【連載・教授の本を読む】第1回 『新自由主義の復権―日本経済はなぜ停滞しているのか―』

『新自由主義の復権―日本経済はなぜ停滞しているのか―』。なんとも力強いタイトルである。この本はICUの経済メジャー教授、八代尚宏教授によって書かれたものであり、中公新書より2011年に出版された。厚すぎる、ということもなく手に取りやすい一冊である。今回は、ICUの教授の本を紹介するというWGの新企画の一つとして、この本を紹介したい。

この本では、新自由主義の立場から見た日本のビジョンが野心的に描いかれている。筆者の八代教授は「市場機能を最大限に活かし、人々の生活を豊かにする政府の役割と一体的な思想」と新自由主義をとらえて支持し、日本市場の再びの台頭を目指すための指針を示す。

八代教授が強調するのは、そもそも、新自由主義は人々の生活の豊かさを目指すものであるということだ。柔軟な経済活動のためにも新自由主義を八代教授は支持している。

本の章題を見てみると、第6章「社会保障改革」第7章「労働市場改革」第8章「新産業の可能性」終章「震災復興とTPP」とある。このようにそれぞれの細分化された問題について新自由主義の視点から分析がされているのはおもしろい。具体的な社会問題を提示されているので、経済に興味がない人でも関心がもちやすく、読んでいる間に飽きてしまう、などといったことは皆無であろう。

また、この本の中で、小泉元総理の改革について多くのページが割かれている。そこで、八代教授は小泉氏の改革について、それを支持するとともに改革の「不十分さ」について指摘をする。たとえば、八代教授は郵政民営化を支持する。その一方で、小泉内閣の「歳出を徹底して削減し、ムダをなくすまでは消費税率を引き上げない」という方針に対しては、徹底して削減、という言葉の定義が曖昧であると批難する。さらに、前述のように、過去への批難だけではなく、日本の将来のビジョンも本の中で展開している。特にその中でも目を引くのは、私たち大学生にとって関わりの大きい問題、就職問題についてであろう。この問題に対して八代教授は具体的な案を提示することに挑戦している。筆者の目には、新卒一括採用と定年制を悪習であるとし、新卒も非正規雇用も、定年でさえも関係ない実力本位のワークスタイルを示しているのが新鮮な試みとして映った。

この本は具体的な社会問題を新自由主義の視点から、わかりやすく説明している。さらに、説明だけにとどまらず、将来の予想と解決方法までも提言していることがこの本の魅力を増している。今週末、時間のある方は八代教授のこの本を手に取ってみてはいかがだろうか。有意義な休日が保障されるだろう。