劇団黄河砂「熱海殺人事件」の舞台裏ー演出とキャストが語る魅力
|1月13日に初公演を迎える劇団黄河砂の「熱海殺人事件」。その魅力を語っていただくべく、演出の市田朝美さん(ID 19)とキャストの南部俊人さん(ID 19)、大宮友子さん(ID 19)、隅田穂乃花さん(ID 19)、Rさん(ID 22)にお話を伺った。(インタビューは再構成済み)
▲演出担当の市田朝美さん
――今回の劇はどういった内容ですか。
このストーリーは警視庁の木村伝兵衛刑事の捜査室から始まります。その木村刑事の捜査室に富山から上京してきた熊田刑事という女刑事が赴任してきて、木村が彼女に対して一つの事件を与えます。その事件が熱海で起こった殺人事件です。
――木村刑事はもともと熊田刑事が赴任してくることが分かっていて、そのために用意していたということですね。
はい。与えられた事件に対して熊田が求められたのは、単に事件を解決するということだけではありません。その事件の容疑者があまりにもぱっとしない動機で殺人を犯したことを見かねた木村刑事は、犯行に及ぶまでの過程をドラマチックなものにすることを通して、その容疑者を立派な犯人に仕上げることを熊田に求めます。
――熱海殺人事件を今回の劇に選んだきっかけはなんですか。
今回は卒業公演なので、キャストとして演じたい人を最初に募集して、それから演目を選ぶという形にしました。出演者が4人決まり、それぞれこういった役をやれば映えるだろうなということを考え、熱海殺人事件を選びました。
――演出担当として大変なことなどはありますか。
圧倒的なセリフの量と、たった4人の役者だけでオーディトリアムの舞台上の演劇を見せなければいけないということです。例えば、舞台の上に20人いたとして、そこで役者が自由な動きをするときには、そのうちの1人が違う動きをしたとしてもそんなに目立ちません。しかし、出演者が4人の場合にはどんなときでもそれぞれの役者に観客の目が向くので、舞台上での動きやセリフのニュアンスをすごく細かいところまで突き詰めなければなりません。
――この劇で特に注目してほしい部分はありますか。
第一にセリフの量と、テンポのいい役者同士の掛け合いですね。互いに間髪入れずに言葉を返していくので、そこが気持ちいいと思います。そして、この劇が作り出す空間自体も楽しんでいただけると思います。事件の容疑者を立派な犯人にするという前提からして独特なので、カオスな空間になることは間違いありません。
続いて、4人のキャストにそれぞれお話をうかがった。
▲南部俊人さん
――劇の中ではどんな役を演じていますか。
私が演じる役は木村伝兵衛という捜査官です。ぱっと見はすごく変な人ですが、 実はすごくこだわりのある信念を持っている人です。
――こだわった信念というのはどういったところにありますか。
その一風変わった捜査方法や、犯行当時の犯人の心情を紐解いていく方法が特殊なところです。ただ容疑者を捕まえて、起こったことだけを事務的に処理していくのではなく、犯人や被害者が、どういう心情のもつれを持ちながら事件が発展していったのかということを深い所まで汲み取ろうとしているのです。傍から見たらこの人は変わっていると思うかもしれません。
――このキャラクターが好きだと思う瞬間はありますか。
その信念が見えた時です。心の奥で思ってることがセリフに出てきたときに、この人はこんなにまっすぐな人なんだなと伝わってきます。最初に台本を読んだときは、変わったことを言う人だと思っていました。今では、変わったセリフの中にも本当の気持ちが見え隠れしていると気づき、魅力的な人だなと感じます。
――練習をしていて大変に思うことはありますか。
木村伝兵衛という役は自分とはかけ離れてる人なので、そこが大変です。木村はだいたい40歳くらいで、歳もだいぶ離れています。木村の言葉の裏にはどんな意味があって、どんな気持ちでそれを言っているのかということを考えていくとキリがないです。
▲大宮友子さん
――劇の中ではどのような役を演じますか。
私が演じる役は大山金太郎という、事件の容疑者です。大山は長崎の五島から職工として東京に働きに来ています。 島の狭いコミュニティの中で育ってきたので、なかなか外の世界に踏み込んでいけない弱さを持っています。小心者でいつも人の態度を気にしており、1人にされることを恐れています。
――1人にされることを恐れているというのはどういった場面に出てきますか。
捜査中に大山がぐずぐずした態度をとって部長さん達を困らせてしまい、見放されそうになるときがあります。そのときに部長さんに必死にすがりつくというところに見られると思います。
