「私」を軸に育てる対話へ ~ 2023 Rethink ICU 開催目前インタビュー ~

 「2023 Rethink ICU」(以下、Rethink)が、5月13日(土)に開催される。Rethinkは昨年度4月に開始した、有志学生と大学との協同イベント。第一回開催当時、コロナ禍を経験した今のICUを知りたいという目標のもとに企画を進めていたWeekly GIANTS Co.(以下、WG)は、Rethinkに関する記事を複数掲載した(開催前のインタビュー記事、開催後の批判・意見記事はThe Weekly GIANTS ONLINEに掲載)ほか、イベント当日には紙版号外を配布した。昨年度、多くの批判や意見のあったRethinkは、今年度どのような目標を持ち、どのように変化を見せるのか。今回は、2023 Rethink ICUの主催メンバーに話を伺った。

※インタビューは再構成済み

今回インタビューした人

副田優喜 Fukuda Yuki(ID25)

哲学・宗教学メジャー、経営学マイナー。昨年度はパネルディスカッションを担当。趣味は茶道、SMAP、ポーカー等。今年度ポーカーサークルを立ち上げた。「父親の愛車であった、ロータリーエンジンを最後に搭載した市販車、マツダRX-8にいつか乗りたい」。

山根早稀 Saki Yamane(ID25)

化学メジャー、メディア・コミュニケーション・文化(MCC)マイナー。昨年度はD館オーディトリア厶(講堂)で開催されたプログラムの舞台監督を担当。ICU Angels(チアリーディング部)所属。マツダ本社のある広島県出身で、親戚の多くが自動車業界に勤める。「マニュアルしかないでしょう」という周囲の勧めもあり、限定なしの普通免許を取得。日本酒と赤ワインが好き。「味を記録したり、酒屋さんに通ったりもして、知識を広げていきたい」。

伊藤至人 Ito Michito(ID25)

政治学と哲学・宗教学のダブルメジャー。昨年度は一般学生として参加。研究テーマは、(「お金にならないですけど……」)政治理論・思想のあたり。副田さんとは野尻キャンプ*¹で出会う。「皆さん車の話をしてましたけど、僕はちょっと免許を持っていないので……とろうとはしてますけど。野尻の宣伝をさせてください」。


*¹野尻キャンプ:夏季休暇に野尻湖周辺で開催される名物キャンプ。国際基督教大学同窓会発行のAlumni News Vol.125(2016年)における特集(Web上で閲覧可能)のほか、体験談はWGの過去記事から確認できる。5月15日(月)からのICU C-Weekでは、初日18時からキャンパス内キャンプ場にて、キャンプファイヤーを開催予定。今年度の本キャンプへの応募は、5月26日(金)〆切。詳細、応募フォームは公式インスタグラム等のSNSを確認されたい。

ーーはじめに、三人が今回スタッフとして参加した経緯や心意気を聞かせてください

ID25を中心に、今年度こそ「対話」を

副田:昨年スタッフとして参加して、やはりもう一度携わりたいなと。Rethinkはただ話すだけのイベントだけれど、そのために集まるっていう、あまりない機会。こういう企画を続けられたらと、引き継ぎました。昨年はID23のスタッフが中心でしたが、自分を含めたID25もいました。そのメンバーで、またイベントを続けていきたいよねと話していて。伊藤さんも自分の知り合いだったり、ID25を中心に集めました。

 昨年と同じだったらつまらないし、やはり反省もあって。昨年パネルディスカッションの司会をした時は、「放送ギリギリの対話」と掲げていたけれど、その放送ギリギリに応えられなかったというか。あの場でやっていたことは対話じゃなかったと思ったんです。対話って、自分という主体がいてからこそ成り立つもの。昨年度は自分から離れて何か「正しい人」が言う「正しさ」、ICUの在り方みたいなものを話していたなって。理事長や学長の話を聞いて、学生もそれこそ「正しい人」としての話をしていたと思う。それはそれで面白いのですが、でも対話ではなかった。その鬱憤がキャンドルフレームで表れたりとか、WGに意見として書かれたり(当記事冒頭リンク集に掲載)とか、アンケート結果にもでていたりした。自分としては、自分が思う対話というものにもっと振り切りたいということが、昨年の問題意識としてあり、今年こそ試みたいということが軸になっています。

山根:私が昨年参加したきっかけは、Rethinkの発案者がインカレ学生団体の先輩で。その団体内で呼びかけがあった時に、ぜひやりたいですと。当初の「ICUを『再考』(Rethink)する」「(コロナ禍を経て)もう一度キャンパスに人が集まって、対話する場所にしたい」という理念に共感しました。イベント運営が好きだったこともあり、昨年度担当させてもらえた経験がすごく楽しくて。

