WG社員が選ぶ!
2020年「今年の一冊」
―年末編―
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激動の2020年も残り僅か。今回は本年の締めくくりとして、Weekly GIANTS Co.(以下WG)社員たちが選ぶ「今年の一冊」をご紹介します。例年よりも、今年の年末年始は家で過ごす時間が多いはず。皆様の「おうち時間」のお供にいかがでしょうか。
朝井リョウ 『何者』 (新潮文庫)
本書を2020年の一冊と言うと、「何を今更」と笑われてしまうかもしれない。それもそのはず、本書は人気小説家の朝井リョウ氏が、第148回芥川賞(2013年)を受賞した作品で、2016年には映画化もされた。この作品のストーリーを既に知っている人は、山ほどいるに違いないだろう。しかし、私にとって本書は、紛れもなく「今年の」一冊なのだ。
物語の題材は「就活」。主人公の拓斗を含む5人の大学生たちが、ひょんなことから同じアパートの一室に集まり、一緒に就活の準備を行うことになる。この中で垣間見える大学生たちのリアルな心情を描いた作品だ。物語の設定自体はとてもありきたりなもので、ICU生の中にも仲間たちと集まって就活を行っており、この話に共感する人がいるかもしれない。だが本書の凄みは、そのようなどこにでもいそうな大学生たちの本音や、就活に対する考え方を、彼らの会話中の言葉やSNSでのやりとりを通して、多面的に描いている点にある。それゆえ、読み進めていくと、登場人物たちの本音に深く共感するととともに、どこか身につまされる思いがするのだ。特にクライマックスは、ある意味、ホラーよりも怖い。読み進める中で、主人公である拓斗の思いに共感を覚えれば覚えるほど、ラストのたたみ掛けによって、読者の心はズキズキと痛めつけられていくことだろう。しかし、読むのが嫌になるどころか、むしろ作品に引き込まれ、ページをめくる手が止まらなくなってしまうに違いない。就活に苦しむ大学生たちの深層心理を描ききった屈指の名作である。
さて、なぜ本書が私にとって「今年の」一冊なのか。その理由は、今年の私の誕生日に、とあるWG社員(以下、Nさん)がこの本をプレゼントしてくださったからだ。恥ずかしながら、私はあまり本を読まない。そのことを知っていたNさんは、「とても読みやすい本だから」と、この本を私にくれた。確か、新聞紙か何かで丁寧に包装までされており、とても嬉しかったことを覚えている。包装紙の上には、ペンで「感想とか聞いたりしないから、是非読んでみてね」とメッセージが添えてあったが、読み終わったとき、良い作品に巡り合えた興奮から思わずNさんにLINEで感想を送りつけてしまった。
私にとって本書は、思い出の詰まった一冊だ。私のように普段あまり本を読まない方にもおススメする。是非一度、読んでみてほしい。 【うじ】
今道友信『西洋哲学史』(講談社学術文庫)
西洋哲学史の道しるべとも言うべき一冊。何冊かの哲学書を読んでいまいち収拾がつかなくなってきた頃に、この本と出合いました。西洋哲学の通史において必要不可欠と思われる哲学者に絞られ、古代、中世、近世、近代、現代の時代に分けて取り上げられています。著者の講義を書籍化した本書は、口語体で書かれているので読みやすいです。「哲学史において、ソフィスト(弁論家)は悪者にされがちだ」というあるある(笑)となる要素にも言及しており、一人で哲学書に挑んでいる時のような窮屈さがなくなり、より哲学の勉強が楽しめるようになりました。 【さわみ】
ロバート・アトキンソン・ウェストール
『ブラッカムの爆撃機』(岩波書店)
こんにちは! 新入社員の24エイプリル、ゑゐです。
僕が今年の一冊として選んだのは、『ブラッカムの爆撃機(原題・Blackham’s Wimpy)』という児童向けの短編集です。
表題作『ブラッカムの爆撃機』の舞台は、第二次世界大戦下のイギリス。主人公のゲアリーはイギリス空軍の爆撃機のパイロットとして、その日もドイツへの夜間攻撃に向かっていました。攻撃が終わってイギリスに帰る途中、たまたまゲアリーの近くを飛んでいたのは、粗野で下品な部隊の嫌われ者、ブラッカム曹長。そして、そのブラッカム爆撃機を狙うかのように雲の中から忍び寄る影……。
