匿名のICU同窓生らによる給付型奨学金、総額1000万円―100名に10万円ずつ

 5月10日、ICUの学生間に、10万円の給付金が100人に支給されるという情報が流れた。「Good Samaritan Fund for ICU」と題されたその企画は、匿名のICUの卒業生数人が立ち上げたものだ。企画内容は、生活に困窮している学生に迅速な支援を行うべく、10万円を100人支給するというものだ。
 しかし、当初SNSで拡散されたこの奨学金に関する情報では、「受け取り手の氏名がウェブサイトに掲載される」「申し込みは先着順である」「企画者は完全に匿名である」という条件が付されていた。これに対し、不安を覚えた学生は少なくなかったのだろう、SNSでは様々な憶測が飛び交った。これらの学生の意見は、企画者の一人である竹内弘高氏(現ICU理事長)を含むボランティアグループにも伝わり、結果、内容がいくらか変更されることとなった。現状はどのようなものになっているのか。同氏に取材を行った。(※インタビュー内容は再構成済み)

経緯

 有志のICU卒業生数名により、経済的に困窮しているICUの現役学生を支援するための出資がなされ、寄付者に代わる卒業生がボランティアとしてウェブサイトを作成した。他方、情報の拡散は、同じくボランティアとして関わる竹内氏の知り合いの学生から始まり、学生個人のSNSを媒介し、あくまで非公式的になされている。上述の様に、当初SNSで拡散された奨学金情報には、「受け取り手の氏名がウェブサイトに掲載される」「申し込みは先着順である」「企画者は完全に匿名である」との文言が付されていたため、学生間に波紋が広がることとなった。

大学とは無関係なプロジェクト

 情報の均一性が保たれるICU Portalではなく、必ずしも全員に情報が行きわたるとは限らないSNSで拡散されていることに疑問を持つ現役生は多かった。その背景には、大学とは無関係なプロジェクトであるから、Portalに載せることはできないという事情があった。

 5月13日には、ICU Portalに加藤恵津子学生部長名で、以下の内容が掲載された。

 「なお、現在SNSや口コミ等でICU生の間に広まっている “Good Samaritan Fund for ICU” と称するプロジェクトについて、大学の見解をお知らせいたします。これは匿名を希望されるICU卒業生のお一人が、新型コロナウィルスの影響で経済的に困窮する在学生のサポートを目的として、私的に立ち上げたプロジェクトです。その方が竹内理事長とお知り合いであることから、一連の情報に理事長のお名前も登場しています。これはあくまでも個人の善意によるプロジェクトであり、大学の公式な経済支援制度ではありません。お問い合わせについては、いずれの部署も対応していませんので、ご了承ください。在学生の皆さんのご理解をお願いいたします。」(ICU Portalより引用)

 あくまでも、大学当局の関わらない非公式なプロジェクトであることが強調された。

「正確な情報が学生に渡った方がいいということで、ICU Portalで加藤学生部長からアナウンスをしていただいきました。」(竹内氏)

サイト上に竹内理事長の名前を明記

 企画者が完全に匿名であることが、学生にとっては不安要素の一つであった。その不安を払拭するために、竹内氏の名前が、ボランティアの一員としてサイト上に明記された。

 「企画を実行するためのボランティアの人が数名いるのですが、そのうちの一人は私なんですね。13期の卒業生としての竹内弘高の名前が入っていた方が学生は信用するだろうという意図で、日本語で追加された文章には私の名前が入っています。」(同氏)

受け取り手の氏名の公開は中止に

 当初は、困っていない人による応募を制止する効果ということでサイト上に名前を公表する予定であったが、状況が切迫した人を晒してしまうことになりかねないため、公表をすることは取りやめになったという。

 「あくまでも困っている人が迅速にお金を受け取れたらいいということなので、もし自分が困っているということが公表されることで躊躇されると、元も子もない。だから、その記述を削除することになりました。同時に、名前の明記はしませんという記述が加えられました。」(竹内氏)

応募方法は、ICUのメールアドレスからフォームに回答すること

 「当初は学生証のコピーの提出を考えていましたが、ICUのメールアドレスから応募してくれれば十分だということで、その記述は削除されました。」(竹内氏)

先着順にするのは迅速に学生に支援するため

 困窮している学生への支援のはずなのに、申し込みを先着順にすることによって、本当に必要としているわけではない学生の手にも渡ってしまうのではないかということが疑問点の一つだった。それに対し、時間のかかる審査を省き、迅速に支援するためだと竹内氏は語る。

 「本当に困っている学生へと正確に届けるためには審査をする必要があり、時間と労力がかかります。もちろん、実際に困っているということが証明できた学生だけに渡すというのが最良だと思います。しかし、このボランティアに関わっているのは4、5人ですから、そんな余裕はありません。それをしていたら今困っている人を助けられないよね、というのが寄付者の意思でした。そこで、あくまでも学生を信用して、このような方法を採っています。」(竹内氏)

 企画名に採用されている「善きサマリア人」とは、新約聖書 ルカによる福音書 10章25節から37節にかけて、イエスが「本当の隣人とは誰か」を説明する際に出した例え話だ。追いはぎに遭い、道ばたで倒れている旅人を見かけた3人のうち、サマリア人のみがその旅人を助けたというものである。今回の奨学金を受け取れる学生は100人に限定されている。ICUの学生の総数は約3000人であることを考慮すると、決して大きな数字ではない。この危機を全員で乗り切るために、ICUの学生一人ひとりが善きサマリア人となり、身の回りの困っている人に救いの手を差し伸べることを願う。応募開始日時は、5月15日の午後9時からだ。

以下、サイト上の全文を掲載する(5月14日現在)


Good Samaritan Fund for ICU

An Emergency Act (of Goodness) for ICU Students from a Donor
To All ICU Students,

As a Christian and as an alumnus of ICU, I have decided to follow the biblical tradition of the Good Samaritan to assist those of you who are currently suffering financially from COVID-19. I am starting the Good Samaritan Fund, which will give ¥100,000 on a first-come, first-served basis to 100 of you in dire need. No questions asked. No need to return. No need to report how you spend this blessing from heaven. Just raise your hand (to God) via this website, and we will take care of the rest.

