ICU生の選択肢①――東大大学院で言語学を専攻するFさんの場合
|「院進」という言葉にどのような印象を持つだろう。もしかしたら、「理系ならありかな」なんて思われる方がいるかもしれない。では、そこに「文系」という枕詞がついたら。「就職はどうなるんだろう」とか「将来が心配」とか、そんなネガティブな感想を抱く人もきっと少なくはないだろう。
しかし、中には「学部の勉強では物足りない。大学院でもっと掘り下げた研究をしてみたい」と心の底では思いながらも、将来や周りの目を気にするあまり、それをあきらめてしまっている人もいるのではないだろうか。今回は大学院進学のリアルに迫るべく、ICUで言語学を専攻した後、東京大学大学院に進学し、現在も修士課程で言語学の研究を行っているFさん(ID16)からお話を伺った。
(※インタビューは再構成済み)
――まず、Fさんが大学院進学を決めた理由を教えてください。
シンプルに言うと、卒業論文で扱った内容をもっと掘り下げたいと思ったからです。私は最初哲学メジャーを志していました。でも、ICUの学部の授業を受ける中で言語学に興味を持ち、言語学メジャーに進み、卒論も言語学で書きました。
卒論のテーマにした言語学のトピックは心の底から面白いと思えるもので、学部の卒論では掘り下げ足りないと感じました。そんな中、運よく給付型の奨学金を受給する権利を得ることができたので、大学院に進んで引き続き言語学の研究をしようと決めたのが一番の理由です。
――ICUでの勉強、とくに学部でリベラルアーツ教育を受けたことは大学院で生きていると思いますか?
先ほど述べた通り、そもそもICUに通っていなければ私は言語学専攻に進むことはなかったと思います。ICUでの学びを通して、言語学という学問の面白さを知ることができました。
私がICUで学んだことのなかで大学院での学びに生きていると感じていることは、具体的な知識というよりむしろ学問における考え方です。例えばこれは多くの学問に当てはまることですが、「一応そういうことになっていること」や物事の前提となっていることを再検討する大切さを私はICUで学びました。ICUでの学びは、どういう態度で学問に取り組めばいいかという学問に取り組む上で最も根幹にあたる部分で生きていると感じています。
――学部時代、やり残したと感じていることはありますか?
もっと勉強しておけばよかったです。自分の専攻に関する部分もそうですが、とくに英語をもっとしっかり学んでおけばよかったと後悔しています。
――修士課程を修了した後の進路についてはどうお考えですか?
博士課程に惹かれないこともないのですが、金銭的な問題もあるので、修士を取得したのちは一度就職しようと考えています。就活は心配ですが、それは学部時代にも言えたことなので、そこまで深刻には考えていません。
――大学院入試の勉強はいつごろから始めたのですか?
正直に言うと、本格的に始めたのは大学4年生の夏です。勉強を始めて真っ先に取り掛かったのは第二外国語。振り返ってみると全勉強時間の8割を第二外国語に費やしたといっても過言ではありません。
受験科目には、ほかにも英語や専門科目の試験もありましたが、英語は当時翻訳のアルバイトをしていたこともあって対応できると感じていたし、専門科目に関しては特別な勉強をせずとも、普段授業を受けたり文献を読む中で身に着けていた知識がそのまま役に立ちました。
メジャーと同じ分野の大学院に行こうと考えているなら、まったく知らない知識を問われることはないと思います。その上で、過去問を参考に試験の傾向を洗い出す作業はしておいた方が良いかもしれません。
――入試では、やはり第二外国語はネックでしたか?
時間割の関係から第二外国語の授業の履修を途中で断念したので、ほとんど自力で学習しました。卒論と同時並行で二外の勉強をするのは正直きつかったです。もし2年生以下で大学院進学を少しでも考えている人がいるなら、授業で学習してしまうのが一番無難かもしれません。でも、だからといって自力で勉強できないわけではないです。
多くの大学院入試では第二外国語の試験でスピーキングとリスニングは課せられないので、和訳と長文読解の練習にひたすら取り組みました。問題のイメージとしては大学受験の英語の筆記試験に近いです。まずは文法をマスターし、次に単語を覚えて、一文単位での訳し方を覚える。そして、それを長文に応用する。
単語に関してはヨーロッパ系の言語であれば英語に通じるものも少なくないし、文章が自分の専門分野に関するものであれば、案外聞き覚えがある単語も多いです。ですから、決して簡単ではないですが、自学自習でも頑張ればなんとかなると思います。
中には辞書の持ち込みが許されている大学もありますし、二外の試験を課さない大学もあります。過去問や試験の概要はネットで公開されていることも多いので、一度確認してみることをおすすめします。
――最後に、大学院進学を検討している学生に一言お願いします。
自分が置かれている状況を冷静に見てみて、大学院で研究したいことがあって、その上で進学できる環境が整っているならば進学しても後悔はしないと思います。もちろん金銭的な問題もあるので、一概に言えることではないでしょう。でも、環境が整っていて本人のやる気もあるなら、結構どうにかなることも多いというのが私の持論です。
――ありがとうございました。
Fさんが述べている通り、進学を考える上で学費の問題は必ずついてくる。大学院卒業後に就職を考えているならば、年齢を重ねることはそれだけで採用に不利に働くこともあるだろう。しかし、周りの目線や将来への不安を理由に人生の選択肢から大学院進学を除外してしまうのはもったいない。もし読者の中に大学院進学を少しでも検討している人がいるなら、今回のインタビューを少しでも参考にしてもらえれば幸いである。