どこでも何人でも借りられる電子図書館、ebraryとは

4年生が卒論に忙殺されている11月下旬、ICUPortalに一つのお知らせが掲載された。ICU図書館で、新しく「Academic Complete with DASH!(ebraryとも呼ばれる。以下ebrary)」という電子書籍データベースの導入が検討されており、2015年11月25日から2016年2月1日までトライアル期間として、利用できるとのことだった。

ebraryは、ProQuestなどの他のデータベースと何が違うのか。この記事ではebraryの導入の経緯、特徴、使い方などについて、図書館の担当者の黒澤公人さんにお話を伺い、その違いに迫った。

 

ebraryとは?

――ebraryの導入を検討し始めた経緯を教えてください。

ebraryは12万5千冊の洋書が含まれているデータベースを、定額の年間使用料を払って使うタイプの電子図書館です。そのうち、2009年から2015年までに出版されたタイトルは約5万9千冊となっています。

ICU図書館は洋書を数多く購入・所蔵しており、現在75万冊の蔵書のうち約半分の30万冊近くが洋書です。とはいえ、予算がひっ迫しているなか、日本のものに比べて高価な海外の学術書をこれまで通り購入し続けるのは、今のICU図書館には難しいため、洋書の購入を補完するためにも、ebraryを導入するかどうか検討を始めました。ICUは規模が小さいながらも、リベラルアーツ教育のために幅広い分野の本が必要なうえ、学部生も洋書をよく利用するので、大規模な洋書データベースであるebraryがICUに適しているかどうか検証するためにトライアルをすることになりました。

 

キャンパスの外から本を借りられる! 読みたい本が借りられている心配なし!

――ebraryの最大の特徴はなんですか?

ebraryの特徴は、複数人が同時に同じ書籍を借りることができることです。また、その書籍をプリントアウトしたり、Adobe Digital EditionやBluefire READERといった管理ソフトを使用して、個人のiPadやiPhoneやPCにダウンロードして読むこともできます。また、Off Campus Accessを利用して、学外からebraryにアクセスすることもできます。

ただ、ebraryは電子「図書館」なので、本をずっと手元に置いておくことはできません。貸出期間の14日間が過ぎると、閲覧ができなくなります。その場合はもう一度ダウンロードすれば、また閲覧することができるようになります。また、書籍のダウンロードやプリントアウトをするには、個人登録が必要になります。登録をしなくてもブラウザの画面で本を読むことはできるのですが、登録をすると、書籍のダウンロードや自分が読んだ本のリスト「ブックシェルフ」を作ったり、本の中にメモを残したりすることもできるようになって便利です。

ebraryのデータベースを検索する際には、書籍のタイトルや目次だけでなく、本文も検索対象になり、閲覧している本に似た内容の本をおすすめしてくれる機能もあります。

それに加えて、ProQuestとの親和性も高いため、今までと同じようにProQuestで検索すると、ebraryの検索結果も一緒に出てくるようになっており、ICU Discoveryとも統合されています。

 

気になる蔵書は?

――ebraryにはどのような種類の書籍が所蔵されているのでしょうか?

ebraryは、英語で書かれた学術書を中心に構成されています。ですから、教科書や入門書はあまり含まれていません。卒論や高度な知識が必要な専門科目のレポートなど、専門性の高い書籍が必要な際に活躍するデータベースだと思います。

 今回も、卒論で利用してもらい利用状況を見ようと考え、トライアル期間を2016年の2月1日までにしました。その後どれくらい利用されたか確認し、利用者の皆さんの声を聞いたうえで、本契約するかどうかを決める予定です。

――今後、日本語の文献を中心とした、ebraryのような書籍データベースを導入する予定はありますか?

日本は海外と比べ、そういったデータベースの整備が遅れているため、すぐには導入できないのではないでしょうか。紙の書籍が売れなくなることへの懸念から、電子図書館があっても複数人で同時に同じ書籍を利用できなかったり、利用料が紙の本を買うよりも高かったりということがあり、大学図書館として使いやすい日本語データベースの導入はまだ難しい状況にあります。

――ありがとうございました。

 

実際に使ってみた

複数人が同時に貸し出しできる、英語の学術書が多い、専門性が高い……といった特色のあるebraryだが、実際の使い勝手はどうなのだろうか。記者が実際にいくつかの本を探してみた。

まず、ジェンダー論や政治哲学の分野で活躍している現代思想家のジュディス・バトラーで検索してみると、バトラーの著書である”Gender Trouble”がヒットする。この本は2015年度春学期の「日常生活とジェンダー」の授業のリザーブブックにも指定されていた本だ。ebraryが導入されれば、リザーブブックを一日しか借りられないもどかしさも解消するかもしれない。

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著者名”judith butler”で検索してみた結果
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“Gender Trouble”のページ。この画面から本を借りたりプリントアウトしたりできる。

 

しかし、有名な著者の本はあまりデータベースに含まれていないようで、哲学者のハンナ・アーレントや人類学者のクライド・クラックホーンを検索すると、その人について書かれた本は見つかっても、その人自身の本はヒットしなかった。著者がすでに有名になっていて、出版社にとって売れることが期待できる本はあまりこのデータベースには入っていないのかもしれない。

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著者名”Hannah Arendt”では検索結果が出てこなかった

 

ともあれ、キャンパス外からもアクセスでき、何人も同時に本を借りることができるというebraryの利点は紙の本にはないものだ。ebraryが正式にICU図書館に導入され、またebraryのラインナップが今後さらに充実していくことに期待したい。

また、以下の日程でebraryの使い方に関する講習会が図書館で行われるとのことなので、使い方を詳しく知りたいという人は参加してみるとよいだろう。

トライアル・データベース説明会
2016年1月8日(金)1回目 15:10-16:20(日本語)
2回目 16:30-17:40(英語)
2016年1月12日(火)コンボケーション・アワー14:10-15:00(日本語)
いずれも会場はオスマー図書館マルチメディアルーム。
予約・事前申し込み不要。

 

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