一部閉鎖から2週間、理学館の現状と今後

rigakukan6月9日、ICU Portal上に「理学館一部教室閉鎖に伴う教室変更について」というお知らせが掲示された。連休明けにいきなり新しい教室が発表されたので、戸惑った諸君も多いだろう。この変更について、理学館長の岡野健先生にお話をうかがった。

 (※インタビューは再構成済み)

――なぜいくつかの授業が理学館で行えなくなってしまったのですか?

厳密にはいつからかは分からないのですが、理学館教室の天井が落ちかけているという連絡を受けました。そこで、管理部に連絡をし、業者の方に来ていただきました。今すぐ天井が落下することはありませんし、普通の地震では問題はないのですが、大きな地震が来たときに安全が保障できないと考え、私の責任で教室の使用をとりやめました。

 

――東日本大震災後に耐震検査は行っていたのですか?

耐震検査では、外側のコンクリートをチェックするもので、内部の状況を調べることは不可能です。検査自体は東日本大震災後に実施しているはずですが、その内容は分かりません。今回危険性が指摘されたのはあくまでも天井であり、建物自体の安全性に関しては定期的な検査を受けているので、想定内の地震であれば耐えられるはずです。しかし、天井や床、本棚などに問題があれば、災害時にいくら建物が無事でも建物内の利用者に危害が及ぶ可能性があるので、問題点を見つけ次第改修する必要があります。今回学期中にも関わらず教室の使用を取り止めたのも、目視で天井落下の危険性が判明したためです。

 

――過去にも天井が落下したことはあるのですか?

2006年に研究室の天井が落ちてきたことがあります。その時には全部の天井をチェックし、それ以降も頻繁に点検を行っています。東日本大震災後には天井だけでなく棚なども基本的には全て安全性を確認しています。棚などにはL字型の固定金具を取り付け、地震の際に倒れないようにしています。 とはいえ、理学館は建設から50年近くが経っているのに手が入れられていないので、すぐ問題が起きては補修を実施するというのを繰り返しています。人間でいえば年をとると色々なところが衰えるように、この建物も年数相応に劣化しているのです。

 

――今年の夏期休暇にはどのような対策を実施するのでしょうか?

もともと理学館の教室に天井は全くありませんでした。しかし、常に梁の上からほこりが落ちてくるので、ほこりで実験が妨げられないよう各教室に天井をつけました。天井を取り外してしまうと冷暖房の効率が非常に悪くなってしまうため、単に撤去するだけでなく新たに天井を設置し直す必要があります。今すでにチェックしてもらっており、夏期一斉休暇中に危険な箇所は補修する予定ですが、点検の結果次第では夏休み中や秋学期も使用できない可能性もあります。

 

――長期的には理学館を建て替えるのですか?

理学館は本館と一緒に建て直し、理学館の機能は新本館内に移動します。天井のトラブルはあくまでも建物内部の話であり、理学館自体に倒壊の危険性があるわけではないので、それによって本館や理学館の建て替えが必要になるということにはなりません。

 

――今後理学館はどのような施設になっていくのでしょうか?

あくまでも私の構想であり公式の計画ではありませんが、理学館の機能を本館に移すことで、文系の方がもっと理系について知る機会を増やしたいと考えています。日本の他のリベラルアーツカレッジとは異なり、ICUに理系があるというのはとてもユニークなのですが、文系の学生や教員でさえもこの大学に理系が存在することを知らない方がいます。そこで、本館の1階にガラス張りの実験室を設け、様々な学生が魚の解剖といった理系の授業を見られるようにしたいです。 新本館の地下にはコージェネレーション施設を建設する構想を抱いています。コージェネレーションとは、ガスを用いて電力を作り、発電の際に生じる熱も活用する仕組みのことです。従来の発電方式と比べて、これまでは単に放出されていた熱を利用でき、ガスには電気のような輸送ロスはなく、原発のように遠くから送電してくることによって生じる電気の損出も減少するため、エネルギーの変換効率を今の35~40%から90%にまで上げることができます。コージェネレーションが普及すれば、発電所の数を減らすことができます。 コージェネレーション施設は、防災にも役立ちます。ICUの近くには東京ガスの中圧導管というガスの幹線が通っています。東京ガスの方によれば、一般的な家庭で使われる低圧導管に比べて丈夫なので、今まで日本で起きた震災で中圧導管が破損したことはないそうです。つまり、地震が起こってもICUへガスの供給を継続させることができるのです。 また、ICUでは水の約97%を井戸水でまかなっているので、建物内で暖房と簡易な食料が提供できれば、大学を単なる空き地がある避難所ではなく、本当の意味で三鷹市や武蔵野市の避難場所として活用することが可能になります。コージェネレーション施設があれば、物理学メジャーや化学メジャーの学生がコージェネレーションを研究テーマに選択できるというメリットもあります。 コージェネレーション施設に隣接して、植物工場を建設する構想もあります。内部で様々な野菜を栽培すれば、生物学メジャーの学生は実習をすることができますし、経済学メジャーや経営学メジャーの学生はどのようにすれば収穫の利益を増やすことができるのかというテーマで学習できます。さらに、コージェネレーション施設や植物工場にモニターを設置すればデータを取ることも可能になります。 新本館内のネットワークに関してですが、20年~30年は手を入れなくても大丈夫なシステムにしたいと考えています。情報科学メジャーの学生はこのシステムから学習でき、情報インフラを卒論のテーマに選べるようになります。新本館に関しては、学生からアイデアを募り、採用した方のネームプレートを建物に設置するようにすれば学生のやる気も出るのではないかと考えています。

 

――最後に一言お願いします。

新本館は、単に講義を行う施設ではなく、建物自体を教材にしたいと思っています。新しい理学館の機能が統合された本館にぜひ期待してください。

 

――ありがとうございました。

 

理学館の建物自体は地震に耐えられても、内部の設備に損害が生じれば、利用者に危害が及びかねない。しかし、新本館の建設はまだ当分先である。現理学館を使用している間は、大学側には定期点検と普段のチェックで理学館の安全性を保ち、学生が安全に授業を受けられるようにしていただきたい。