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【連載・教授の本を読む】第2回 『反知性主義』―― 「知性」に「反」しているとはどういうことか

反知性主義。最近よく耳にする言葉である。2016年度東京大学二次試験の国語において、反知性主義がテーマとされた文章が出題されたことも記憶に新しい。今回この記事でご紹介する本は、ICU副学長の森本あんり先生が筆をとられた『反知性主義 アメリカ合衆国が生んだ「熱病」の正体』である。この本は、アメリカで反知性主義が支持される原因をキリスト教に帰し、それについて解説している。「アメリカではなぜ反知性主義の風潮が強いのか?」という問いだけでなく、「キリスト教がアメリカで厚く信仰されているのはなぜか?」、「キリスト教とアメリカンビジネスはどのように結びついているのか?」といったところまで平易に解説してくれる。アメリカについて学びたいと思ったときに、この本を手に取ってみるのもいいかもしれない。
反知性主義とは?

そもそも反知性主義とは一体どういった概念なのだろうか? 知性に絶対的なNoを突きつけることなのだろうか。知性を唾棄すべきものとみなすことなのだろうか。反知性主義というのは、知性への蔑視や軽視を意味するのではなく、知性の周辺にはびこる権力や、エリート意識への反感の結晶なのである。例をあげると、簡単には理解ができない難しそうな文字や数式をこねくりまわす学者よりは、即物的で、勢いがあり、わかりやすい言葉を並び立てるお笑い芸人の方が大衆に支持され、好まれやすいということだ。どちらが正しいとは決して言えない。反知性主義もそういったものなのである。
反知性主義とキリスト教の関係とは?

では、アメリカではなぜキリスト教が反知性主義の土壌となったのか。キリスト教と反知性主義の結びつきは、独立前のアメリカで突如として湧き起こった「信仰復興運動」に端を発する。アメリカは、宗教的自由を求めたピューリタンたちが新大陸に上陸して作った国である。よって、当初アメリカで信仰されていたのは、知性偏重のピューリタニズムであった。

しかし18世紀半ば、「大覚醒」とも言われる宗教的旋風が大衆を襲う。これが、信仰復興運動である。ピューリタニズムは元々、カトリックへの反発から作られた。しかしその頃には、アメリカでも街の牧師たちが権威をもち、大衆が宗教的に牧師たちの見解に従うのみの形となっていた。それに反感を覚えた大衆が、牧師たちのものではなく、大衆のものである原初の神的な知を求めたのである。宗教は元々、「人工的に作り上げられた知性」よりも、「素朴で謙虚な無知」を尊いものとする傾向を含んでいる。その性質が一気に大衆の間で噴き出したのである。当時は、「ハーバードやイェールを出た者しか、教会では説教できない」といったルールも存在したが、それに対して大衆やそのリーダーは「神の前では誰もが平等ではないのか」と異論を唱えた。人々は、選ばれた者のみが手にした知性と神への特権を否定し、聖書に基づいた神への実直で素直な信仰を求めたのである。このように反知性主義は、「神の前での人類の平等」というキリスト教の原理から生まれたのである。
現代に息づく反知性主義

20世紀初頭に信仰復興運動が完成形へと近づくと共に、反知性主義も1つの完成形態をとる。信仰復興主義をいったん完成させたその人物は、反知性主義も同時に体現する。その人物は、ビリー・サンデーという。彼は、学校教育をほとんど受けておらず、神を信じる素朴な心はあっても、神学的な知識は欠如している。伝道集会では大声をあげて走り回りながら人々の改心をうながし、時には空想の悪魔に向かって、元ベースボール選手の腕前を活かして、これまた空想の火の玉を投げつける。伝道集会は活気に満ち、まるでサーカスのようなにぎやかさであったという。しかし、にぎやかなだけではなく、人々は彼の話を熱心に聞き、神への信仰を新たにする。どうだろう、彼はまさに反知性主義のヒーローにふさわしいとは思わないだろうか。

ここで、反知性主義が現代のアメリカにおいてどのような影響をもっているのかについて思いを馳せたい。思いつくのは、アメリカ大統領予備選挙に出馬しているドナルド・トランプ氏であろう。これに関しては、森本あんり先生自身も発言している。詳しくはここ(公益社団法人 日本記者クラブウェブサイト)を参照されたい。
こんな人におすすめ!

前述したように、反知性主義について知りたいという方だけではなく、アメリカについて知りたいという方にもこの本はおすすめである。また、この本は、専門的な学術書としてではなく一般書として出版されているので、あまり肩肘はらずに何かを学びたいときにもおすすめだ。一気読み間違いなしの本なので、夜中から読み出して徹夜などをしてしまわないように、くれぐれも注意してほしい。

Photo credit: “Christian Books” by Joe Morgan is licensed under CC BY 2.0