【icu style】
ブリコルールの部屋(ID22 サキさんの場合)

 ある時、編集者・写真家の都築響一は写真集『tokyo style』や『賃貸宇宙』で、人々の部屋から彼らの生活や思索を忠実に捉えることに成功した。その写真集は、例えば海外へ発信するようなカッコのついたものではなく、高級でもお洒落でなくとも、ただその人なりのルールや快適さが宿る、居心地の良い空間を写したものであった。「確かに東京には様々な人が住んでいるようだけれど、私の周りのICU生だって負けていない」筆者は、都築の作品に根拠も目的もない使命感を覚えた。言うまでもないが、ICU生の思索ともいえる実生活が明るみに出ることは殆どない。こうして生まれたのが、Weekly GIANTS Co.の社員がICU生の住む部屋を訪ねて話を聞き、今までなかった程に彼らを丸裸にしていく本企画である。

※本記事には読者の皆さんが嫌悪感を覚える可能性が非常に高い、不衛生な画像や描写があります。あらかじめご了承の上、ご覧ください。

 記念すべき第1回で取材に応じてもらったのは、3年生のサキさん(仮名)。取材以前から彼女と知り合いであった筆者は、本企画を始動する際には一番に話を聞こうと決めていた。というのも、こちらが受け止めきれない程にサキさんの部屋は個性的で、特にその外観とのギャップは癖になる程、強烈なのだ。

 サキさんがこの部屋で暮らし始めたのは1年生の夏頃。以前は家族と吉祥寺の一軒家に住んでいたが、父親の転勤によって初めての一人暮らしが始まった。その住まいというのはICUに程近い、家賃約6.7万円の小綺麗なマンションの一室。周りのICU生と比較しても、十分に高級なスペースである。丁寧に清掃された廊下と、変な音も匂いもしない好感の持てるエレベーター。筆者は、このマンションがあの部屋を内包していることを未だ信じることができない。

「大は小を兼ねるような感覚。キタナイはキレイとキタナイにいけるけれど、キレイはキタナイにいけないよね」

 輝きを失った白いフローリングが垣間見える、1Kとベランダのある部屋。サキさんがここを掃除するのは、4ヶ月に1回程。それ以外は「しなくても生きていけるからしない」そうだ。筆者には理解が困難であったが、彼女が言うにここには独自のコードが存在し、愛読書は適切な場所にきちんと整理され、全てが「ブリコラージュ」されているらしい。

▲キッチンと調理台

 この部屋の猛烈な個性にめまいを覚えながら入口を振り返ると、そこにキッチンがあった。他人の部屋を訪ねる際にやはり気になるのが調理台の広さ、冷蔵庫の中身であるが、そもそも自分はキッチンをキッチンと認識すらしていなかったことにここで気が付く。「これはね……2か月くらい洗い物をため込んだ結果だよ」そう話す通り、サキさんのキッチンは大学生らしい飲食物で随分と賑やかな状態になっていた。サキさんの部屋をどうこう言う筆者だが、4ヶ月に1回程の掃除の直後、つまり奇跡的に比較的片付いていると思われる日に、換気扇の下で楽しく焼肉をしたことがある。

▲通称「汁のごみ箱」※モザイク修正済み

 キッチンで見つかったのがこれ。もとは食べ残した鍋を放置し、その上から飲みきれなかったスープや、麺類を調理した際のつけ汁を注いだ。その後2か月放置したらこのような状態になったそうだ。

▲頭上の三角コーナー

 飲食物はキッチンにのみあるとは限らない。筆者の場合も、飲みかけの珈琲や個包装のチョコレートがサイドテーブルに放置されているようなことはよくある。ただ、サキさんの場合、それはすでに飲食可能なものではなく、清潔な卓上にある訳でもない。もう存在の意味を失ったそれらは、何故か布団とベランダ(この物件で一番安心できる場所)の間、つまり体を休めた時の頭上にある。「これは寝ながら食べるからだね」「座禅を組むから布団の上には何も置きたくない」と彼女は説明にならないことを呟くが、この光景には筆者も彼女の健康を案ずる他なかった。

▲懐かしのコラショ置き時計

 小学1年生の頃から所有。当初は録音機能まで使いこなし随分とやんちゃをしたが、最近は目覚ましもiPhoneを使うため、ただの飾りとなっている。

▲ウルトラマンのおもちゃと特製ウルトラマンカード

 洗濯が完了したと思われる衣服やタオルの下に潜むのが、半透明の収納ケース。その一段には、サキさんの趣味であるウルトラマンのソフビが集められていた。4歳の頃に集め始め、ウルトラマンと怪獣を幾度も戦わせてきた。最近では両者を単に対決させるのみならず、脚本、シリーズ構成、視聴率、予算、おもちゃ商戦までを考慮して遊んでいるらしい。ソフビの間に挟まっていたウルトラマンオーブの特製カードは、どうしても人に自慢したい貴重なコレクションの一つ。

 お手洗いに関しては、諸般の事情により写真を掲載することを断念した。容易く想像できるように、便器と洗面所、シャワー室はどれもあまり清潔とは言えない。入浴時に脱いでそのままにするらしく、床には洗濯を待つ衣服が積み重る。彼女に言わせれば、それらもバスマットの代わりになるらしい。

※モザイク修正済み

 今回訪問したことで彼女の生活がかなり心配になった筆者だが、やはり事故は既に起きていた。去年の夏、サキさんは外出をしたいのに、部屋には着用済みの衣服しか見当たらなかった。これは学生の一人暮らしでは、いつでも起こりうることである。サキさんは急いで洗濯をし、せめて下着だけはどうにか乾かして着替えたいと考えていた。そこでこれもよくある話だが、ドライヤーを使おうと思いつく。しかし、ドライヤーは以前洗濯が間に合わなかった際に、濡れた衣服の中に仕込んでショートさせていたために使用できず、なんと電子レンジに手を出すことにした。

「……下着をチンしたら、発火した。湯気が出て、とにかく臭い。むせちゃったよ」

サキさんはこの結果に驚いて、電子レンジの隣の流しに下着をほうったそうだ。あの「汁のごみ箱」からあふれ出た汚水の溜まった、流しにである。そして、彼女は何故かそれを2ヶ月程放置した。着替えの足りなかった当日に、彼女がどのようにして外出したかは到底定かではないが、2ヶ月後に引き上げたそれは、やはり大変な状態になっていた。

 以上が今回の取材で見聞きしたことのうち、Weekly GIANTS ONLINEにて紹介できると判断されたものである。取材を終えて部屋から出ると、外は春の清々しい空気で満たされていた。元の世界に無事に戻ったような安堵の感覚。次はどんなICU生に出会えるのか、期待が高まる。【Sylvie】