「落語、聴いてみない?」
ICU落語研究会部長
境家ちがうさんインタビュー
| 先日、ICU落語研究会部長の境家ちがうさんが、学生落語大会「第1回じゅげむ杯全国学生落語選手権in清瀬けやきホール」にて優勝した。それを受けWeekly GIANTS Co.は、境家ちがうさんにインタビューを行った。コロナ禍で世界が暗い今は、まさに「笑い」が必要とされている時ではないだろうか。インタビューを通じて、境家さん、そして落語の魅力に迫りたい。
――じゅげむ杯優勝、おめでとうございます。まず、落語を始めた時期・きっかけについて教えてください。
落語を始めたのは高校生の時です。そもそも落語が好きで、高校は落語研究会のある学校を探して入りました。落語自体は小学校5年生くらいから聴き始めていて、いつか自分もやってみたいなと思っていたんです。落語が好きになったきっかけは、母が舞台好きで、寄席や歌舞伎などの舞台系のものに連れて行ってもらっていたことですね。その中で落語が琴線に触れた、という感じです。
――なるほど……わざわざ落語研究会のある高校を探されたんですね。大学を選ぶ際も、その点は考慮されたんですか?
実は、最初は高卒で弟子入りするつもりでした。そのため、大学附属の高校に通っていたのですが、大学の推薦入学権を放棄していたんです。そんな時に、ICU落語研究会の方と落語会で共演する機会がありました。そこでICUに落語研究会があることを初めて知りました。元々、ICUへの興味は中学生の頃から持っていました。ハイ(ICU高校)の受験も考えたのですが、当時ハイには落語研究会が無かったので……。ICUに行けば、落語を続けながら自分のやりたい勉強もできると感じました。また、ICU落語研究会は人数が少ないので、より自由に活動ができると思いました。それで結局、ICUに進学しました。
――「境家ちがう」という高座名は、どのように決められたのですか?
「境家」というのはICU落語研会員の亭号なんです。「境家」か「境亭」を会員はつけることになります。武蔵境の境から来ているんです。「ちがう」の方は僕が高校生の時から使っている名前です。高校の落語研究会では、本名の一部をもじって「輔」をつけるというのが伝統でした。ところが、これが僕の名前とものすごく折り合いが悪くて。僕の本名が「ちかう」というのですが、「誓輔」では字面がごちゃごちゃするし、言偏をとって「折輔」にしたとしても「落語家をやるのに、言偏取るのは……」という感じですし。結局、高座名が平仮名の先輩もいたので、それを真似して点をつけて「ちがう」となりました。
――普段はどのように練習されているのですか?
落語は覚えないと話にならないので、まずは暗記です。シャドーイングの様な感じで、噺を聴きながらぶつぶつ繰り返します。覚えたなと思ったら、正座して実際に声を出してやってみます。覚えたものがそのまま声に出せるようになるまで稽古しますね。それができるようになったら、長さを調整してみたり、演じ方を工夫してみたり。それを段階的に練習していくという感じです。ただ、目指す所はテープレコーダーだと思っているので、まずは一言一句ちゃんと覚えられるまで練習します。自分の味を出すのはそれからですね。
――では、練習のメインは暗記という感じですか?
いえ。やはり練習としては演じ方の工夫に集中したいので、暗記はできるだけ通学時間や食事中などに流しながら済ませます。暗記は練習の下準備ですね。落語の練習は覚えてからがスタートです。
――なるほど! でも覚えるまでには時間がかかりそうです。どのくらいで覚えられるものなのですか?
初めての方だと、1ヶ月弱くらいはかかると思います。けれども、だんだん自分に合った暗記方法を見つけて、そのうち2週間程度で覚えられるようになります。早い人だと、1週間程度で頭に入る方もいるみたいです。でも、演じる噺にもよりますね。僕の場合は、全く見たことも聴いたこともないネタを覚える場合は、3週間程度かかります。
――では、落語の練習は1人でやることが多いのでしょうか?
いえ。よく2、3人で集まって練習します。部屋を借りて、それぞれ実際に演じるんです。そうすると、他の人が阻害要因になるんです。でも、実際公演中にはお客様が立たれたり、何かしら音がしたりしますよね。それに動じないための練習です。また、初めての方だと暗記といってもどうしていいかわからないことが多いので、暗記も先輩と一緒にやったりします。
――「じゅげむ杯」はZoomでのオンライン開催ということでした。どのように行われたのでしょうか?
事前にビデオを撮って、それを審査員の方々に見てもらうという形式でした。審査員7人のうち、5人がプロの落語家さんでした。ビデオに対して、コメントと点数が頂けるんです。だから、審査の様子がZoomで繋がっている、という感じでした。ビデオは2週間前に送りましたから、当日はもう何もできなくて……。審査の最中は気が気でなかったです(笑)。
――やはり、対面とビデオでは演じていて違いがありますか?
