラルアーツを掲げる大学にしては少し視野が狭いようにも思える。

 

最後に

よく選べ! よく読め!

大学図書館ランキングにて上位をキープし続けているICU図書館だが、図書館の入館者数と貸し出し冊数は、年々減少傾向にあるという。かくいう筆者もこのフェアを通じて、大学生になってからというものの、中学、高校と比べて読書にあまり時間を費やさなくなってしまったことに気付かされた。

今回の「誰も借りてくれなかった本フェア」では、図書館員の方々が私たち学生に代わって、新しい本を見つけ出してくれた。この企画で借りた本に影響を受け、新しい世界を知った学生もいるだろう。フェアをきっかけに、今度は自分の力で新しい好奇心の対象を見つけ出してみてはいかがだろうか。長い夏休みは、まだまだ終わらないのだから。

余談であるが、筆者も「誰も借りてくれない本フェア」でも借りられなかった本を3冊「卒業」させてしまった。責任をとってブックレビューを近々公開しようと思う。

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