リオデジャネイロ五輪の副審に決定! 山内先生に突撃インタビュー!

5月中旬、ICUの公式ホームページにて、あることが発表された。それは、ICUの保健体育科講師である山内宏志先生がリオデジャネイロ五輪でのサッカーの副審に選ばれたということだ。今年の夏に迫ったリオデジャネイロ五輪。リオデジャネイロのスタジアムのピッチに、ICUの教員が立つという喜ばしいニュース。選ばれた張本人である、山内宏志先生に詳細を伺った。

(※インタビューは再構成済み)

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今回、リオデジャネイロ五輪のサッカーの副審に選ばれた山内宏志先生

——今の率直なお気持ちは?

大きな大会になるので、まず参加することができて嬉しく思っています。それと同時に、大会を成功させるために環境を整える任務に身が引き締まる思いです。
——リオデジャネイロ五輪の副審に選ばれた経緯を教えてください。

サッカーの審判資格は4級から1級まであります。私は現在1級審判員なのですが、1級になる前にサッカーの母国イングランドに留学し、現地の大学院に通いながらサッカーの審判の経験を積みました。そのあと、日本に帰ってきて日本の1級に昇級することができました。J2(日本プロサッカーリーグにおける2部)で主審を経験したあと、副審に転向し、2014年に国際副審になりました。そのあとは、数々の国際試合で経験を積みました。

大きな転機は、2015年ニュージーランドで開催されたU-20ワールドカップに参加させてもらったことです。ICUの教員になってからわずか2年での参加でした。その中で、このU-20に参加させてもらえたということは、ICUの皆様のサポートがあったからこそです。大会へ選出されるまでは、体力テストをしたり、競技規則のテストをしたり、試合中のパフォーマンスの評価をされたりして、FIFAが「この大会にはどの国の審判員を送ろう」ということを決める仕組みになっています。そんな中で、今回のリオデジャネイロ五輪を担当する審判団が発表され、日本から主審1名と副審2名の3名が選ばれたというわけです。

毎回アポイントメントが先にあって、そのあと体力テストがあって、メディカルチェックがあるという流れで正式に参加が決まります。実はFIFAからリリースがあり、ICUでお知らせがあったときは、まだそれらが終わってなかったので「おめでとうございます!」と言われた時に「ありがとうございます!」と言いながら「でもまだ体力テスト残っているしな……」と思っていました(笑)先週、モロッコで体力テストがありました。そのため、5月中は授業が終わったあと、一人でかなり強度の高いトレーニングをしていました。もしかしたら、人工芝の上で息を切らして横たわる私を見た人がいるかもしれません(笑)
——そもそも、なぜサッカーの審判を志したのですか? きっかけを教えてください。

サッカーが好きで、スポーツ科学を勉強をしたくて大学に進学したときは、選手として活動していました。そのときは、プロのサッカー選手になるという夢を捨てきれずにいました。でも、思った以上に周りのレベルが高かったんです。国体の選手だったとか、Jリーグの下部組織に所属しているだとか、名門校出身であるとか、そういった先輩や同期の人たちがたくさんいて、これは選手としては厳しいな、と。

ただどうしてもサッカーに関わりたかったので、いろんな立場からサッカーに関わろうと様々な勉強をしました。コーチやトレーナー、そしてサッカーの審判。この3つの勉強をしてみました。審判の資格を取るようになったきっかけは、大学の先輩に、関東大学サッカー連盟主催の審判講習会があるから受けてみないか、と誘われたことです。各大学から2名必須で講習会に出なきゃいけないのに、みんなやりたくなさそうで。そこでは審判の資格も取れるし、サッカーとの関わり方を模索していた時期だったのもあって、面白そうだなと思って参加しました。そのときはまだ、正直、審判っていう仕事がここまで面白いとは思ってなかったんです。
——その「審判の面白さ」、そして審判のやりがいとは……?

