【寄稿】Rethink ICU企画の「放送ギリギリのパネルディスカッション」について一言。
|今月上旬に開催された、Rethink ICU。イベント終了ののち、参加した学生からは感想から批判まで、様々な声が聞かれた。今回は主催者の一人からいただいた、主に当日のパネルディスカッションに関する寄稿を掲載する。読者の皆さんも頁の最下部にあるコメント欄、或いはWGまで意見を寄せてほしい。
【Sylvie】
全力で取り組んで、できる限りのことはしたつもりの上で、届かなかった。
私には実行力、判断力、そして勇気がなかった。
Rethink ICUの企画には、前のインタビューの通りセクメに誘われて参加した。企画の参加にはかなり迷った。「ICUらしさ」を考え直すというコンセプトそのものに疑問を抱いていたからだ。前のインタビューで「本質的な普遍性というのは、絶対存在し続ける」という発言があるが、私はそうは思わない。この大学の入試にたまたま合格し、数年間週3、4回このキャンパスで授業を受けていた、くらいの共通点しかない人間の集団に共通する「本質的な普遍性」はないと思う。もし、それが存在しているように見えるのならば、それは「日本人らしさ」「女性らしさ」といったものに近いのではないか。国際基督教大学という機関が存続するために掲げられた理想であり、それはもちろん現実問題として必要で、重要な機能的な役割を果たしているが、私はそれが「本質的」だとは言い切れないと考える。というか、虚構だと思う。
それでもこの企画に参加した。それは、典型的な「ICU」像に当てはまらず、よく上の世代が求めるような「政治に関心を持ってて元気で反発心を持つ若者」像にも当てはまらず、ただしんどさを抱えているICU生を何人も知っているからだ。無気力、諦め、自信のなさ、不安、そういうものと戦い、戦いきれずただ生きるのに必死なICU生を知っている。こういう人もいるのがICUなのである。それを踏まえた上でのICU、広くいえば大学生活、今この時代に若者として生きることを考え直したかった。
ただ、それは壇上では届けられなかった。
私には、実行力、判断力と勇気がなかった。
短い期間の中で、パネルディスカッションの企画のチームと信頼関係を築き、本音でぶつかれるチームにすること。その上で、大学についてリサーチした上で議題を明確にすること。パネリストとも初対面の状態から信頼関係を築くこと。そもそも本当にやりたいことはパネルディスカッションなのか、パネルディスカッションっていう形態にそもそも限界があるのではないかと問い直し全部作り替えること。そしてその上でロジックを組み、ステージを考え、そこで自分をステージ上で曝け出すこと。時には発言を遮り参加者の質問を拾うこと。
そういうことをしたいと思っていた反面、私は怖かった。まず人と本音で話し合うのが怖い。この大学3年間で、摩擦のないスムーズな人間関係だけが得意になっていった。喧嘩も、人の前で泣くのも、熱くなるのも避けてきた。ちなみに尖ってる人も嫌いだ。尖ること自体には何も価値がないと思っているし、乱暴さ、パッと見のクレイジーさを崇拝するような人間が私は本当に嫌なのだ。それも私の未熟さ故なのだが。
なんか色々話がそれた。
とにかく、「内容が優等生すぎる、キラキラしすぎている」を理由に途中で人が会場から出て行ってしまうような内容になった。実際にそういう人がいたらしい。アンケートの一部を抜粋する。
「討論会について 討論会は限られた時間を有意義に消化するために参加者全員が趣旨を共有するべきと思いました.ウェブ上には興味深い質問がたくさんあるのに,討論にいかさせれなかったのは司会がうまくフロアを仕切れていなかったのと,討論をすることへ参加者たちの問題意識や姿勢が明確でなかったからだと感じました.正直,聴者の方が明確な問題意識を持っていました.」
ぐうの音もでない。全くもってその通りなのである。
この場を借りてお詫びする。
もっとすごい何かを期待していた人、もっと勇気のある人がステージに立つことを期待していた人、ごめんなさい。
綺麗事に聞こえると思うしよく言われることかもしれないが、一つだけ言わせてほしい。
問題意識を持ち文章で表明することと、それを元に企画を考え壇上で表現することは全く違う。そこに聴者と討論者の違いは明確にある。私は自分の問題意識の元に行動を起こして、自分のカロリーを消費し切った。Rethink ICUに満足できなかったあなたには実際に変化を起こして欲しい。これを機に、この大学に対話が生まれる場所になるための、具体的なアクションを起こして欲しい。コロナ禍の東京という人間関係があまりに希薄で空虚すぎる場所でも、ICUは、対話が生まれる可能性を持っていると思うからだ。
もちろん私も、この経験を胸に、自分の理想を自分が納得の行くまで実現させられる、真の実行力のある人間になるよう鍛錬することを心に誓う。
追記
「放送ギリギリの対話して欲しかったです。一番人気の質問だったジェンダートイレについての質問答えて欲しかったです。」
アンケートの一つにこれがあった。
実際の質問はこちらである。
「ジェンダーレストイレって、聞こえはいいかもしれませんが、本当に必要なんですか?誰か切実にあれを必要とする人はいたのでしょうか?」
私はオールジェンダートイレが欲しいと考えている学生を知っている。本館のみならず、図書館にも欲しいと言っていた。
それだけではない。私は、その人がそのような要望を持つ人間だということを知る前に、今まで無知で乱暴な声かけをしてきた経験がある(具体的にいうと無理やり恋バナをしたり、その人が「異性」と仲良くしてたら茶化したりしていた。しかも、1対1でなくグループ対その人1でやっていた)。そして、そうするべきではなかった、と気づいた時に自分の行為に心底震えた。自分がいかにマジョリティ側にいる人間なのか実感し、自分の暴力性にやりきれなさを覚えた。私も時にはマイノリティ側の人間である。大勢に攻撃されることの怖さはわかっているはずだった。絶対に、二度と、こんなことはしたくないと思った。
性的マイノリティは構造上、実際にはいるにもかかわらず「いない」とされがちである。この疑問も、そういう現状をよく表していると思ってしまった(この人が当事者である可能性を考えずに、まじでいないと思ってるのかなこの人?と思ってしまったのである。それ自体が問題かもしれない)。とにかく私は、この質問を壇上でタブレットでみた時、これには自分は答えられない、この疑問が持つ暴力性に明確に「NO」という勇気と力がない、と考えて、回答を避けてしまった。
自分でも、なんて勇気がないんだと思う。
弁明に聞こえてしまうのかもしれないが、そういう気持ちで壇上にいたことは、ここに書いておきたい。
そして、壇上で取り上げることのできなかった全ての質問をここに投げて、筆を置く。
【sohee】
当日寄せられた質問(参照するには、リンク先の「Ask a question」ボタンをクリック)
- なんで理事長、そんなに話がお上手なんですか!
