2020ICUホームカミング
―大学における体育の理念とは?

 

 昨年10月17日、2020年度ICUホームカミングが開かれた。例年ICU祭に合わせて開催されてきたが、今年度はコロナ禍を考慮し、初のオンライン開催となった。今年のテーマは「PE・スポーツ・キャンプ」。1976年からICUで体育教師を務める高橋伸先生を中心に、ICUにおいて体育や課外活動が果たす役割について話し合われた。本稿では、ICUの体育の歴史とその理念について取り上げる。

 

創立当初~2016年度までのICUの体育

 

 

 献学当時、1953年の大学設置基準では体育は4単位の必修だった。ICUが文部省に提出した申請書には、体育の目的および使命は「健康教育の徹底を期し、衣食住の合理化をはかる」とある。当時のICUの体育は講義2単位(1クラス1単位)、実技2単位(1クラス1/3単位)からなっている。実技からは基礎体育Ⅰ,Ⅱが必修で、その他から4種目を選ぶ。このカリキュラムは2017年に更新されるまで、約60年にわたって続けられた。

 

〇ICUの体育の特徴

 少人数教育を標榜するICUは、体育でも1クラスの参加者を20名に抑え、「全員が時間内に活動できる環境を作れる」「教員が学生を個別に見ることができる」「個人的なつながりを作りやすい」といった利点を作り出している。各コースにおける種目は以下の通りだ。

基礎体育Ⅰ水泳、ジョギング
基礎体育Ⅱチームスポーツ(ソフトボール、フライングディスク、バレーボールなど)
チームスポーツⅠ(屋外)サッカー、ソフトボール、タッチフットボール
チームスポーツⅡ(屋内)バスケットボール、バレーボール
個人スポーツⅠ(初級),Ⅱ(中級)水泳、アーチェリー、ゴルフ
対人スポーツⅠ(初級),Ⅱ(中級)テニス、卓球、バドミントン
個人試技活動Ⅰ(初級),Ⅱ(中級)トランポリン、和太鼓、Sense Up Ex.、Movement Awareness(リラクゼーション)、フィットネス、ウェイトトレーニング
格闘技Ⅰ(初級),Ⅱ(中級)剣道、柔道、合気道、太極拳
リズム&ダンスⅠ(初級),Ⅱ(中級)日本民謡舞踊、社交ダンス、創作ダンス
ゲームとクラフトゲームクラフト(クロッケー、ペタンク)
Organized Camp&Craftsキャンプクラフト(飯盒炊爨)
アダプテッドコース※障がいを持った学生などに対応

※現在はない種目も記載

 

〇基礎体育Ⅰ,Ⅱ

 基礎体育Ⅰの水泳は速く泳ぐことを目標とせず、長い距離を泳ぐことで全身運動を目的としていた。同様にジョギングでは、自分にあったペースで走ることが求められた。基礎体育Ⅱでは、チームスポーツを通じて仲間との協力や協調を学んだ。

 

〇アダプテッドコース

 身体的、精神的に通常のクラスに参加できない学生は、教員と協議し、できる活動に参加する。例えば、全盲の学生でも水泳やアーチェリーに参加していた。また、筋ジストロフィーを患う学生はカバーのついたストローを飛ばしてその飛距離を競ったり、ミニチュアのボウリングを制作したりした。

 

ICU PEの根底にあるもの

 

〇三隅達郎先生

 初代保健体育主任である三隅先生は、自身のレクリエーション観について「どこまでも自分自身でやることが主要である」と記している。また「”何のために”ではなく。興味を引いたからやってみた、そしたらこんな結果が出てきた」というように、まずは経験することが大事だとしている。例えば、体育だと「体力をつけるために走る」ではなく「走ってみたら体力がついた」というようなもの。

 

〇高橋和敏先生

 高橋伸先生の恩師にあたる高橋和敏先生は1967年6月発行の雑誌『教育施設』にて、ICUの体育の特徴について以下のように取り上げている。

  1. 各種の教材に応じて、それに適したクラス編成を行っている。最小のクラスで6名、最大のクラスでも36名となっている。 ※基本的には20名だが、チームスポーツの際には36名まで増えることもあった。

  2. 基礎体育以外は、各学生の興味と経験に応じて、選択する。

  3. 将来にわたって体育活動ができるように、チームゲームと共に個人ゲーム
   を多く取り入れている。

  4. 身体の都合に応じて、それに適した体育活動ができるように、特別コース  
  (アダプテッドコース)を用意している。

 

〇高橋伸先生

 高橋伸先生自身は、PEは全人教育の一端を担うものであり、身体を動かし、共にその場を楽しむことで人との関わり方について分かることもあると考える。また、Learning by Doingの精神を根幹としている。これは、プログラムを示されたときに、先に色々と聞こうとするのではなく、やってからコメントを貰うということだ。レクリエーション観について、上手な遊び方を経験し、身につけ、自身の成長を促し、生活を豊かにするものとしている。その他に、「自分のことは自分でする」「相手の気持ちを考え、受け止める」といったことを自分で学んだという。

 

2017年度からのICUの体育

 

 2020年度現在、ICUにおける体育のカリキュラムは以下の通り。

 

 

2017年度からの新カリキュラムでは、講義1単位(1クラス1単位)、実技1単位(1クラス1/3単位)となった。実技はExerciseⅠ,Ⅱ,Ⅲが必修となり、選択種目からの必修はなくなった。

 

〇2017年度の主な変更点

・1クラスの定員を20名に戻した

 1990年代から学生数が増える一方、体育の授業は専任教師が持つということで授業数が増えなかった。そのため1クラスの人数が40人になることもあった。教師がこの人数を見るのは無理があるということで、クラスを20名に戻した。

・男女混合のクラスにした

 当時は男子のクラス、女子のクラスがあったが、それを廃止して全てを男女混合のクラスにした。

・クラスを自分で選択

 それまではELAのセクションを2つないし3つを合わせて1つのクラスとしていたが、変更後は各々が好きな時間、好きな先生の授業を選ぶようにした。高橋伸先生は「異なった英語レベルのクラスが混ざってしまうと、初歩のクラスの人たちは上のレベルの人たちに気後れしてしまう部分がある。今では、英語レベルが分からない状況でクラスに来るので、お互いを知り合うことがスムーズにいっている」と振り返る。

 

 ICUのホームページでは、体育を以下のように位置づけている。「ICUの保健体育科目は単に運動能力の向上を目指す科目ではありません。ICUの教育の特徴である、リベラルアーツならではの保健体育として、『健康』『リーダーシップ・フォロワーシップ』『コミュニケーション能力』や、『ライフセービングスキル』といった安全に関わるものなど、誰にとってもQuality of Life(生活の質)の向上につながる、知識や技術を学ぶ科目として位置づけているからです」。

 新型コロナウイルスが猛威を奮う中、体育の実技の授業も今まで通りの形態を維持できず、画面を通しての講義が中心となっている。それは多くの学生にとって、納得のいかないものだろう。同時に、思い通りの授業を遂行することのできない体育教師陣の苦い思いも想像できる。様々な活動に工夫を強いられることが多い世の中、せめて身体を動かすことは楽しくありたい。【さわみ】