――このキャラクターを演じていて好きだと思った瞬間はありますか。
大山のバックグラウンドはかなり自分とはかけ離れていますが、小心者というところはけっこう近いと感じています。また、大山は1人になりたくないがためにどんな恥でもかき捨てる人なので、見ていても面白いですし、演じていても楽しいです。
―― 練習していて大変だなと思うことはありますか。
全体的に怒涛のようなマシンガントークを通して話が進んでいくので、それに付いていくために話を芯から理解しないとならないですし、その上で自分が大山だったらどういう反応するかということを掘り下げていかないといけないところが大変です。
▲隅田穂乃花さん
――劇の中ではどのような役を演じますか。
私は、熊田エリ子という刑事の役を演じます。熊田エリ子は富山でずっとエリートだった刑事で、野心を抱いて東京に上京してきます。上京先で配属されたのが木村伝兵衛刑事という曲者の刑事のもとで、彼女は今回の事件の捜査をしていきます。性格は、もともと富山の男社会で育ってきたので、ものすごく野心家で、怒鳴ったりするなど荒っぽい部分があります。その一方で、犯人にしっかりと向き合って感情をくみ取ってやろうとしたりする人情に厚い一面もあります。
――キャラクターを演じていく中で、共感できる部分などありますか。
自分は大学に入るまでは高知県で育ち、東京に来るときに田舎にいろいろと置いてきたという過去があって、そこが自分の役と一番リンクします。劇中で熊田が故郷のことを考えるシーンがありますが、そういうときに自然と自分の故郷のことを思い出して、その感情を落とし込んで表現しています。そういった共通点が、自分が熊田に愛着を持つ所以にもなっています。
――練習していて、大変だと感じることはありますか。
熊田という立ち位置が、劇の中で一番お客さんに寄り添っていなければいけないというところが大変です。他の役者さんがぶっ飛んだ役柄で、おかしな状況を作り出してしまうので、そのときにお客さんが置いてけぼりを食らわないようにツッコミを入れるという役割が私に課せられています。お客さんが熊田の目線を通して共感するためには、どういう動きや表情をしたらよいのかということを計算し尽くして、練りこんで、アウトプットすることに苦労しています。
――それは自分だけで表現できることではないですからね。
そもそもその役割が熊田にあるということも人に言われなければ気づかなかったですからね。熊田は熊田で好きにやっていいと思っていたので、少し前まではもっとぶっ飛んだ人だったんです。それが、このままだとお客さんの共感がない、寄り添える人がいないということを指摘されて、それができるのは熊田だということでツッコミ役として意識するようになりました。
▲Rさん
――劇の中ではどういった役を演じますか。
私は演じる水野朋子は、木村伝兵衛部長の部下です。とにかくセクシーで、他の3人の役柄が男臭い中、お色気担当として1人華を添えるという役でもあります。自分が女であることを非常に誇っていて、特に部長に対して言い寄ったりするシーンはよく見られると思います。
――キャラクターで好きなところはありますか。
今までの自分の人生経験では出てこないセリフが多いので、新しい世界を覗き見ているような感じです。また、彼女がドラマチックに型にはまった行動をする点は面白く、部長にいきなりお姫様抱っこをされたりします。2人は10年の付き合いという役柄なので、どうでもいいところでぴったりと息が合って、熊田などを翻弄するシーンは非常に楽しいです。
――練習していて、ここの表現が難しいとか、大変だなと思うときはありますか。
やはりお色気担当というところです。普段あまり女性らしさを考えて生きてこなかったので、私の今までの素の立ち振る舞いなどを一度見直して、例えばどうやったら大人の女性の余裕を出せるんだろうと考えることが私の課題でしたね。
――ありがとうございました。
▲通し稽古の様子 南部俊人さん—左 Rさん—右
▲通し稽古の様子 隅田穂乃花さん—左 大宮友子さん—右
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劇団黄河砂「熱海殺人事件」
1/13 (日) 15:00開場 15:20開演
1/15 (火) 19:00開場 19:20開演
1/16 (水) 19:00開場 19:20開演
場所:ICUディッフェンドルファー記念館東棟オーディトリアム
値段:前売り400円 当日500円