 Rethinkはカナダハウス(旧学生寮の一つ)から始まったという経緯もあり、学生団体としてきっちりとやってるというよりは、人が人を呼んで皆でやろうという雰囲気。ギリギリではあったけれど、皆で助け合って、ある意味すごい温かみを感じながら運営をして。運営側もこのイベントを大事にしてやっていた。それで、来年もやろうと冬頃から副田さん等と話を始めて、今回の開催まで漕ぎつけました。

ーーなるほど。正直、昨年度のRethinkが終わった後のミーティングでは、スタッフの方々は結構燃えつきてしまった印象があったので、「あ、来年これ大丈夫かな……」と心配していました。

皆でつくりあげるRethinkを「ここから、もう一度」

山根:そうですね。でも、私が感動したのが、Rethinkをまた再考した「Re:Rethink」(スタッフに加えて、イベント参加者有志で今後のRethinkについて話し合ったミーティング)に、20人くらい来てくれたこと。伊藤さんもその時に参加してくれた一人です。皆でキャンドルを囲ってお話して。Rethinkについて、こんなに話してくれる人がいるんだな、こうやって集まってくれる人がいるんだなって、私はそれが嬉しくて。この出来事が今年も開催したいと思ったきっかけでもありました。昨年参加してくれた人から改めて「あのイベント良かったよね」と声を掛けてもらえたり、イベントの意義を皆で話し合えたりしたことが、今年に繋がったのだと思います。あの時は運営で疲れ果てていたけれど、ここからもう一度と。またできるとわかった時は嬉しかったです。

伊藤:私はRe:Rethink(上記)に参加した際に、「来年もやるならぜひ」とスタッフになりました。前回は参加者、今回はスタッフとしてイベントに参加する方は、他にも5、6人います。

ーーありがとうございます。ここから、イベント概要についてお伺いします。「2023 Rethink ICU」はどのように構成されているのでしょうか。

副田:少し複雑ですが、諸事情により事前に公開していた内容から変更がありました。大学側によると、10月にID27(4月・9月生)対象の新入生リトリートが開催される予定です。しかし、入学から10月までにリトリートなしに通学する必要のある4月生への配慮によって、プレリトリート(4月生対象)が5月13日(土)に開催されることになりました。そこで、Rethinkは前回のような二部構成(D館オーディトリアムでの発表やディスカッション等と、キャンドルフレーム)ではなく、今回は一部構成で実施することに決定しました。

 現段階では確定していないのですが、10月末のID27(4月・9月生対象)リトリートにおいても、Rethink ICUはイベントを予定しています。テーマをさらに再考したキャンドルフレームに加えて、昨年度行ったパネルディスカッションや演劇にも取り組めたら。アイデア段階ですが、WGとの特別号やちょっとした展示会も考えています。今回のキャンドルフレームが一連の流れを生むエネルギーになってくれたら、という想いです。

 話がそれましたが、13日開催の「2023 Rethink ICU」の主なスケジュールは以下の通りです。

【2023 Rethink ICU】5月13日(土)17:00~20:00

  1. Angels × Lambs コラボパフォーマンス
  2. Non-Verbal Activity
  3. UNBRAND パフォーマンス
  4. Candle Flame:4~5人1チームでキャンドルの灯りを囲み、対話を楽しむイベント
  5. リフレクション「1ヶ月後のICUに、あなたが残したい言葉」

*当日のスケジュール・内容は変更される可能性があります。

ーーはじめが、Angels(チアリーディング部)とLambs(サンバサークル)のコラボパフォーマンスですね。

山根:はい!私がチアリーディング部所属ということもあったのだけれど、「自分がいるICUにどんな人がいるんだろう」っていうことを考えたかった。自分がいつもいるコミュニティだけではなく、他のコミュニティやICU全体にどんな人がいるんだろうっていうところをもっとわかってもらえたらと。昨年はSmooth Steppers(ストリートダンスサークル)さんにパフォーマンスしていただいた経験もあり、人を呼び込むパフォーマンスで盛り上がりを加えたいとも思いました。加えて、サンバとチアがコラボすることって普通なくて。

ーー確かに、見たことないですね。

山根:練習からすごく新鮮でした。コラボパフォーマンスすることで、団体同士の横の繋がりが生まれる。さらに、自分がいるグループだけじゃないということを、パフォーマンスとして見せることで、何かまた新しい経験が生まれたら。パフォーマー自身もそうだし、見ている人にもですね。

