Mitaka “Next” Selection選出! ICU出身(劇)ヤリナゲにインタビュー

▲(劇)ヤリナゲを主宰する越寛生さん

ICU出身の劇団、(劇)ヤリナゲが三鷹市芸術文化センター主催の公演シリーズMitaka “Next” Selectionに選ばれ、注目を集めている。今年で19回目を迎えるMitaka “Next” Selectionは、今後の活動が期待される劇団を集めて上演されるシリーズで、これまで多くの劇団が観客を魅了してきた。今年も合計3つの劇団が選ばれ、(劇)ヤリナゲの演目である『みのほど』は2018年8月24日から9月2日まで三鷹市芸術文化センター星のホールで上演される。

今回Weekly GIANTS Co.は、(劇)ヤリナゲの主宰者で作・演出を手掛ける越寛生(こしひろき)さん(ID13)、映像を担当する白樺汐(しらかばしおん)さん(ID13)のおふたりにお話をうかがった。

 

——まず越さんにおうかがいします。ICU在学中に(劇)ヤリナゲを立ち上げたとのことですが、卒業後も続けようと思ったのはなぜですか?

越さん:高校生の時に初めて演劇に触れて面白いと思い、でも高校を卒業する時には、これで終わりだな、と思っていたんです。そうしたら、ICUに入学して、たまたま高校の時の演劇部の先輩に再会したんです。それで縁があるな、と。「これで終わりだな」と思っても続けてしまう。大学を卒業してからも、「演劇はしばらくやらないだろうな」と思っていたんですけど、放っておいたらまたやり始めてしまいました。

 

——おふたりにとって、『みのほど』はどんな作品ですか?

越さん:すごく身も蓋もない話で、「やらんでもええことをやっている」。芸術は生きていくためには必要ないと思うんです。「なぜ演劇を続けているのか」と先ほどお尋ねになりましたが、まさにそれと同じことで、なんでこんなやらんでもええことをあえてやるんだ、というのがまずひとつ。少し具体的に言うと、昔、大学生の時に、自分の恋人のことを劇にしたんです。そうしたら、もうその時は別れていたんですけど、元恋人からすごく嫌がられてしまって。悪いことをしたな、とだんだんわかってきたのですが、それをやっているとき僕はすごく楽しかったし、何ならその人にも笑ってもらえるって思っていたんです。だから、僕が「やりたい」と思うことと、「いやだ」と思う人がいるっていうのはどうしたらいいんだろう。演劇は、わざわざ同じ場所にたくさん人を集めて手間も暇もたくさんかかることだから、それをどうしてわざわざやるんだろう、というのが気になって。「何でやるんだろう、何で書くんだろう」ということをいわば作品のテーマとして書きたいなと思ったんです。

白樺さん:今回のっていうと詳しいことはこれから出来ていくので難しいところもあるのですが、今までの作り方でいくと、基本的に越が「これ面白いな」と思った出来事、考えたことをひとつのシーンにしたいというのがまずあって、それをひとつの作品として見せる都合上、付随してお話が出来ていくんです。ドラマとしてあらすじがとてもエキサイティングなものになるというよりは、本当に見せたいそのシーンが面白くなることが大事だと思っています。第一回の公演で面白いと思って書いたことが人を傷つけてしまって大変なことになったというのもありますし、自分の自由を突き通す上で他の人の自由とぶつかってしまうという、それ自体は普遍的なことだと思うんです。集大成というと大げさですが、そうやって長年考えたことが形となって出てくるのではないかと思って今から楽しみにしています。

 

——お話はこれから完成するんですね。

越さん:公演が8月24日からなんですけど、まだ作っている最中です(7月12日時点)。三鷹市芸術文化センターの星のホールというところで上演するんですけど、ずっと三鷹でやりたいなと思っていました。でも、まだあんまり進んでいなくて。これを書いたら誰かにとってダメなんじゃないか、そういう風になっていいのか。これを書くと誰かが嫌がるかな、と考えて、でもそれを作品で言うことも誰かが嫌がる、と悩んでしまい、なかなか筆を進められずにいます。

 

——ICUでの学生時代の経験が今の活動にどんな影響を与えていると思いますか?

