第2回 誰も借りてくれない本を読んでみた―『発掘から推理する』

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この連載は、「なぜ考古学系の本が残ってしまうのか――『誰も借りてくれない本フェア』でも借りられなかった本を借りてみた」という記事を担当した筆者が、ブックレビューを書いて3冊の書籍を卒業させるコーナーである。まずは上記の記事を読了してから、本連載を読んでいただければ幸いである。

さて、前回は筆者が卒業させてしまった3冊の本の中で、一番新しい『世界の読者に伝えるということ』という新書を紹介した。本連載2回目の今回は、1989年に入庫されてから約25年間、1回も借りられなかった『発掘から推理する』という1冊をご紹介しよう。

 

発掘? いえ、推理がメインです。

皆さんは、ミステリー小説がお好きだろうか?

アルセーヌ・ルパンから三毛猫ホームズまで、今、私たちの身の回りにはありとあらゆる種類のミステリー小説が溢れている。密室殺人やトリックといった言葉にわくわくしたり、謎を解こうとして、登場人物と一緒に頭を捻った経験があったりする人も多いのではないだろうか。かくいう筆者も、そのような経験からページを繰る手が止まらなくなり、眠れない夜を過ごした1人である。

『発掘から推理する』は、言わば「ノン・フィクションのミステリー小説」だ。ミステリー小説にはもれなく探偵や優秀な刑事が登場するが、本書では考古学者がそれを肩代わりしている。探偵や刑事が、殺人現場で凶器や指紋、血痕などといった物的証拠やアリバイといった状況証拠を集め、事件の真相に迫っていくのと同様に、考古学者も、遺跡に残された遺体の状態や凶器などを見て、当時の様子を推理するのだ。

例えば、「全身に16本の矢をうけた男」という弥生時代の遺跡にまつわるエピソードがある。遺跡で発見されたその男は、一見すると戦闘で勇猛果敢に活躍した結果、16本もの矢を受けて死亡したと考えられる。しかし、彼の頭蓋骨のみが故意に壊されていることや、戦士にしては装飾品が多いことなどを踏まえて推理すると、簡単に戦死とは言い切れない不可解な点が多いという。

遺体が埋められた時期こそ異なるものの、地道に物的証拠を集め、推理から事実を導き出そうとする作業に変わりはない。結局のところ、探偵も考古学者も同じように調査をしているといっても過言ではないだろう。

 

たった1つの真実見抜く?

ミステリー小説には、もう1つ欠かせない要素がある。

それは、ミステリー小説をミステリー足らしめるもの、すなわちその事件に関する伝説や伝承、うわさなどである。小説では、登場する伝説などがその事件解決へのヒントとなることが多々あるが、考古学者にとっても、その土地や地域に根を据える伝説や言い伝え、風習などが調査に役立つこともある。

例えば、先程の「全身に16本の矢をうけた男」。状況証拠を集めることによって、彼の死がただの戦死ではないらしいということは明らかになった。しかし、物的証拠からだけでは、なぜ体に矢を16本もうけた形で埋葬されていたのかという謎は解決できない。

そこで注目するのが、当時の風習や世界観である。本書によれば、この男は当時、強い力を持ったまじない師に対して行われていた埋葬方法とよく似た形で葬られていたという。男の死後、彼が悪霊になることを恐れた人々は、彼の頭蓋骨を砕き、何本もの矢を突き刺すことで、彼が二度と生き返ることのない状態にしたかったと考えられる。

もちろん、文字のない時代を扱うことの多い考古学では、当時について十分な史料が得られないことも多い。そこで、考古学者は遺跡や史料だけではなく、今実在する民族や部族の風習、言語、宗教など、さまざまな分野の知識を使って推理するのである。

本書は1、2ページほどのエピソードが何編も収録され、短編集のような作りをしている。特に専門知識も必要としないので、授業と授業の合間に読むにはぴったりの本格ミステリーである。

 

こんなICU生におすすめ!

先述したとおり、考古学は人間にまつわるすべての学問と繋がっている。特に、人類学、社会学、言語学、心理学、宗教哲学といった「人間学」に興味のある学生への入門書として、本書をお勧めしたい。

過去の人間を知るということは、今の私たちを知ることである。過去に生きた人々が、どのように暮らし、何を考えていたのかを是非「推理して」みようではないか。


タイトル発掘から推理する
著者金関丈夫
出版社朝日選書
出版年1975

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