私の芽―自立を助ける―
|この大学には、様々な人が存在する。大学で行う活動は人それぞれだが、中には大学内のみならず、個人で世界へと飛び出す人もいるようだ。今回はそんな学生の1人である、田口愛さん(ID22)にインタビューを行った。田口さんは、日本から遠く離れたガーナにて、自立支援ビジネスを行っている。その活動内容、そしてその活動を支える思いは何なのだろうか。
――まず、田口さんがガーナで行なっている活動について教えてください。
私は、ガーナにおいてカカオとフルーツの供給過程に着目し、自立支援ビジネスを行なっています。活動は大きく分けて2つあり、1つはカカオ豆の加工に関するプロジェクトです。昨年の7月にガーナに工場を建て、カカオ豆の加工と販売を、現地の人々と共に行なっています。今までガーナでは、カカオ豆は生豆での販売のみだったのですが、ローストすることで付加価値を付け、より生産者が利益を得られるようにしています。2つ目はドライフルーツに関するプロジェクトです。ガーナでは果物がよく採れるのですが、冷蔵庫が普及していないため長期保存ができません。そのため、村で売れ残った果物は廃棄されてしまっているのです。廃棄される前の果物をドライフルーツにすることで再利用し、また現地の子供たちに健康に良いおやつとして広めていきたいと思っています。
――この活動を始めようと思ったきっかけは何でしょうか?
私は幼少期をポーランドで過ごしたのですが、住んでいた場所は貧困農村地帯でした。ある時、別の村に行ったところ、そこでは同じ野菜を生産しているのに、ピクルスにすることで付加価値を生み出していました。子供たちは学校に行けていましたし、着ているものも私の村とは違いました。この時、「加工」というものの大事さを、子供ながらに感じたのです。また、私は元々チョコレートが大好きでした。子供の頃に隣の家のおじいさんが、いつも私にチョコレートをくれました。私はそれを宝物のように思っていて、発表会や受験の前などの大事な時に食べて心を落ち着かせていました。私にとってチョコレートとは、人生の重要な瞬間にあるものだったのです。ところが中学生の時、そのチョコレートが貧困問題と絡んでいると聞き、大変ショックを受けました。そんなこともあって、大学に入ったらガーナに行こう! と決めていたのです。
――活動を行う中で、モチベーションとなっている思いは何ですか?
チョコレートでもドライフルーツでも、どちらのプロジェクトにも共通する思いとしては、「現地の人々の可能性を、現地にあるもので、現地の文化を活かして広げたい」ということです。カカオ豆も果物も現地の特産品ですが、今の現地の人々は、それらを使って自らの可能性を広げることができていません。カカオ豆を加工したくても、その技術も機械を買うお金もありませんし、フルーツを保存したくても冷蔵庫を買う余裕はないのです。お金に関する問題だけではなく、労働意欲に関する問題もあります。ガーナでは、カカオ豆は一律価格で取引されているため、どんなに努力して良い豆を作っても、価値が上がることはありません。格差を生まないというメリットもあるのですが、結局は価格を一定にして政府が一括で輸出を行うことで、国が利益を得るためのシステムなのです。こうしてこの結果労働意欲は下がり、カカオ豆の品質も下がり、売れなくなり、貧困が継続してしまう、という負の連鎖が起きています。
私がガーナを訪れた時、カカオ農園で働いていた人々の多くは、自分たちが育てているカカオ豆が、この後何になるのかを知りませんでした。つまり、チョコレートさえも知らないのです。現地の人々にとって、カカオ豆栽培はお金を稼ぐ手段でしかなく、労働に対しての希望や喜びを感じられていないように見えました。チョコレートは、ガーナの人々にとってはとても遠い存在だったのです。そのことを私は悲しく感じ、現地でカカオ豆からチョコレートを作るワークショップを開催したところ、現地の人に「世の中にこんなにおいしい食べ物があるなんて知らなかった!」と喜んでもらえました。この言葉をまさにカカオの生産者である農家の人から聞いたことは、私の中でとても印象的でした。
人々の反応が嬉しかったので、その後も村を回ってワークショップを続けていたのですが、私の中では何かもやもやとしたものが残っていました。ワークショップをすることによってその時は喜んでもらえても、人々は翌日にはまた、いつもの意欲のない、先の見えない労働に戻るのです。学校に行けず農園で働いている子供や、マラリアに苦しんでいる子供も多くいました。この状況を改善するためには、何か彼らを持続的に支えられるシステムが必要でした。そのシステム形態として、ボランティアかビジネスを考えたのですが、ボランティアは私がいなくなってしまえば、活動が途絶えてしまいます。今はこの活動を1人で行っているため、このままでは先に繋がらない! と考え、ビジネスを起こすことにしたのです。
ここまで話すとガーナ=貧しいという暗いイメージをもってしまったかもしれません。でも現地の人々は「幸せ」に対する豊かな価値観や、美しく逞しい生命力をもっていて、私はそこに心から惹かれているのです。現地の人々の姿から色んなことを学ばせてもらったからこそ、私も少しでも村人のみんなに喜んでもらいたいと思い、この活動をしています。
――今現在行っているビジネスは、具体的にはどのようなものなのでしょうか?
まず昨年の7月に、クラウドファンディングで資金を集め、ガーナにカカオ豆の加工工場を建てました。また、ガーナだけでなく日本でも「カカオ豆からチョコレートを作るワークショップ」を開催しています。「国際協力」や「貧困問題」と言うと、敷居が高いように思われがちですが、チョコレートを通して考えることで敷居を下げ、日本の人々にもっとガーナの人々のことを知ってもらいたいと思っています。チョコレートを食べる時に罪悪感を抱く必要はないのですが、ガーナの人々のことを少しでも想ってもらえると嬉しいです。
日本の人々にとって、ガーナという国は遠い存在でしょう。近年はグローバル化が進み、より世界が狭くなってきてはいますが、それでも遠い国の人々の存在を想う機会は少ないように感じるのです。もし遠く離れていてもお互いを想い合うことができるようになれば、世界はもっと良くなるのではないでしょうか。
私はチョコレートがとても好きでこのビジネスを行っていますが、最初から工場を建てようと思っていたわけではありません。実はチョコレートは、1つの手段に過ぎないのです。昨年はガーナ以外にもバングラディシュを訪れ、GUやユニクロといった服飾会社の下請け工場を見学しました。手段は何であれ、遠い世界のことをより身近に考えられるような世界になってほしいのです。また、もう1つの大きな思いとして、「情熱を持って、働ける社会になってほしい」というものがあります。前者は先進国に住む人々、後者は現地の人々への思いです。現地の人々が自らの手で、可能性を切り開いていけるような社会にしたいのです。ガーナでワークショップを開いていた際、村の人々が「見て! こんなものを作ってみたんだ!」と、自分で工夫をした作物を見せてくれました。努力に対して正当な価値が与えられ、自分の作ったものに誇りを持てるような、そんな社会になってほしいと思います。また、工場がその労働者の人々だけでなく、村人全員にとっての工場であってほしいです。工場の利益で奨学金を出したり、マラリアの治療費を出したり、村全体を支える存在になってほしいと思っています。
――ありがとうございました!