【再掲】新学長 岩切正一郎教授へのインタビュー

 本記事は、The Weekly GIANTS 1251号(2020年1月15日発行)に掲載した、岩切正一郎教授へのインタビュー記事である。1251号は「明日の大学をつくる人」というテーマで特集を行っており、本インタビューもそのテーマに則したものとなっている。先日のICU世論調査の結果を踏まえ、Web版に再掲することとなった。
 今回、岩切教授に再掲許可を頂くと同時に、新入生への式辞として贈られたメッセージのURLを以下に掲載する。本記事内容の一部が、より深く語られている。

ICU 国際基督教大学 NEWS「2020年 春季新入生の皆さまへ 岩切 正一郎 学長 式辞

第1回 ICU世論調査⑵ 〜学内問題編〜 Cコード反対、64.9%

▼以下、インタビュー記事

 「明日の大学をつくる人」 このテーマで特集を行うにあたり、この方をはずすことは不可能だろう。多くの方がご存知だとは思うが、先日の学長選挙の結果、4月から岩切正一郎先生が新学長に就任されることとなった。今回はその岩切先生にインタビューをさせて頂き、学長に就任されるにあたっての展望、そしてこれからのICUについてお話を伺った。(※インタビューは再構成済み)

――これから学長に就任されるにあたり、変えていきたいこと等はありますか?
 特に「ここを変えたい」と具体的な案がある訳ではないのですが、ICUの献学の精神を忘れることのないようにしていきたいと思っています。第二次世界大戦後に建てられたICUは、戦争の悲惨さを目の当たりにした人々が、それまでの世界のあり方、制度などを、「教育」という面から今一度見直すことを目的として創設されています。第二次世界大戦は、日本のみならず世界にとって凄惨な出来事でした。戦争が終わったとき人々は、恐らく「真に人間的なものとは何か」を考えたのでしょう。「真に人間的なものはなにか」、この問いは、比較的平和になった今もなお、忘れてはいけないものだと思います。あれだけ悲惨な戦争を経験したにもかかわらず、人間は、同じことを繰り返してしまいます。例えば、3度目の世界大戦は起こってはいませんが、戦争や紛争は未だなくなっていません。人間としてあるべき姿、とるべき行動に関し、人々は今一度考えるべきでしょう。「人間としてあるために、忘れてはいけないこと」というものがあると思います。この精神を、これからのICUにも伝えていきたいですね。

――今のICUにおいて、感じている課題等はありますか?
 これは特にICUに限った話ではなく、日本社会、世界全体の話でもあるのですが、「閉ざされていく危機感」というものがあるように思います。かつては、例えば日本の高度経済成長期などは、楽観的な考えではありますが、何か漠然とした希望のようなものが、将来に対してあったと思います。具体的な確証がなくとも、「まぁ、なんとかなるだろう」という思いがあったのではないでしょうか。それに比べ、今の日本や世界には、あまりそういった風潮はあまり見受けられません。どちらかというと、将来に対し暗いイメージを持ってしまっている様にも感じられます。

――例えば今、アメリカのトランプ政権に代表される様な、「自国主義」の風潮等でしょうか?
 そうですね。特にこのとき、キリスト教的精神が必要になると思います。例えば隣人愛ですね。「同じ人間として理解し合う」という姿勢が、これからのICUや社会において、必要になってくると思います。

――これからのICUにおいて、具体的にやっていきたいこと等はありますか?
 今以上に、「コミュニケーション」の促進を図っていきたいですね。例えば考えているものの一つとして、連続講義などはどうかな、と思っています。1年をかけて1つのテーマについて理解を深めるというものです。現在のICUには一学期間で完結する講座が多いですが、1年間という長い期間を通じて考えを深めていくのも、面白いのではないかと思っています。また、ICUで学んでいる留学生との交流の機会も、増やしていきたいと思っています。留学生の出身地は実に様々で、皆それぞれ多様なバックグラウンドを持っています。様々な出身地の留学生と日本出身の学生とが交流するお茶会を開いたりとか。きっと様々な話やディスカッションのできる、面白い会となるでしょう。他には、留学生とICUの同窓生の家庭との関係をつくって、日本の実際の生活を知ってもらう、というのも面白いのではないでしょうか。
 ICUの良さの1つとして、規模の小ささがあると思います。それは教員と学生の距離が近いことでもあって、私がICUにおいて好きな点の1つです。それを生かしてコミュニケーションの促進を図っていくことは、重要なことだと思っています。

 話は少し逸れてしまいますが、今世界ではAIなどのテクノロジーが発達し続けています。これらの技術は、進化の信仰とともに生まれたものだと言えるでしょう。この「進化」の影響もあり、近年の人類は「未来」や「明日」を今より良いもの、過去より良いものとして認識します。考えてみれば不思議な話です。かつて人間は、仏教においてもキリスト教においても、現世における幸福はあまり期待していなかったのではないでしょうか。現世は辛いものであり、近場の「未来」や「明日」は良いものとは認識していなかったはずです。かつては幸福を得ることを期待する場所としては、「来世」しかなかった様に思います。対して今は、「未来」に焦点をあててはいても、これはあくまで「現世」の話です。いつから人間は、来世における救済を期待しなくなり、現世において幸福を実現できるという思考になったのでしょうか。これはおそらく、技術革新の始まった18世紀以降の話だと思います。18世紀以降、技術革新が進み、「地上がすばらしい」「楽園を地上(現世)において実現しよう」という思考方向に人間は向かった気がします。

 今回の特集のテーマは「明日の大学をつくる人」ということですが、「明日」とは何でしょうか? それは、今日よりも、よりはっきりと、世界や社会の構造、人間のあり方がみえるようになっている状態だと私は思います。そして「明日」が「今日」や「過去」よりも良いものなのだとしたら、それは「今日」や「過去」の深い理解の上に、だと思います。かつては「新しい大学」、「明日の大学」と呼ばれたICUですが、今や献学70周年を迎えようとしています。設立された当初のICUは、当然ですが「過去」のない大学でした。しかし今、ICUには「過去」があります。「今日」や「過去」を見つめることも、これからのICUをつくるためには、必要と言えると思います。その上で、「明日をつくる大学」でありたいですね。自然や人間や社会をいっそう深く知り、新しいヴィジョンを提案する、そんな明日のためにできることをしたいと思います。

――ありがとうございました!

【まっくろくろすけ】