With empathy,

Anonymous

About the Good Samaritan Fund for ICU (goodsam4ICU)
This emergency fund was created to provide immediate financial support to current ICU students whose livelihood is being endangered due to the impact of the New Corona Virus infection. This type of fund would typically require a strict screening process to make sure that you are actually in financial need to receive the fund. However, doing so would inevitably delay the payment process for those who are in desperate need right now. So, we are eliminating the need to “prove” that you are in acute need, and the fund will be delivered with no strings attached on a first-come, first-served basis. We will also not conduct an ex-post check on how you spent the fund. All you have to do is to sign up when the online form will be uploaded on this website in a few days (see the How to Apply section below for details).

With no strings attached, there is a possibility that someone not in “immediate” and “acute” need may apply. The initial plan, therefore, was to have the recipient agree to having his/her name disclosed on our website. After much thought, we decided to eliminate this requirement since the students who really need the fund may hesitate to apply as a result of such a stipulation. We ask ICU students to cooperate with us in making sure that only those who are in desperate need receive the goodwill the donor had in mind. In other words, please think twice before applying.

We will send the recipient ¥100,000 via bank transfer. Payment will be made as soon as possible, hopefully within two or three weeks after application (for those who choose a foreign bank, the transfer may take longer). There is an unconfirmed plan that the university is also thinking of providing some sort of support for ICU students in need which will be executed sometime this fall. Those receiving the Good Samaritan Fund for ICU will be able to receive funding from other sources, including the unconfirmed support by ICU this fall.

The name of this emergency fund comes from the biblical parable of the Good Samaritan. As you may know, ICU was established by generous contributions from many individuals right after the end of WWII. The first contribution came from Sunday church-goers in the U.S.A., who donated small amounts on an individual basis. We want to continue this tradition of generosity at this time of crisis.

For your information, this project is based on a private fund, and is completely independent of International Christian University.

How to Apply
The application will start at 9:00 pm (Japan time) on Friday, May 15 on this website. The sign-up form that will be uploaded on this website (after 9:00 pm) will provide details on how to receive the Good Samaritan Fund for ICU.

You must be a current ICU student to apply (please use your ICU email address to complete your application). We will also ask you to provide your bank account information. The personal information you provide will be managed in accordance with the Personal Information Protection Act. It will not be made public nor be used for any purpose other than sending the money to you from the Good Samaritan Fund for ICU. As mentioned above, if you choose to use a foreign bank account, instead of a Japanese bank account, please note that you may face delays (and other complications).

Since the number of students we can support is limited, application will close as soon as the fund is exhausted. This website will close once we confirm that all receipts are accounted for. If you have any questions, please send them to the email address that you will receive when you apply.

Lastly, for those who may be wondering who “we” are, we are ICU alumni working as volunteers on behalf of the anonymous donor.

Good Samaritan Fund for ICU Project volunteer: Hirotaka Takeuchi (the 13th graduating class of ICU)and other staff members

Good Samaritan Fund for ICUに応募される学生の皆様へ、応募する前にお読みください

このFundは、新型コロナウイルス感染症対策により経済的に困窮する学生のために設立されたものです。資金は匿名の寄付者から提供されています。本来であれば、応募者のみなさんの困窮状態を厳正に審査して受給者を決定するべきかもしれません。しかし、寄付者のご意向は困窮している学生を無条件に速やかに救済することにあります。日増しに経済状況が厳しくなる中で、緊急に資金を必要とする学生の存在を考え、時間がかかる審査は行わないことにしました。従って、このファンドの給付は、申し込み順とし、審査はありません。また、困窮する理由は様々と考えますので、使途の事後調査も行いません。

審査も使途の事後調査も行わない場合、必要が無いのに応募する人が出てくる可能性があります。そこで、当初は、受給者を公開することでその問題を回避する方針でした。しかし、支援を必要とするにも関わらず、自身の名前が公開されることで応募を躊躇される学生もいます。熟慮の結果、受給者の公開は取りやめることにしました。

そこで、応募される皆さんにお願いです。この資金を本当に必要とするか、応募する前に、是非、もう一度考えてください。この給付が実のあるものとなるためには、ご寄付者とともに応募資格者であるICUの学生の皆さんのご協力も必要としています。本当に必要のある人だけ応募してください。限りある資金を有効に活用するため、皆さんのご協力をお願いします。

応募は、ICUのドメインのメールアドレスのみから可能です。また、送金に当たっては、銀行口座情報を送っていただきます。これらの個人情報は、個人情報保護法に基づき適切に管理され、受給の事実とともに一切外部には公開されません。また、この資金の給付以外の目的には使用されません。なお、海外への送金は大幅に遅延または不可能となる場合がります。予めご了承ください。

この活動は、独立に運営される私的なもので、大学とは一切関わりがありません。質問等は、応募後に送信されるメールアドレスへお願いします。

Good Samaritan Fund for ICUプロジェクト・ボランティア:竹内弘高(国際基督教大学13期)他スタッフ一同