4/26 講演会「ゼブラフィッシュが解き明かす脳のはたらき 」

4月26日、理学館232教室にてNSフォーラム(Natural Science Forum)「ゼブラフィッシュが解き明かす脳のはたらき」と題した講演が行われた。今回の演者は、国立遺伝化学研究所初期発生研究部門の川上浩一教授だ。ゼブラフィッシュについて、川上教授がこれまでつづけてこられた研究についての講義だった。

ゼブラフィッシュとは、形態形成、器官形成、神経科学、ヒト疾患モデルなどの研究に用いられているモデル脊椎動物である。インド原産で体長4㎝ほどの小さな熱帯魚で、1組のオスメスから1日に最大数百個の受精卵を得られる。また胚が透明のため、受精卵から臓器が形成される過程の観察が容易であり、発生速度も速いため、受精後72時間で主要な臓器が完成する。さらに遺伝子の約70%はヒトと同じであり、遺伝子数もまたほぼ同じである。そのためゼブラフィッシュは、世界中で遺伝学、実験発生学など、広く研究に用いられている。

川上教授はこのゼブラフィッシュに対し、「動く遺伝子」と呼ばれるトランスポゾンを用いて、効率よくトランスジェニックゼブラフィッシュを誕生させる方法を開発した。今までにもトランスジェニックゼブラフィッシュを誕生させる方法はあったが、川上教授は、より簡単に作成する方法を生み出したのだ。トランスポゾンとは、先程も述べたが「動く遺伝子」と呼ばれており、その名の通り細胞内において、ゲノム上を移動可能な塩基配列のことである。川上教授はこのトランスポゾンの性質を応用し、クラゲ蛍光タンパク質(GFP)を胚に 移入することで、様々な細胞・組織・臓器が緑色に光るトランスジェニックゼブラフィッシュを完成させたのだ。この技術の開発には、約7年の歳月を要したという。しかし作成されたトランスジェニックゼブラフィッシュは、自身で研究に用いるだけでなく世界中で活用され、様々な研究に利用されているそうだ。またこれだけでなく、遺伝子トラップ法、Gal4-UAS法といった遺伝学的方法論の開発にも成功している。

これらの開発された方法を用いると、生きているゼブラフィッシュにおいて特定の神経回路が活動している様子を観察したり、またその神経回路の活動を阻害したりすることができるそうだ。例えば川上教授自身が行った研究の一つに、食欲についての研究がある。脳が発光するトランスジェニックゼブラフィッシュを用い、まだ食事経験の無い稚魚に、餌であるゾウリムシを見せる。すると食欲を司る部分である視床下部下葉が光り、このことから食欲というのは経験によって培われるものではなく、本能的なものなのだということが解明された。

他にも様々な研究を行われてきた川上教授だが、このトランスジェニックゼブラフィッシュの開発には約7年の歳月を要したという。だがこのゼブラフィッシュが卵から発現したり各部分が光ったりする様子は、見ていて大変美しく飽きることのないものだという。筆者は文系出身であったため、講義の中には少々難解な部分もあったが、それでも川上教授の行われてきた研究の面白さを実感することのできる講演であった。川上教授のさらなるご活躍を願いたいと思う。