越さん:勉強面では、ないかもしれない……。

白樺さん:でも教職課程取っていたよね。

越さん:そう、教育メジャーでした。教育メジャーが私の在学中は「比較教育」と「教育・メディア・社会」の二つに分かれていたんです。社会に出てから自分はあんまり上手くいかない、周りと違っていると感じるようになったんですが、ICUにいる時は全然そんなことがなかった。学んだことってわけではないですけど、いいところにいたんだな、と思います。マイノリティであることを恐れるな、というような文言を大学が掲げていたような気がするんですが、それの恩恵を受けていたんですね。ICUじゃなかったら、もっと早い段階で自分が変だってことに気づかされていたかもしれないですけど、ICUにいたから、気づかないまま、それこそ劇団を始めたりできたんだなと思ったり。

白樺さん:僕は今回映像で関わっているんですけど、普段は音響で関わっているんです。ICUでは言語学メジャーで、卒論を認知言語学の音象徴という現象について書いたんです。例えば、「さらさら」と「ざらざら」だったら、「ざらざら」は音からしてスムーズではない印象を受ける。基本的に単語に使われている音は単語の意味とは関係がないという説が優位なので、例えば「りんご」という単語の「り」が「りんご」の何かに対応しているわけでなく、まとまった時に初めて意味を成すわけですけど、それが必ずしもそうではないというのが音象徴の考えなんです。何か特定の音を聞いた時に人は何かを連想したり、そういう気分になったりするというのは在学中から興味があったので、音響として効果音を作ったり、録音したり、曲を選んだり、どこからどういう風に音を流すか考える上で、意外と直接的に役に立っています。言語学メジャーの人だったら使う「Praat」というアプリケーションがあるんですが、それは今も使うことがあります。

▲白樺汐さん

 

——最後にICU生に向けてメッセージをお願いします。

越さん:僕は未練があって演劇をやり続けているんです。なんだかまだやれる気がするっていう。1年生の頃、ICUの学内の劇を観ていて、「自分の方が面白くできるよ」って思っていたんです。それでICU祭で場所をとってやってみたんですけど、当時の僕と同じようなことを思っているICU生もいるんじゃないかな、と思うんです。学内の劇に飽き足らないなと思ったら、ICUからすぐそこですので観に来てほしいなと思います。

白樺さん:ID10からID13くらいの世代はとても就職が大変だった時期らしく、僕も就活では結構苦労したんですけど、苦労した末に入った音響の会社は30連勤、40連勤はザラにあるブラックで、半年ちょっと前にやめて今はインターナショナルスクールの事務職をしながらそこのホールの管理をしています。少なくとも学生の時は、頑張ってICUを卒業しても就職できる保証もない状況で、これからどうなるんだろうっていろいろ考えていました。とりあえずお芝居が楽しいから続けようと思っていたら、結果として卒業してもう4年経ちますがなんとか続いています。だから、意外となんとかなるよ、と後輩たちに伝えたい。思い詰めずにやりたいようにやって、それなりに楽しくできているICUの卒業生がこんなところにいるよっていうアピールになれば良いですね。うまい巡り合わせがあると、その調子で生きていけるから、頑張れ、みたいな思いをICU生に持っています。D館族の成れの果てですが、それなりに成れ果てていいんじゃないかな、と。

越さん:D館族の成れの果てっていいですね。D館族の方にぜひ観てもらいたい。僕は在学中、周りの学生がみんなすごいな、と思ってどうしたらいいのか分からなくてD館にいたような気がします。すごく簡単に言うと、ついていけなかったんだと思います。ICUにいて頑張っている人はもちろんですけど、今どうしたらいいか分からない、みたいな人がいたら、それは昔の自分なので、そういう人に観てもらえたらいいなと思っています。

白樺さん:演劇サークルに限らず、JFKでもMelody UnionでもDrag Verbleの方でも、観に来てくれたら嬉しいです。

 

——ありがとうございました。

 

公演についての詳細は(劇)ヤリナゲの公式サイトを参照されたい。