副田:結構最初は思いつきだったよね。なんか、僕が音楽の知識もないのに、コラボしたら面白いんじゃないとか言って。

 でも、やはりICUの特性として、各コミュニティが小さいという点があるんです。他大だと規模の大きな団体が多く、コラボするだけで結構大変なものになってしまう。ICUは団体が小さいからこそ、やりやすい。

山根:うん。コラボしやすいし、コミュニティが狭くて居心地がいい分、そこに閉じこもってしまう傾向もあるからね。

ーーでは、”Non-Verbal(非言語的)”という部分がかなり気になる、二番目のアクティビティとは何でしょうか。「対話をする前に自分の、そして隣の人の感覚とを大事してもらうのが狙いです」とありますが。

他者を知るための ”Non-Verbal(非言語的)” コミュニケーション

副田:これも偶然なんですが。当初は同日の4月生プレリトリートにおいて、清水安夫先生(アーツ・サイエンス学科)と山内宏志先生(保健体育科)との協同で、キャンパス内をブラインドウォークなどを使ってアイスブレイクをしたり、そういった企画を予定していました。しかし、大学施設使用上の事情によってRethinkのプログラムの一つ、”Non-Verbal Activity”にて実施させていただくことになったという経緯があります。

伊藤:当初、清水先生が考えられていたのは、新入生の他者との相互援助をする機会があまりないというような今日の問題意識についてでした。5月になると精神的にもどんどん疲弊していく傾向があるとも言われる。清水先生は「そういう時に、学生同士の相互援助に対して意識する機会を作れたらいいよね」と、助け合いが可能な状態をつくるためのアクティビティを考えていらした。例えば、ブラインドウォークでは、片方の視覚認知が可能な人が、目隠しをしている相手を気遣いながら上手に誘導することによって、ハンディキャップをもつ人等の感覚を体験することができるし、かつ皆で相互に援助するということを考えることもできるというようなことを仰っていて。僕はこれは対話のルールにも繋がるんじゃないかなとか思っています。

ーーなるほど、ありがとうございます。キャンドルフレームには、昨年度からの変更点等はあるのでしょうか。

コロナ禍を超えても、拭えなかった「孤独感」

「正しさ」や「理論」より、「私」を軸に

副田:根本というか、コンセプトから昨年とは異なります。それがキャンドルフレームの「問い」やそこでの「対話のルール」にも表れていると思います。昨年のRethink ICUの発端はコロナ禍を経た4月、様々な活動再開できそうな段階に至った頃でした。問題意識は、当初のICUで失われたものがあり、特に「対話」というものが失われてたというところにありました。「もう一度対話を取り戻そう」取り戻すなかで、「ICUで変わらないものってなんだっけ」という、その普遍性を探ってたんです。

 それを振り返ったとき、冒頭で述べたように、やはり自分という軸がないイベントになってたなと。あれから、部活や授業が対面で再開したけれど、意外と孤独感のようなものが拭えられてないなって感じたんです。ICUで色々再開してたとはいえ、そこに救いのきっかけはなかったのかな。孤独感を拭う要素はそこになかったんだなって。で、何が違うんだろって考えたら、ICUだと授業において「正しさ」や「理論」を基に話をしていて。その際に自分ってものを一度置いて、「正しいもの」という軸で話しているからではと思ったんです。部活やサークルで悩み事を話せる人は話せるかもしれないけれど、自分は一部の人にしか話せていないな思っていて。その輪をもう少し広げていけたらというのが、今年度の想いです。

 拭いきれなかった孤独感を解消したいという理由があったからこそ、そこでは「正しさ」を話すよりも、自分の本音だったり、感覚だったり、正直な部分を話す場を用意できたら。そうして、共感できたり、価値観やものの考え方、雰囲気を共有できたりする人と出会えたら、その人が孤独っていうものを拭ってくれる人になるのかなって。そこが去年からの問いというか、改善点というか。昨年の「ICUの在り方」や「本来あるべきICUってなんなんだろう」とは異なり、今年は「私の思う瞬間」や「私がなりたい」等の、「私」が軸になっています。

山根:昨年は理事長のスピーチやパネルディスカッション等、講堂で聴講した後にキャンドルフレームをする流れでした。だから、ICUの在り方や、講堂で起こったことについてということに議題が持っていかれてたんだと思います。一方で、今回はキャンドルフレームだけ。本当に対話を中心としたイベントにしたいので、より話しやすいように、「問い」や「ルール」も工夫しました。

