ノートパソコン1人1台時代にPCエリアは必要か?

IMG_8256ICUでは、オスマー図書館とILCの教室にPCが設置されており、学生が自由に利用できることになっている。特にオスマー図書館のPCエリアは、卒論の追い込み期間や期末試験前の午後に大変混雑し、普段はELAのレクチャーなどに使用されているマルチメディアルームが開放されることもある。PCにはオフィスソフトだけでなく、MacPCの場合Adobeの各種ソフトもインストールされており、様々な場面で学生に重宝されている。

しかし、学内にPCエリアを設けず、PCの持参を全学生に義務づけている大学もある。このコラムでは、2013年度よりノートPCを新入生に携帯させ、PCエリアは2017年度を目途として閉鎖する方針を打ち出した九州大学の例を取り上げ、ICUのPCエリアの今後について検討したい。

 

1.九州大学での事例分析

九州大学芸術工学部の教授で、九州大学情報統括本部長の藤村直美氏は、1000台ほどの学内PCで約1万9000人の学生のニーズに応えることは厳しかったと指摘する。藤村氏は、年々減少する予算を当てにしていては充実したPC環境は実現しないと考え、学生が携帯するPCを活かす方針へと切り替えた。

その方針転換により、九州大学の学生は2006年よりウイルス対策ソフトを、2007年より最新版のWindowsとMicrosoft Officeを無料ライセンスで得られるようになった。また、速度が向上した無線LANネットワーク(下り約130Mbps)へのアクセスが2013年より全教室において可能になった。

藤村氏は、安価なノートPCの価格は約5万円であり、バッテリーが5~6時間持続することを考えれば、各学生がPCを携帯することは非現実的ではないと主張する。改革によって、授業でPCを使用する際に生じる、学内システムへログインするためのタイムロスが解消し、ノートPCに直接保存するためにファイル保存容量も拡大した、と藤村氏は利点を指摘する。

藤村氏は、大学内には学生のPCが使用できなくなった場合のみ利用できるPCしかないと述べる。藤村氏によれば、Web学習システムや学習管理システムの整備へ、今までPC整備に充てていた費用を使いたいとのことである。

 

2.ICUでの可能性の検討

ICUにおいては、学生数に対してのPC台数がある程度確保されており、レポートや卒論のために利用が集中する時期であっても、マルチメディアルームやILCの空き教室のPCであれば使える場合が多い。

しかし、ELAの授業などで学内PCを使用する際には、PC本体へのログインに加え、場合によってはGoogleへのログインも必要になり、デスクトップやオフィスソフトのアイコンの配列も異なるため、使い勝手は決して良くない。また、ILCのPCは英語キーボードであるため、日本語キーボードとキー配列が異なるという問題もある。

他方、学生が持ち込んだPCを活用できる環境整備は、ICUにおいても年々進められつつある。ICUは、今年12月のプリンティングシステム廃止に際して、オンライン環境を活用して課題のペーパーレス化を進める意向であり、学内のプリンターの利用範囲を学生のPCにも拡大する計画もあるそうだ。学外からICU図書館のオンラインデータベースへのアクセスにおいても、パスワードが不要になり、簡単に閲覧できるようになった。

一方で、学生はPC以外に必要となる費用も負担しなければならなくなる。例えば、WordやExcel、Powerpointといったオフィスソフトに加えて、Adobe Creative Cloudの学生・教職員向けプランは月額2,980円(初年度は1,980円)かかる。これらのソフトウェアを自前で用意するのは経済状況が厳しい学生にとっては難しいだろう。今までのように、誰でも気軽に画像編集といったことはできなくなるのである。

更に、Macユーザーが多いICUの場合、クラス内でWindowsとMacが混在していると、先生は双方の学生に配慮しなければならず、授業運営が行いにくくなるという問題もある。

ELAなどメジャー横断的な授業が多く、学際的に様々な学生を履修する学生が多数いるICUでは、九州大学のように授業で使用するPCを各メジャーで提示した場合でも、複数のOSが混在してしまうことが予想される。更に、現在ICUでは学生がPCを買う場合の優待制度は、Macのみに限られており、少なくないWindowsユーザーの学生向けの補助も必要になるだろう。

 

3.まとめ

ICUにおいては、Moodleからレポートが提出できるにも拘わらず、未だ多くの授業では課題をプリントアウトして授業もしくは本館のレポートボックスに持参しなければならない。 また、ehandbookやICU Portal、icuMAPといった各種システムには、ユーザーインターフェイスや情報量、告知のあり方などの面で、まだ多くの改善すべき点がある。学生個人がPCを持参することを前提とした予算配分ができれば、今までよりも学修支援システムの更新や利便性向上を進めることができる。

しかし、ELAや各専攻間の垣根が低いメジャー制、高いMacの普及率などICU特有の事情を考慮すると、PCエリアをいきなり無くすのは難しいと思われる。また、首都圏にある大学であるため、長時間掛けて通学している場合も多く、満員電車や思わぬアクシデント等で鞄の中のPCが破損してしまう学生もいるだろう。

九州大学の事例は興味深く、大学のPC環境のあり方に1つの答えを出している。ICUにおいても、数年ごとにPCを入れ替えたり、ソフトウェアの更新を定期的に行ったりするコストを考えれば、個人所有のPCを中心とした体制への切り替えというのは選択肢として検討してもよいと思う。

だがICUならではの課題も多く、学内PCのあり方を考える際には、様々な学生の意見を考慮しなければならない。PC環境の維持か、方針転換か。システム面だけでなくハード面でも、ICUの学修支援体制のこれからが問われている。
参考文献
ICU LIBRARY
http://www-lib.icu.ac.jp/
(2015.1.17閲覧)
Adobe Creative Cloud
http://www.adobe.com/jp/creativecloud.html
(2015.1.17閲覧)
Apple Store「Apple on Campus」(学内生のみ閲覧可)。
http://w3.icu.ac.jp/ilc/aoc/
(2015.1.18閲覧)
九州大学研究者情報「藤村直美」。
http://hyoka.ofc.kyushu-u.ac.jp/search/details/K002292/index.html
(2015.1.17閲覧)
Nakamura Takumi「プリントシステム廃止へ、来年度からコインプリンタへ段階的に移行」、The Weekly GIANTS Online『News』。
http://weeklygiants.co/?p=2414
(2015.1.17閲覧)
本宮学「学生1万9000人が使う“PCルーム”を全廃する九州大 その狙いとは?」、ITmedia エンタープライズ『モバイル』。
http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1403/24/news017.html
(2015.1.17閲覧)