- しょうさんはどこで生まれ育ちましたか?
- ICUに演劇メジャーが無いのはなぜでしょうか?しょうさんが学長の間に是非設立して欲しいです!
- 入学して3年目(24です。)、ICUらしさや対話を重視している実感が湧きません。感じられる環境が少ないのか、受け取る器が足りていないのか…3、4年目を変えてみたくて参加してみました。
- オープンハウスと教員の対話が文化としてあったらしいがなぜ廃れてしまったのだろうか。
- ICUは対話を重視していると思うのですが、「対話の限界」を感じたことはありますか?
- 今日の「対話」において「人はそれぞれだから」といったような相対主義的な考えがある種の矛盾する障害として対話との両立が難しくなっている傾向があるように感じます。「議論を突きつめること」と「他者との違いの尊重」はどう両立していけばいいのでしょうか?
- 「対話」ってすごいしんどいものだと思うので、明るいトーンで「みんなで目指そう」と言われると違和感あります
- 「対話=dialogue」はdiscussionやdebateと違って何か確固たる「結果」を必ずしも生み出すものではないと思います。「結果≒変化」を起こさない対話にどのような意味があるとお考えですか?
- カツサンドっていつもらえますか?
- ICU生らしさとは、同質性の押し付けではないか?「ICU生らしさ」という言葉に多様性を感じませんでした。これについて、皆さんはどう考えますか?
- コロナ禍で活動が大幅に制限される中、いわゆる「ICUらしさ」と言われてきたものの共感が難しくなってきたと感じます。あの時はよかった、と言われても、その時代のことも、キャンパスの芝の匂いすらも知らない学生が多いと思います。「ICUらしさ」の復興と言われた時、具体的に何を目指したいと思われていますか?これからの学生に何を期待するか、あるいは何をしていきたいかを教えていただきたいです。
- What’s the “ICUness” ?
- 学生の間で話題になっているicuconfessions をご存知ですか?
- 奨学金制度に対する年収制限が厳しいです。中間層も気軽に応募できるようにしてほしいです。
- 困っているという状態は同じなのに、助ける余裕のある側が寄付金の使い方や背景の捉え方を決めてしまうのは、本当に平和追求と言えるのでしょうか?
- ICUのキャンパスや人々の雰囲気が好きで、バイト先やインターン先のギスギスした空気が辛くなることがある。Isolated Crazy Utopiaから卒業していく人たちへのぶっちゃけアドバイスをください。
- 「幸せ」や「平和」というものには、全人類に共通する定義があると思いますか?ないとした場合は、世界としてどのようにそれらを目指して行くべきだと思いますか。
- 世界平和は実現可能だと思いますか?実現不可能と感じながら平和を目指し続けるモチベーションは何ですか?というか、平和ってなんですか?
- 世界平和はidealだと思いますか?idealだと思いながらも目指すモチベーションは何ですか?
- Love&Peaceにちなんで、他人の幸せをジブの幸せに還元するには何(経験、姿勢)が必要ですか?言い換えると、自己本位を脱却するにはどうしたらいいですか?
- 恋愛において大切なことは何ですか
- 多くのメジャーがあるなかで、高い専門性の授業を保てているのはなぜですか?
- 【海保】学生運動の際、当局からの弾圧によって重篤な障害を負い今も苦しんでいる方の事思ったとき、その歴史を「激動の中の大学形成期」という簡単な一言でホームページに乗せているicuの態度とても辛い。icu史再考の一歩として、ICU図書館が所蔵している1966-70年の学生運動期に関する資料の全面公開をしてほしい。なぜ公開に踏み切れないのか、なぜ内省的な歴史編纂をしますして頂けないのかお聞きしたいです。
- 本学は多様性を謳っているが、なぜCコードによって他の宗教信者であったり無信仰の教員による講義が設けられていないのか?
- C-codeについて、私は学生としてあまり恩恵を受けた実感がないのですが、今後制度を調整する可能性はお考えですか?キリスト教精神の重視と教授の宗教的バックグラウンドを問わないことは両立するのではないかと思いましたが、いかがでしょうか。
- 学生の自治会はないんですか?
- ICU生らしさとは何ですか?
- 夢がない、未来もわからない、そんな中でどうしたらよいでしょうか?