全然違いますね! 一番苦労するのは視線です。キャラクターを演じている時は良いのですが、地語り(説明)やマクラ(前置き)の時は、普段はお客様を見ているので……。カメラの向こうにお客様を想定するのが大変です。あと、間の取り方に苦労します。普段はお客様の笑いがあるので、それに合わせて取ったりするんです。でも、オンラインだとありませんから……。僕はもう、全てのボケで受けている、大爆笑されているという想定でやっています(笑)。
――ICU落語研究会は、どのように活動されているのですか?
部員はICU生が10人、他大の学生を含めて13人で活動しています。週に1度、D館の会議室を借りてミーティングをしています。そこで演目や練習日程を決めたりしています。練習の形としては、まずは覚えてきてもらって、それを実際に演じてもらい、お互いにアドバイスし合う形ですね。今は換気をしながら練習していますが、録画をアップロードしてお互いに見合う形でも活動しています。また、毎学期に1度「三鷹寄席」という落語会を開いています。
――「落語会」というのは、発表会の様なものでしょうか?
その通りです。例年の「三鷹寄席」は本館で行っていました。また、ICU祭の時に「三鷹寄席 in ICU祭」を開催していました。ただ、今年はそれができないのでYoutubeで配信することにしました。ぜひご覧ください。
「三鷹寄席in 上野撮影会 2020.11.23」
――境家ちがうさん(以下、ちがうさん)は、ICU落語研究会以外にもラジオ活動をされています。その内容をお聞かせ願えますか?
府中市のコミュニティFMである「ラジオフチューズ」で、「白石結人の学生落語お仲入り」という番組に出演しています。パーソナリティが白石結人さんという東京外国語大学落語・講談研究会の方なのですが、そこのレギュラー出演者という形です。初めはゲストだったのですが、そのうちレギュラーになってしまいました(笑)。
内容としては、30分番組で、落語にちなんだトークをしています。落語のお話の紹介をしたり、他大の落語研究会の方をゲストとして呼んで、一緒にお話ししたり。あと、落語にちなんだ対決をしています。例えば、落語にはよく「知ったかぶりする御隠居」というキャラクターが登場します。それにちなんで、「じゃあ、今日は何か知ったかぶりをしてみよう!」とネタを作って披露したりするんです。他にも、「完全に嘘しかついてはいけないマクラ」を作って、どちらが面白いかを勝負するとか。今までの対決の様子は、音声投稿サイト「HEAR」に投稿されています。
「白石結人の学生落語お仲入り」ラジオフチューズ 毎週金曜22:15~22:45
【ラジオアーカイブ】「学生落語 お仲入り」 音声投稿サイト HEAR
――とても面白そうな活動ですね……! ちなみに、一番好きな落語作品は何でしょうか?
それは非常に難しい質問です! 短いものであれば『高田馬場(たかたのばば)』、長いものであれば『指物師名人長次(めいじんちょうじ)』という作品が好きです。
――今後やってみたいこと、挑戦してみたいことなどはありますか?
現状として古典落語が中心なので、今後は新作落語をやってみたいですね。あと、今始めていることとして、まだ演じたことのないキャラクターに挑戦しています。花魁、田舎侍、若旦那などですね。自分の芸の幅をどんどん広げていきたいと思っています。
――ちがうさんが感じる、落語の魅力とは?
日本には様々な演芸があります。伝統芸能と言われるものであれば、能とか、狂言とか、歌舞伎とか……。でも、落語ほど何も考えずに聴ける演芸ってないと思うんです。落語には、前のめりになって聴く様な話はありません。どれも背もたれにだらーっと寄りかって、リラックスして聴くものばかりなんです。教訓なども全くありませんし。まずはこの気楽さが、落語の魅力だと思います。
また、落語家によって同じ話でも全く違った落語になることも魅力だと思いますね。演じ手が違うだけで、落語の色、ストーリーの色が完全に変わってくると感じます。主にこれらが、聴き手としての落語の魅力だと思います。 演じ手の魅力としては、僕自身が落語の空気感が好きだということがあります。古典落語には、多くの噺に共通したキャラクターが登場することがあります。江戸っ子の八っつぁん、熊さんとか、御隠居とか、馬鹿な与太郎とか。どの話にも、大体こういう雰囲気の人がいるんですよね。そういう人たちを演じる中で、彼らのやりとりとか、空気感とか……。これらを演じるのは、なんだか楽しいんです。話していて、とても心地よく感じます。あとはやっぱり、お客さんに笑って頂けるとすごく嬉しいです。稽古したもので人を笑わせるというのは、1度やるとやみつきになってしまいますね!
ーーありがとうございました! 【まっくろくろすけ】
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