高松香奈准教授に聞く、ジェンダーと国際関係からみるトランプ政権【研究室から世界をみる 第2回】
|11月10日、「ジェンダーと国際関係」の学期最後の授業は異様な熱気に包まれていた。米大統領選でドナルド・トランプ氏が選出された翌日の授業であり、予定を変更して大統領選の結果についてディスカッションが行われたのだ。今回、Weekly GIANTS Co.ではその授業を担当された高松香奈准教授(政治学・国際関係学デパートメント)にお話を伺った。
まず私はアメリカ研究は専門ではなく、アメリカ政治に関してはかなり素人です。アメリカに住んだこともないので、アメリカの社会について知っているというわけでもありません。しかし、やはり大統領選は気になりました。ヒラリー・クリントン氏は初の女性大統領候補でしたから、ジェンダー研究に関心のある人はアメリカに初の女性大統領が生まれるかもしれないという機運の高まりは感じていたと思います。
トランプ氏は女性蔑視発言などもあったように、非常に差別的な発言をしてきた人です。そういった問題がテレビ討論などでも指摘されて、共和党内でもトランプ氏を支持しないという人が出てきたにもかかわらず彼が大統領に当選したということは、彼が得票のターゲットとした白人ブルーカラー層の不満はそれだけ強かったのだと思います。確かにトランプ氏は女性蔑視発言について、公式に謝罪はしました。しかし、私が懸念しているのは彼が大統領になった後のことです。彼が閣僚にどんな人を起用するのかわかってきましたが、結局差別主義的な発言をしてきた人が含まれています。
選挙後に作り上げる政治体制が問題
選挙中は女性蔑視発言への謝罪も含め、彼もいろいろなパフォーマンスをしていたと思います。選挙中はそこに注目が集まりますが、選挙が終わると発言をする根底にある差別的意識を持つ人が、体制を作るときにどういう人を起用するかに現れてくると思います。例えば、副大統領になるペンス氏は政権移行チーム責任者に起用されましたが、彼は同性婚にも否定的な立場を明確に示してきた人です。主席戦略官に起用されたバノン氏は有名な保守系メディアを作り上げた人で、女性蔑視発言をしています。そういう人が起用されるということは差別を容認しているということで、選挙中どんなに自身が謝ったとしてもトランプ氏はそういう思想を持っている人という事に他なりません。
そういった人が権力の座につくことで、国連などで進められてきたセクシュアル・マイノリティの権利保障に逆行するような動きをアメリカがするようになるのではないかと危惧しています。ジョージ・W・ブッシュ政権時代にアメリカがリプロダクティブ・ライツを否定し、それを扱う国連人口基金への拠出金をストップしたことがありました。アメリカは経済大国ですから、そういうところでトランプ政権の誕生は国際社会に影響を与えるのではないかと懸念しています。
軍事的な面では
軍事的な面では、「アメリカは世界の警察じゃない」という発言にもあるように、トランプ氏は世界各地のアメリカ軍を撤退させるのではないかと期待している人もいると思います。しかし、私はどこまで撤退をするのかというところはわかりませんが、確実にこれまで以上に現地国に費用の負担を求めてくるのではないかと思っていますし、「軍事化」である事には変わりないでしょう。
ジェンダーと国際関係の議論は、基本的に「軍事」そのもの、その構造を批判してきました。その点からは”Make America great again”というスローガンに表れているように、「マスキュリンな強さで社会をまとめる」、というようなアメリカを目指しているように感じられます。トランプ政権のような保守的な政権が軍事的なものをどう使ってくるのか、それについては今後注視しなければいけません。