ーー対話の「問い」は話しやすいものも、語りがいがあるものも、どちらも用意されていますね……。最後に、リフレクションについて質問です。あえて聞かない方が良いのかも知れませんが、「1ヶ月後のICUにあなたが残したい言葉」を手紙に書くというアイデアはどのようにできたのでしょうか。1ヶ月後というのも絶妙ですよね。

「ICU」での私を、手紙に記して

副田:前から、最後には手紙書こうと言っていて。昨年のRethinkが終わった後に、自身の友達や先輩の感想や考えたことを聞けたことは嬉しかったんです。でも、イベント自体が鮮やかな印象で、そんなRethinkっていうイベントに出られたというだけで、消化してしまった人もいるのではないかなと。運営として「良いイベントだった」と言われることは嬉しいけれど、やはり一過性で済ませてほしくない。ならば、Rethinkの最後に再考したことを言葉で残してもらうっていうという行為を加えたら、考えたこと、話し合えたこと、対話できたことがもう少し残せるのではないかと思って。

 今年のRethinkには「私」と「ICU」という二つの要素がある。キャンドルフレームの問いが「私の」で始まるように、対話では自身の経験・感覚を話してもらいたい。一方で、「ICU」という存在も埋没させたくない。大学生としての「私」、家族のなかの「私」、友達との交わりでの「私」とか、様々な私がありますが、ICUにいるという形容詞というか、枕言葉が消えないように。Rethinkに集まる人はICUで何年かを過ごす人。そのICUという場所で「私」について話し、ICUで残したいことを書いてもらう。そうすることで、「ICU」という要素に戻ってもらい、「ICUで生きている」というように思いながら帰っていく。そんなのはどうかなって、一昨日くらいに考えました(笑)。

 以上、WGは開催目前「Rethink ICU」のスタッフへインタビューを行った。対話への道を探るため、2回目にして幾度も話し合いを重ね、工夫を考え続けるRethinkに大きな希望を感じている。開催は、5月13日(土)17時から(事前予約制)。詳細は、以下に掲載する。是非、多くの人に参加していただきたい。

2023 Rethink ICU 概要

  • 日程:2023年5月13日(土)17:00-20:00
  • 場所:フィールド(テニスコート・新々寮脇、人工芝フィールド)
  • 対象:ICU在学生・教職員・その他、ICUコミュニティに属する方

参加方法

  • 申し込み〆切:2023 年5月12日(金)21:00(9日〆切から訂正)
  • 応募方法:下記、或いは公式インスタグラム(@rethink_icu)からグーグルフォームを入力・送信

※プレリトリートに参加するID27生も応募必須です。

※基本的には17時から20時までの全てのプログラムに参加することを推奨。パフォーマンス鑑賞のみ・キャンドルフレーム参加のみの希望や、途中入場/退出希望等は各自フォームの備考欄、或いはメール(rethinkicu2023@gmail.com)で事前にお問い合わせください。

【Sylvie】


副田のコバナシ ~『君に友達はいらない』と Rethink ICU ~

 今回のインタビューのはじめ、自己紹介の際に「好きな本」を聞かれました。思い出したのは『君に友達はいらない』(瀧本哲史著)。著者はエンジェル投資家の方。昨年度のRethinkの前に読んだんです。その時、この内容っていまRethinkのチームでやってることと繋がっているのでは、と思って。ICUは批判的思考を重視していると言われるけれど、それでも枠組みは決まっているというか、それこそ「多様性を尊重すべき」だとかあると思うんです。この本には、それでもその思考の枠組みみたいなものを外して、まずは自分の思うこと・考えることを根本的にラディカルに考えよう、というようなことが書いてあります。そういう風にチームビルディングをしていくなかでは「友達」と呼ばれるものはいらなくて、「仲間」が必要になると。批判する訳ではないけれど、例えば環境保全に関する学生団体等においては、自分の感覚や思考を一旦置いておいて、「とりあえず環境に良いことが全て」というような傾向があるように思える。プラスチックのストローから紙のストローに変えて、飲んだ感覚に味を少し阻害するものがあっても中々言えないだとか。そこで、より正直にというか、ただただ紙にすれば良いのではなく、美味しい紙のストローを考えようと言えたら。「仲間」ってそういったラディカルなものまでも語り合える存在であり、そういう「仲間」を見つけるべきだと、同著を通じて考えました。Rethinkでは、カナダハウス等でとことん正直に話し合ってこられたと思うんです。こういったもの、ところから、対話というものが生まれていくのかな、なんて思います。好きな本でもあり、Rethinkと深く繋がる一冊ですね。

【聞き手・Sylvie】

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