ヨハン・ガルトゥング博士が来学、講演“On the Art of Peace”

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国際的な学術会議、“Rethinking Peace Studies Conference”が、6月2日から4日の3日間にわたりICUのダイアログハウスで開催された。
このうち、6月3日のConferenceで行われたのが、ノルウェーの平和研究の第一人者であり、これまでに100以上の国家間・宗教間紛争を調停した経験を持つJohan Galtung氏(数学・社会学博士)が「平和」とは何かを4つの要素から解説する特別講演”On the Art of Peace”だ。
Galtung氏曰く、平和とはEquity、Empathy、Trauma、Conflictの4つの要素で構成されているという。Equityは「公平、公正」という意味だが、2つのグループが相互的に協力し合うこと。Empathyは単に「協調」という意味ではなく、喜びや幸福を共有することで発生する協調。Traumaはある社会、地域内における不適合により負わされる傷。日本人はConflictのことをよく暴力行為と直結させて考えるが、「暴力、争い」と、Galtung氏が考えるConflictは違う意味を持つ、と主張した。Conflictとは「争い」ではなく、違うグループ同士の不一致を解決することを指すというのだ。

Conflictの意味を考えるときの一例として、韓国と北朝鮮の関係について論じていた。これら2つの国は長い間、双方の理解が不足している状態が続いており、どちらかがもう一方を従えたいという気持ちが先走り、なかなか大きな進展が見られていない。

このように対立がある場所にこそ「対話」が必要だという。対話を恐れ相手が感じていることに目を向けず、相手と話し合うことに消極的な状況を”negative peace(消極的平和)”と言い、そのような状況では平和を築くことは難しいからだ。
またGaltung氏の主張では、European Union(EU:ヨーロッパ連合)は28の国が協力し合うための連合であるはずなのに、文化、言語、政治的意思の違いにより互いを嫌っており、本当の協力関係になれていない状況がとても惜しい、とのことだ。特に人は言語の違いで争いを起こすが、言語の違いとは表現の違いであり、相手との違いを寛容に受け止めれば協力し合えるのだから、そのための努力をするべきだと説く。

前述したように、相手と協力し平和を築くには対話が必要であるが、対話をするときのコツというものがある。まず、相手に質問をぶつけること。そして、自分が発声するすべての言葉のトーンに気を使うことである。これらのコツを意識したうえで対話の機会を設けることが平和への第一歩になるであろう、とGaltung氏は述べた。
今回のConferenceのテーマ「平和研究」はICUのメジャーの一つでもあり、ICU生にとっては身近な話題であったことは間違いない。Galtung氏は「積極的平和」の概念をはじめて提唱したことでも有名だ。現在の日本の政治は「積極的平和主義」をとっているといわれているが、Galtung氏が提唱している概念とは明らかに異なるものである。今回の講演を聞いて、「平和」の定義とは何か、どのような行動が「平和」に結びつくのかを考えさせられた。
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