続きは皆様の目で確かめていただくとして、僕がこの「児童書」を大学新聞でお勧めしたのは、この本が子供向けと言うには厳しすぎるほどのリアリティを持つからです。作者はロバート・ウェストール(1929~1993)というイギリスの作家で、1975年に『機関銃要塞の少年たち(原題・The Machine Gunners)』でデビューしました。少年時代を戦争下のイギリスで過ごしたウェストールは、彼自身の経験を小説に生かしているとされ、彼の作品の中によく出てくるチャスという少年は、ウェストール自身だとも言われています。
この作品で主人公たちが乗るのは、原題にも使われている「ウィンピー」という爆撃機で、当時ですらかなり時代遅れのオンボロでした。しかし彼らは、一度命令が出されれば、そんなオンボロであっても敵地に飛び込んでいかなければなりません。そしてひとたび撃たれてしまえば、敵も味方も、旧式も新型も関係なくバタバタと落ちて行く……。そして忍び寄ってくる恐怖と狂気を、作者の感情を交えずに淡々と描いたこの本は、ある意味至高の「反戦文学」であると思います。
スタジオジブリの宮崎駿氏も絶賛し、新装版には挿絵と短編漫画を寄せているこの本が「児童書」として括られ、人に知られずにいることはあまりにもったいないと感じ、ここで紹介させていただきました。残念ながら大学図書館には無いようですが、興味がある方はコンタクトを取ってくださればお貸しできます! 【ゑゐ】
倉田百三 『出家とその弟子』 (岩波文庫)
『日本のいちばん長い日』(1967)という終戦を舞台にした映画を観ていたら、勤労学生がズボンのポケットにこの本を差しているのが目に留まった。75年前の学生と現代の私が同じ本を読んでいると考えただけで、とても興味が湧いてくる。
大正時代に書かれた本書は、親鸞が生きた中世の日本を舞台に、祈りや救い、愛と恋の違いなどの普遍的なテーマについて、キリスト教と仏教に通底する深い洞察を提示している。善人は出し抜かれるばかりだから、いっそ徹底的に悪人になってやろうと思い、吹雪の中で宿を求める親鸞一行を玄関から締め出す左衛門。同僚の僧に諫められながらも、遊女への懸想を無下にすることができない唯円(ゆいえん)。そして、臨終の瀬戸際でも放蕩息子を許すことを躊躇ってしまう親鸞。優秀な人間は一人もいないが、それぞれが自分の弱さと真剣に向き合っている。そのひたむきさに心を打たれる、時代を超えた名作です。 【折合極兼】
井筒俊彦 『意識と本質―精神的東洋を索めて』
(岩波文庫)
緊急事態宣言下、三日三晩、云々唸りながら読破した本書。私は本書から、哲学とは根本的に如何なる学問かということを教わった気がする。
本書において井筒俊彦は、インド哲学、道教、サルトル、芭蕉、本居宣長、イスラーム哲学、リルケ、宋学、禅仏教、密教、ユダヤ教、孔子等々の古今東西の思想を相互に結びつけ、共時的に論じてくる。そして、人間の「意識」の重層性に着目しながら、これらの思想を存在の根源そのものの律動に直接触れる、名状し難い「無」という地平へと導いていく。
「宗教」として安易に片付けられる、仏教やイスラームなどに深い哲学的意義を見出し、「東洋哲学」として統一的に論じた本書の果たす役割は大きい。理論を頭の中だけでこねくり回し、言葉遊びに終始してしまう単なる「知識」としての哲学ではなく、自らが問いと一体となって生きるという「叡智」としてのそれを、私は本書に教えられたのである。 【ひし美ゆり子】
終わりに
新型コロナウイルス感染症の拡大によって、世界中が「新しい日常」への変化を迫られた本年。我々WGも、従来の紙版新聞の発行が難しくなったことで、記事の掲載方法を紙からWebへと、大きく転換することを余儀なくされました。コロナ禍以前も、いくつかの記事をWebに掲載していましたが、当時はまだ紙版の比重が圧倒的に大きく、コロナ禍になっていざWebを駆使しようにも、中々使いこなせない部分がありました。そのため本年は、記事の掲載方法において、多くの課題や反省が見つかった一年でした。しかし、そのような状況下においても、我々の活動を温かく見守り、記事を読んでくださった読者の皆様には、改めて感謝申し上げます。
しばらくは感染拡大に留意した生活が続いていくかもしれませんが、引き続き健康に気を付けてお過ごしください。そして、来る2021年もWeekly GIANTS Co.をよろしくお願い致します。良いお年を! 【WG社員一同】
▲感染拡大前の2月ごろに、部室で大富豪を楽しむWG社員たち