大学読書人大賞で大学生は読書をするようになるのか?

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近年、大学生の読書離れが大きな問題になっている。全国大学生活協同組合連合会が2013年に行った第49回学生生活実態調査によれば、大学生は1日のうち平均26.9分しか読書をしておらず、40.5%の学生が教材以外の本に触れていない。

この背景には、スマートフォンの普及や学費高騰による大学生の経済的ゆとりの縮小などが挙げられる。しかし、読書離れが進んだ一番の要因は、毎日新たな本が出回る一方で、どの書籍を読めばよいのか分からないからではないかと私は感じる。

そこで、「大学文芸部員が大学生に読んでほしい本を選ぶ」べく、大学文芸サークルが主体となって2008年より大学読書人大賞を毎年1回選定している。2014年の大賞受賞作は、『マリアビートル』(伊坂幸太郎著・角川文庫)で、他にも4冊の書籍が最終候補作に選ばれている。だが、この大賞をきっかけに学生が読書をするようになるのかと言えば疑問が残る。なぜならば、大学読書人大賞で選ばれる候補作には偏りがあるからだ。

 

1. 大学読書人大賞の問題点

大学読書人大賞では、過去1年間において書籍として第1刷を出版したもの(改訂版も含む)しか候補にすることができない。2008年には、『幼年期の終わり』(A. C. クラーク著、池田真紀子訳・光文社古典新訳文庫)が大賞になったが、候補作の大半は現代の書籍が主となっている。

また、文芸サークルの投票を反映しているので、彼/彼女らの好みが候補作の一覧にも現れてしまっている。例年、ハヤカワ文庫JAや新潮文庫などの若年層向けエンターテイメント小説、当時の売れ筋作品が選ばれ、純文学や評論が候補になることはあまりない。

現在の大学読書人大賞は、文芸サークルの部員が他の部員に薦めたい本ばかりが並んでいるように見受けられてしまう。大学生の中には、SF好きやエンタメ好きの学生ばかりではなく、古典に挑戦してみようと考えていたり、自分の知らない世界を知りたいと思っている学生もいるはずだ。

 

2. 大学読書人大賞への提言

かつてに比べれば忙しくなってしまったが、大学生というのは人生の中でも最も多くの時間を自由に過ごせ、知的好奇心も体力も満ち溢れた時期であろう。そんな貴重な時だからこそ、今までとは異なる発見ができるような書籍に巡り合いたいとは思わないだろうか。

2014年3月現在で、大学読書人大賞の参加サークルは30に過ぎないため、闇雲に古典や純文学などのジャンル毎に賞を増やすのは非現実的である。しかし、これらのジャンルを対象に新しく特別賞を創設してもよいのではないだろうか。今までとは異なる種類の書籍が候補になることで、より多くの学生がこの賞に興味を持つようになるだけでなく、参加しているサークルの部員自身にもよい刺激を与えられるであろう。

 

3. まとめ

書籍の販売促進という側面が強くなりがちな本屋大賞に比べれば、大学生読書人大賞にはバラエティに富んだ作品が並んでいる。また、候補作の推薦文は学生自らによって書かれたものなので、高名な文芸評論家の批評や通販サイトのレビューよりも親近感を覚える事実である。

大学生全体に向けて書籍を選べるようになれば、より賞を活性化することができ、学生の読書離れも食い止められるはずだ。

 

参考文献

全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)「第49回学生生活実態調査の概要報告」、全国大学生活協同組合連合会(全国大学生協連)『プレスリリース』。
http://www.univcoop.or.jp/press/life/report.html
(2014.9.7閲覧)
大学読書人大賞―大学文芸部イチオシの本「ホーム」。
http://www.jpic.or.jp/dokushojin/
(2014.9.7閲覧)
本屋大賞「ホーム」。
http://www.hontai.or.jp/index.html
(2014.9.7閲覧)

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