大きく分けて4つあります。
1つは、夢中になって楽しんでいる人たちのサポートをするのが楽しい、ということです。実際に自分がプレイヤーとしてサッカーをしていたときは、審判の存在は自分の頭にありませんでした。どうやって勝つか、ということに夢中で、どういう人が審判をしているのか、ということは考えていなかったんです。しかし、審判になってみると、「実はその裏側にこんな人がいたんだ」「自分の幸せなプレイヤー人生はたくさんの人に支えてもらえていた」ということが感じられました。それを実感できたことはとても良かったです。

もう一つは、審判って資格を取るとワッペンをもらえるんですね。これをつけてピッチに立つと、誇らしい気分になるんです。それが2番目の理由ですかね。その誇りと、中途半端なことはできないな、という責任をもってピッチに入ることを経験できるということも、審判をやるうえでのやりがいになっています。

3つ目は、一つひとつの判定の重みを感じられることです。旗一つでチームの勝敗が大きく変わってしまう。両チームの勝ちたいという想いを肌で感じる中で、自分の見えたことに正直に判断を下していく。難しい、だけれどもやりがいがある仕事です。

4つ目は、もっと単純なんですが、よく褒めてもらった、ということですね。私が特別うまかったわけではなく、当時、若い審判員が少なく、選手をやっていて体力もあったので、期待してもらったということもあると思います。例えば、「今日の判定どうだったかな?」って不安になっているときに「良かったよ」と言ってもらったり。褒められたことで自信をつけたというか。自信って持とうと思って持てるものではないじゃないですか。当時の自分にはなぜそんなに褒めるのかということがわからなかったんですが、教育者の立場に立ってみたときにわかりました。
審判はストレスがかかる仕事でもあり、周りからネガティヴな反応をもらうこともあります。そういうとき、自分を見失わないためには、メンタル面の強さと自信が必要なんです。みんながストレスフルな立場であることを知っているから、褒めることを大事にしているのだと思います。
——正式に審判になってからの経験で、なにか面白かったことというのはありますか?

サッカーの審判というのは、女子の試合、ジュニアの試合、高校生の試合もやれば、社会人の試合や障がい者の試合など、様々な試合に派遣されます。多様なプレイヤーがいる中に入っていけるんです。今、ライフワークとして続けているのは、聴覚障がい者のサッカーの審判です。これが非常に面白いんです。

この間、聴覚障がい者のサッカー審判の講習会を日本で初めてやりました。耳が聞こえない、もしくは難聴のプレイヤーたちなので、笛の音では止まらなかったり、わからなかったりします。そのとき、旗を降ったりするんですが、そのとき、コミュニケーションというのをすごく意識するんです。どのカテゴリーのサッカーでもそれは一緒だな、と思ったのが良い経験ですね。

コーチやトレーナーはチーム専属なんですけど、審判はいろんなチーム、いろんな人たちのサッカーを楽しめる。もしかしたら、審判でいるということは、サッカーを楽しめる最高の立場かもしれないですね。
——ICUで教鞭をとりながら、サッカーの審判をしている上での面白さ、大変さなどあれば教えてください。

ICU自体が国際性と多様性に満ちているので、審判をするうえでもプラスになっています。平和や多様性などを建学の精神におく大学で、みんなが安全に楽しめる環境を、と考えながら授業をしたり、一人一人がこのクラスのために何ができるかを考えることを促そうと授業を工夫したり。

そういうこと全てが、サッカーの審判をやることにリンクしていると思っています。審判をすることがICUでクラスを受け持つことにプラスになっているし、その逆もあります。個人で大変だと思うことはありません。ただ、ICUの教職員の皆様に支えられているというありがたさを心から感じています。学生の皆さんも含め、私の審判活動を理解していただけることが本当にありがたいと思っています。
——今後の抱負を教えてください。

まずは一つひとつの試合を着実に担当していきたいと考えています。ICUでの教育・研究活動と並行して、日々良い準備を続けていくつもりです。その結果として、2020年の東京オリンピックやFIFAワールドカップのような大きな大会に関われることができたらと思っています。
——ありがとうございました。

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